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2.エリナーの家族

 家庭教師を見送ったエリナーは、自室の窓枠に頬杖をついていた。メイドに夕飯の時間までもう少し掛かると言われたエリナーは外を見ながら考えごとをしている。 


 「魔法かあ、ふふふ魔法が使えるんだあ、へへへ」


 側に付いていたメイドが心配そうにエリナーを見た。自分が仕えているお嬢様が独り言を呟きながら笑っているのだ。なんて不気味な光景だろう。口には出せないが。


 「今日のお勉強は楽しかったですか?」


 「うん!とってもわくわくしたよ!魔法が使えるなんて知らなかった!」


 「旦那様達は魔法が使えますけれど、お嬢様の前では魔法の使用を控えておりますからね。」


 「ええ?どうして?」


 「お嬢様が真似をされては危険だからです。」


 なるほど。エリナーは納得してしまった。エリナーは同じ歳頃の子供たちより行動力ありと好奇心が旺盛で、興味を持ったらすぐに飛びついてしまう。両親と兄達の苦労は絶えない。

 メイドとたわいの無い話しを続けていると、屋敷の門が開かれるのが見えた。兄たちが学院から帰って来た様だ。エリナーは椅子から飛び降りて部屋を出る。


 「お兄様達をお出迎えしてくる!」


 「お嬢様!走っては行けません!」


 メイドが慌ててエリナーに注意をしたが、エリナーはすでに廊下に出てしまっている。


 屋敷の玄関が開くと、1番目と2番目の兄が上着を脱いでいるのを見つけたエリナーは1番目の兄に思い切り飛び付いた。


 「お兄様!おかえりない!」


 飛ぶ矢の様に抱きついて来たエリナーを、1番目の兄であるエドワードが力強くエリナーを受け止める。


 「ただいまエリナー。今日は家庭教師の日だったろう?楽しかったか?」


 エリナーがエドワードに応えようとすると、2番目の兄であるサイラスがそれを遮る。


 「エリナーは俺には出迎えの挨拶はないの?」


 「忘れてわけじゃないよ!サイラスお兄様もおかえりなさい!」


 「ただいま、エリナー。それで、どうだった?」


 エドワードに抱っこされながら、サイラスから額のキスを受けたエリナーは嬉しくてえへへと笑った。前世では兄弟がいなかったから、エリナーは自分を甘やかしてくれる兄達が大好きだ。そんな兄達に教養はいまいちつまらなかった事、魔法の授業に大変興味を持った事を兄達に伝える。


 「エリナー、バイロン家は魔法が得意な家系ではないぞ?俺達も2人とも騎士科に通っているしな。」


 「レベッカに教えてもらったから知ってるよ!でも私頑張る!」


 「どうしてそんなに魔法を使える様になりたいの?バイロン家で魔導師になった人はいないんだよ?」


 サイラスは心の底から不思議そうな顔をしていた。まさか自分の妹が異世界転生者で、前世の世界では魔法を使えるのはフィクションの世界の住人だけだったから実はずっと魔法に憧れていた。とか言えるわけがない。

 エリナーがサイラスに言われた言葉に頭をぐるぐるさせていると、馬車の音が聴こえる。きっとお父様と3番目の兄が帰って来たのだ。家長が帰って来たので、執事長とメイド長がエントランスに出てきて屋敷の玄関を開けた。


 「「「お父様!(父上)、おかえりなさい。」」」


 子供達が揃って自分を出迎えてくれた事に驚きと嬉しさを感じつつ、エリナーの父、アレクはエドワードの腕に収まっていたエリナーを抱っこした。


 「ただいま子供達、どうして今日はみんな揃ってのお出迎えなんだ?」


 「エリナーがお出迎えをしてくれたので立ち話しを、、、」


 エドワードが状況を説明しようとすると、割って入る者が来た。エリナーの母、オリビアである。


 「あら、旦那様にエドワードとサイラスにイアンもおかえりなさい。エリナーもいたのね?どうしてお揃いなのかしら?」


 オリビアはアレクに寄ってきて2人はキスを交わした。


 「今その理由を説明しようとしていたところですよ。母上。」


 「そうなのね、遮ってしまったかしら、、、」


 オリビアが申し訳無さそうな顔を長兄に向けると、三男のイアンが騒ぎ始める。


 「俺の存在に気付いたのは母上だけかよ!エリナー!俺にもお出迎えの挨拶は?」


 エリナーと長兄と次男は気づいていないわけではなかったが父のアレクの方が優先だったのだ。三人共後で三男にも出迎えの挨拶をする気でいた。 


 「イアンお兄様もおかえりなさい!」


 エリナーは父の腕の中からイアンの頭に手を伸ばして、額にキスをした。


 「ただいまエリナー!」


 イアンは満足気である。するとオリビアはイアンに、言葉遣いについて嗜め、それを見て兄2人は笑っていた。


 「皆さま、お食事の用意が出来ました。」


 メイド長がそう告げると、オリビアは忘れていた言う様にハッとした顔して皆に食堂へ行く様に促した。 エリナーの母オリビアは癒し系の美人でおっとりし過ぎているところがあり、用事をすぐに忘れてしまったりする事がある。なので父は使用人を選ぶ際、自分がいない間の家を任せられる様なしっかりした者を選んだので、この屋敷の使用人は真面目で堅物そうな人ばかりである。自分で選んだ使用人達ではあるが、父は愛妻家で子煩悩な男なので、自分が家にいない時はハラハラしているらしい。母はそれくらいおっとりだ。


 「おまえ、また何のようで私達を呼びに来たか忘れていたね?」


 「あら、何のことかわかりませんわ。」


 とぼけた母を横目にエリナーは父の腕から下りて、何やら賑やかにしている兄達の方へいく。食堂に着くと、いつもより少しだけ多く料理が並べられていた。


 「おや?なんだかいつもより豪華じゃないか?」


 「エリナーが初めての家庭教師の日でしたから、料理人が腕を振るったようですよ?」


 「相変わらず、使用人たちはエリナーに甘いですね父上。」


 サイラスの言葉に父のアレクが相槌を打つ。そして、エドワードとサイラスが父と母に学院であった出来事を報告した。話し終えると、エドワードがエリナーの話しをする。


 「父上、我が家の末っ子は魔法に興味深々らしいですよ。」


 アレクは咳き込み、オリビアはあらと言いながらアレクの背中をさする。


 「エリナー?どうして魔法に興味を持ったの?」


 「だってお母様!魔法が使えたら火をばーってやったり風を起こして空を飛んだり出来るでしょ!!」


 エリナーが身振り手振りを付けて話すと、食堂にしばらく沈黙がおり、最初にサイラスがくっくっと笑いだし、次いでオリビアがうふふと微笑んだ。


 「エリナー、お前は本を沢山読んで語彙力を身につけなさい。後、魔法がそこまで自由に使えるようになるまでは大変だぞ。」


 「そうだぞ、エリナー空なんか我が家の爵位で飛べるわけないだろ!」


 「え?そうなの?!」


 イアンが衝撃的な事実を口にしたので思わず椅子の上に立って大声をあげてしまった。


 「バイロン家は魔法陣の容量が大きくないからな、、、所詮一昔前の戦で成り上がった成り上がりだし、、、」


 父が物悲しそうに応える。


 「風魔法は使えるけど木を倒すくらいの事しか出来ないぞ。」


 「エリナーなら軽いから飛行出来るかもよ。」


 相変わらずサイラスが笑い声を押し殺しながら冗談を言う。すると長兄のエドワードがサイラスを嗜めた。


 「余計な事を言うんじゃないサイラスそれは飛行じゃなくて飛ばされていると言うんだ。」


 「そうよサイラス、本当にエリーが自分の体を吹っ飛ばしたらどうするの。」


 長兄に続いてオリビアにも注意されたサイラスは、流石に笑うのを止めて咳払いをした。


 「確かに。失言でした。」


 「うん、そうだな。エリナー、絶対にそんな事をしてはいけないぞ。」


 父がサイラスの言葉を認めて、エリナーに念を押す。エリナーとしては、未だ魔法の使い方すら教えてもらっていないのに空も飛べない、そもそも魔法の力も強く無いなんて事を知ってがっかりである。


 「エリナーが吹っ飛んだらみんな悲しむぞ、、、」


 未だ10歳の兄イアンは小さいエリナーが吹っ飛ぶ所を想像して本気で心配して暗くなっている。イアンは感情の起伏が激しく口は悪いが、エリナーを大事にしてくらているのだ。


 「そうだなイアン、俺もそう思うよ。」

 

 優しくイアンに同意したのは長兄のエドワードである。彼は16歳でエリナーとイアンとは大分歳が離れている。アレクに似て、優しくてとても逞しい人であり、16歳にはみえない大人びた所がある。


 「イアン、不安にさせてごめんよ。エリナーも変な事言ってごめんな。」


 次男のサイラスは見た目はオリビアに似て線が細く見えるが、冗談と意地悪な事を下の兄弟によく言っては父や兄に怒られている。それでもイアンとエリナーを大事にはしている。


 「大丈夫だよお兄様達は心配し過ぎだよ。未だ上手く魔法が使えるかも分からないのに、、、」


 あまりにも兄達が心配してくるものだからエリナーは幼いながらに気を使ってしまった。

 

 「そうだな。無駄な心配をしてしまった。おまえ達、過保護過ぎるぞ。」


 父アレクの言葉にエドワードが反論する。


 「父上にだけは言われたく無いですよ。」


 オリビアはくすくす笑いながらエドワードに同意を示す。アレクは意表を突かれた様な顔をして料理を黙々と口に運びだし、その姿にサイラスとイアンとエリナーも笑った。そこからはイアンが父と行った王都視察の話しをし始め、エリナーがその事について自分も王都に行きたいと言い始めた。アレクと兄達は困った顔をしてまだ駄目だ言い張ったが、オリビアが耳元で「今度お母様とお買い物をしに行きましょうね」と言われて、エリナーは嬉しくなった。


 楽しい食事が終わった後、サイラスが俺は余計な事を言ったからとエリナーを抱っこして部屋まで連れて行ってくれた。それを見てイアンは俺がもう少し体が大きかったらなとぶつくさ言い、エドワードは甘かやし過ぎだと言った。


 「可愛いエリナー、おやすみ」


 サイラスがエリナーの頬にキスをしながら挨拶をしてくれたのでエリナーもお返しのキスをする。


 「おやすみなさい、サイラスお兄様。」


 兄と別れた後、メイドがエリナーをお風呂に入れてくれた。この世界では朝に入るのが普通らしいがエリナーが夜に入りたいと言い張ったのだ。それからバイロン家では風呂は夜に入るものになった。


 お風呂から上がってエリナーの寝支度が済むと、メイドが部屋を後にした。1人になってベッドに入り込んだエリナーは、今日一日の事を振り返ってみた。家庭教師のレベッカの話しやお父様たちは魔法はあまり使えないと言ったけれど、でも、、


 「やっぱり魔法を上手に使える様になりたい。」


 エリナーは今度レベッカに会ったらまた、魔法について沢山聞いて、沢山練習して、すごい魔導師になって、みんなをびっくりさせようと決心をした。




 

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