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1.家庭教師と昔話

 7歳の誕生日を迎えたエリナーには、家庭教師が付く事になった。その家庭教師は美人で、ブルネット色の艶やかでサラサラの髪を後ろでまとめ、意思の強そうな瞳は深い青色。とてもしっかりしていそうな女性だ。年の頃は20代前半だろう。エリナーの生まれた王国では、貴族の子女には7歳になると家庭教師が付くのが常識だ。家庭教師は貴族の子女に最低限の教育を施してくれる。その教育内容の中にはなんと、【魔法】があった。そして、魔法を学ぶに際してエリナーは王国の全ての者が教わると言う話を聞く事になった。


《むかしむかし、世界に空もなく、海もなく、大地もなく、山もなく、森もなく、人もなく、動物もいなかった頃、世界の始まりには火の神様、風の神様、水の神様、土の神様がおりました。

 永い間4人しかいなかった神様たちは、いつまでも4人だけである事に飽きてしまい、何もないこの世界に自分たち以外のものを生み出そうと考えました。

 最初に土の神様が大地を創り、その後に水の神様が海を創りました。その後に、真っ暗な世界を照らそうと火の神様が太陽を創り、その後に太陽があまりにも強く大地を照らすものですから、風の神様が世界に風をおこして海の冷気をさらって世界を冷ましました。すると世界には雨が降り始め、大地から緑の芽が出始め、海には生命が誕生しました。

 それからは、全ての生命が勝手に成長をし始めたので、4人の神様は生命の成長を見守る事にしました。

 ある時、神様達に驚く事が起きました。それは、自分達にそっくりの姿形の生命が誕生したからです。頭があって、胴体があって、手足がある、それは『人』という生命でしたが、人は自分たちに比べて、他の生命と比べて余りにも弱く、このままでは人は滅びてしまうと、神様達は思いました。そこで、神様達は自分達に似た人々に愛着が沸いていたので、どうにか人を強くしようと思い、人々に自分達の力の一部を刻みこみました。それは、全ての人々に刻まれ、火、風、水、土の力を操る力を人々は得て、人は世界で1番強い生命に生まれ変わりました。

 自分達にそっくりな生命が強くなったからか、その後神様たちは世界に干渉する事を止め、何処かに隠れてしまいました。神様が隠れてしまった後、人々は4人の神様を壁画にしたり、石像を作ったりして奉り、文化を形成して、種族を沢山作りました。終わり。》


 「これが世界の始まりであり、魔法の起源です。神々が人に与え、刻みこんだ力は現在では魔法陣と呼ばれています。魔法陣はこの世の全ての人間が所有しており、得意不得意はあるものの学び、鍛錬すれば誰でも使える力です。」


 そう言いながら家庭教師のレベッカは、巻物に描かれている魔法陣をエリナーに見せた。魔法陣は立体的に描かれていて、球体の中には星形正八角形があり、三角の部分に一つ飛ばしで模様が描かれている。


 「この星形正八角形は、この球体の中で回転をしているそうです。」


 「自分の魔法陣はみられるの?」


 「魔法の道を究めた者たちを魔導師と言いますが、その者たちは魔法研究の為に自分の魔法陣を外に引っ張り出す事があるそうですが、普通はしません。」


 「ふーん?なんで?」


 「王国の全て民は魔法陣を失う事を恐れているからです。」


 エリナーはなるほどと思ったが、自分はこの年になるまで魔法の存在を知らなかった。それはつまり、家族や使用人たちが魔法を使っていなからだ。


 「うちの人達は魔法を使わないよ?ていうか、魔法を使っている人を見た事ないよ!それでも魔法陣が無くなるのは嫌なの?」


 レベッカはやれやれ、という顔でエリナーの質問に応える。


 「バイロン家は男爵で元は騎士の家系ですから、エリナー様のお父上は魔法が得意な方ではありません。魔法の強さは血筋による所が大きく、先程鍛錬をすれば誰でも使えると説明しましたが、魔法をどれくらい使用して来たかは血に刻まれます。沢山魔法を使った人の子孫ほど強い魔法を使えます。」


 ふむふむとエリナーは相槌をうつ。


 「ですから、同様にエリナー様の兄上方と、同じ爵位を持つ男爵家から嫁いでいらしたお母上も魔法が不得意でいらっしゃいます。ですから、男爵領から出た事のないお嬢様は魔法を使う人を見た事がないのでしょう。」


 レベッカは説明しながら、基本的に無表情な顔に気の毒そうな表情をエリナーに向けた。

 エリナーの両親と兄達は、ようやく生まれた末っ子の女の子のエリナーが可愛くてしょうがないらしく、とても過保護で、エリナーを領地から出そうとしなかった。バイロン家は貴族と言っても爵位は最下位で王都から少し離れた場所に村を5つほど持つだけ。これでも男爵家にしては多いらしいが、そんなに広い領地ではない。7歳とはいえ王都がすぐ近くにあるにも関わらず狭い領地の外に出してもらえなかった少女を、レベッカは憐んでる様だ。


 「ご家族だけではなく、領地の中でも見た事がないのは自由民の大抵が魔法の扱いが不得意だからです。それは、彼らの祖先があまり魔法を使用してこなかったからですが、そもそもこの王国では自由民の次に貴族が、貴族の次に王族の方々が強い魔法を使えます。それは、今の特権階級にある方々がこの王国を作り、王国の民を魔法で守って来たからです。しかし、自由民と貴族の間には魔法の強さに大きな開きがあります。」


 「じゃあ自由民に魔法が得意な人はいないの?」


 「いいえ、その様な事はございません。自由民でも1代で魔導師になる者はおります。魔法に対してかなり情熱がないと出来る事ではありませんし、自由民には貴族の子女と違って家庭教師が付きませんから魔法について学ぶ機会に恵まれない者が大半です。」


 2つほどの質問がこんなに長くなるものとは思わなかったので、エリナーは聞き疲れてしまった。それに気づいたレベッカは休憩を申し出ててくれた。


 「ありがとう!レベッカ!」


 レベッカが鈴を鳴らすと、領地の村から奉公に来ているメイドがお茶とお菓子を運んで来てくれた。


 「お嬢様、初めてのお勉強はいかがですか?」


 「楽しいよ!でもちょっと疲れちゃった。」


 えへへ、とエリナーが応えるとメイドは「まあ」と微笑みながら応える。バイロン領ではエリナーは相当可愛がられているので、メイドの対応も優しい。エリナーは愛着が湧く可愛いさを持っており、加えてとても好奇心旺盛な少女なので屋敷に籠ったりはせず、暇な時は村を訪ねてあれはなんだこれはなんだと村人に質問して回るので村人との交流が多く、高嶺の花を気取らないので領民によく愛されている。


 「では、失礼致します。レベッカさん、初めてなのですから余りお嬢様に無理をさせないで下さいね。」


 メイドがレベッカに釘を刺して出て行く。レベッカはこのお嬢様は手掛かりそうだと思った。エリナーは魔法の科目から好奇心旺盛に質問する様になったが、それまでの教養科目はつまらなそうにしていた。しかも、家族と使用人がモンスターペアレントと来ている。レベッカは愛想はあまりないものの評判の良い家庭教師で、人はよく彼女を才色兼備の人だと評し、本人も自分は1人で全ての科目を教えらる事を誇りに思っていた。ただ、行き遅れてはいるが。


 「ではお嬢様、質問の答えを中断してしまいましたが、休憩前の説明は覚えていますか?」


 「えーと、魔法は王族や貴族の人の方が上手で自由民の人は下手でお父様やお兄様たちは下手なんだよね?」


 レベッカは咳払いをする。


 「まあ、そんな感じです。お嬢様はどうして魔法を使用しないのに魔法陣が無くなるのは嫌なのか質問されましたが、最初に話した昔話を覚えていますか?」


 エリナーは頷く。


 「では説明しましょう。昔、神々は人々に力を与えました。それは魔法の事です。魔法陣を与えられた人々は神々を敬い、崇めています。神々から力を頂いた事で、人という種族は完成したのです。ですから魔法陣を失い、魔法が使え無くなった人は人として未完成だという事になり、一昔前の戦までそういった人々は見下され、人としての扱いを受ける事が出来ませんでした。しかし今は、法律でそういことはしてはいけないと決まっているので、もし魔法陣を失っても奴隷に落ちたりは致しません。ただ、魔法陣を所有している事は人という種族の誇りだという事に変わりがないので、魔法陣を失う事は未だに誰もが恐れている事なのです。」


 エリナーは小さい頭でどうにか理解しようと努めた。異世界転生者で前世の記憶があるとはいえ、肉体年齢も精神年齢も7歳の子供である。なので、難しい事を言われると頭が混乱してしまう。考え込んでしまったエリナーを見てレベッカは心配になった。


 「やっぱり今の話しは難しかったですね。今は全てを理解出来無くても、歴史や法律など、他の教養を身に付ければ自ずと理解できる様になるでしょう。」


 エリナーはこくんと頷いた。

 レベッカの言う通りだ。いくら前世の記憶を持っているからと言ってこの世界の知識を持っていなければ理解出来ない事が沢山ある。


 「レベッカの言う通りだね。」


 「そうですとも。では、先程休んだばかりではありますが今日はお終いにしましょう。エリナー様はお話しを聴くだけでは無く、沢山考える事もしていた様なので疲れたでしょう。」


 レベッカはエリナーの頭を撫でながらエリナーを労る。


 「レベッカ、さようなら。また明日ね?」


 また明日、と応えてレベッカは男爵邸を後にした。エリナーの家庭教師になる時、レベッカは王都の実家を出てバイロン領に小屋を一軒借りた。一階建てだが、ロフトが付いていて、台所とお風呂場、暖炉、ベッドがある。全てバイロン家が貸してくれた物で家庭教師に対する待遇としては充分過ぎるほどだ。家に帰って食事をとりながらレベッカは考え事をする。


 こんな生徒は初めてかも知れないと、レベッカは思った。未だ7歳になったばかりの少女が魔法科目だけとはいえ熱心に質問したり考えたりするのは珍しい事だ。他のお嬢様たちは音楽や美術から興味を持つ者が大半だから、その点でも珍しかった。もしかしたら、エリナーは面白い生徒になるかもしれなくてレベッカはワクワクして来たのだ。

 

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