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15.ヘレナ

 「お前たちを大いに気に入った!困ったらいつでも我が家に来ると言い!お父上にもそう伝えてくれ!土産も沢山バイロン家に贈っておくから楽しみにしておけよ!」


 「「ありがとうございます!!」」


 エリナーたちはヴェルザーの屋敷を出ると宿に向かっていた。ちなみに四兄弟たちはヴェルザーに手土産を貰ったので、上の兄の両手は塞がっていた。その様子をみていた使用人は後でヴェルザー夫人に告げ口をし、夫人は夫の気の利かなさを責めたが、バルトロは、


 「なに、日頃から鍛えている騎士達なのだからあれくらい軽いもんさ」


 と笑った。それに対して夫人はしみじみ夫があの子供達を気に入ったのだと理解した。


 「本当にバイロン家のご子息が気に入ったんですねえ。」


 「奥様、旦那様は特に小さいお客人たちを気に入っていましたよ。そういえば、イアン様はバルトロ様の弟様の幼少期に似ている気が致します。」


 昔からの使用人はバルトロの子供時代を懐古し、微笑む。


 「あら、だからかしらねえ」


 「いやいや、あの子たちは将来皆何かを成し遂げる気がするぞ。商人の勘ってやつだな。でも確かに…」

 

 ふとバルトロはエリナーの挨拶を思い出す。


 「どうしたの?」


 「いや、何でもないさ。」


 兎に角、バルトロはバイロン家の人々が気に入った。まだ会った事ない奥方もきっといい方に違いない。きっと自分の妻とも気が合うだろう。


 

 「面白い話が沢山聞けましたね。兄上」


 「ああ、そうだな。お前は商人にも向いてるんじゃないか?」


 「悪くないですね。いつか副業として手を出すのはありです。」


 上の兄たちがヴェルザーから聞いた話で盛り上がっていた頃、エリナーはお土産にもらった貝のネックレスに夢中になっていた。


 「綺麗だなぁ、お花も綺麗だけど、貝殻もいいなあ!」


 るんるん気分でイアンの横を歩いていると、エリナーは後ろから男にぶつかられる。


 「きゃっ」


 エリナーはバランスを崩してしまったが、隣を歩いていたイアンがエリナーが転ぶのを阻止した。髪の長い男がエリナーにぶつかったのだ。


 「エリー大丈夫?なんだよあの男!」


 「イアンお兄様!ちょっと怖かったけど、大丈夫、、、」

 

 イアンはエリナーが震えているのを感じてぎゅっと抱きしめた。しかし、エリナーの様子がおかしい。あの男が去った方向をずっとみている。


 男はイアンがエリナーを呼ぶ声に真っ黒な髪に隠れた耳をぴくりとさせた。そして、エリナーとイアンは気づいていなかったが、髪の長い男はいつの間にか二人の後ろに立っていた。


 「この者たちは…」


 そして男はエリナーの頭にそっと触れて呟く。その声をイアンは聞き逃さなかったが何故か振り向く事が出来なかった。


 「ヘレナ様」


 男は不可解な行動をするとすぐにその場を離れた。

 イアンようやく体が動く様になり、後ろを振り向くがすでに男はどこにもいなかった。

 

 「エリナー、早くお兄様たちのところへ行こう」

 

 イアンが話し掛けてもエリナーは反応しなかった。 


 「エリー!エリナー・バイロン!!大丈夫か!?」


 いくら名前を呼んでもエリナーの瞳はどこか遥か遠くを見ている。

 そしてイアンが途方に暮れていると、エリナーはゆっくりと歩きだす。イアンは急いでエリナーの腕を掴んだ。


  「エリナー?どこに行くんだ?」


 話しかけた瞬間、周りの景色が反転した。一瞬何が起こったのかと思ったがすぐに正常な視界を取り戻した。兎に角、兄たちと早く合流しなければと前の方を歩いているはずの兄たちを探す。しかし、見渡した風景は先ほどまで居たはずの場所とは異なっていた。


 「あれ?ここはどこだ?」


 「イアン、どうしたの?」


 頭上から大人の女性の声がする。優しくて、水滴が水面に落ちる時にする音によく似た声だ。見上げるとそこにいるのはエリナーと同じ髪の色をした綺麗な人だった。

 

「あ!ごめんなさい!」


 イアンは意味が分からず混乱していたが、知らない女性の手を離さなければならない事だけは理解出来たので、素早く手を離して頭を下げた。イアンはエリナーの腕を掴んだはずなのに、どうなっているんだ。


 「イアン、貴方どうしたの?もうお母さん離れしちゃうのかしら?」


 「え?」


 いきなり母親を名乗られれば普通、相手の女性の精神に異常を感じるが、イアンはどうしてか目の前にいる女性が頭のおかしい人だとは思えなかった。それどころか、「なんでもないよ、母さん」と答えてしまう。その時からイアンは自分の体が誰かに乗っ取られている様な状態になった。


 「母さん、今日父さんは帰ってくるの?」


 「さあ、どうかしらね?でも、、、」


 ヘレナさんが言葉を続けようとすると、横から露店の主が声を掛けてきた。


 「ヘレナ様!今日はどんな御用でこちらに来たんで?」

 

 「守護石の様子を見に来たの。あの人の魔法は完璧だけれど、一応ね?」


 「それはそれは、ありがとうございます!ぜひうちで食事をして行ってくだせえ。」


 「それでは帰りに寄らせていただくわ。」


 ヘレナさんとイアン少年は、街の外れにある石造りの小さな建物に辿り着いた。中に入ると部屋の奥に大きな宝石が飾ってあった。


 「なんであそこにただの宝石が飾ってあるの?」


 「あら、よく気がついたわね。」


 彼女が言うにはこの宝石にはダミーの役割があるから魔法の痕跡が残っているらしいので、よっぽどの事がない限りこれが本物の守護石ではないと見破ることは出来ないそうだ。イアン少年の姿はイアンには見えなかったが、胸を張っているのは視線で分かった。

 ヘレナさんは宝石がある台の後ろを手を伸ばすと、石と石が擦れる音がした。そしてその台が宙に浮かぶと、その下から10段の階段と、扉が現れた。


 「わあすごい!こんな仕掛けがあるなんて!」


 「そうよね!あの人は本当にすごいの。」


 ヘレナさんはイアン少年に対して誇らしげな顔を向けた。


 「はやく下に行こうよ!」


 2人は階段を降りて扉を開けた。その扉の先にはまたさらに階段があり、その階段を降りて行くとまた扉が現れた。ヘレナさんが扉を開けると、その先に上にある宝石とは輝きが異なる、宝石のような何かがあった。イアンにはそれが何か分からない。


 「あ、これはうちの島にあるのと同じ守護石だ!強い魔力を感じるよ!」

  

 ヘレナさんはうんうんと微笑みながらイアン少年の方をみる。同時に守護石に触れた。


 「うん、大丈夫そうね。」

 

 「守護石が喜んでいるみたいだ。前に父さんが言ってた、守護石は父さんの分身みたいな物だって。だからこんなに喜んでいる魔力を感じるんだね。」


 イアン少年の言葉にヘレナさんは少し照れた様子だった。


 「さあ、もう帰りましょう。イアン。あら、貴方、魂が…」


 ヘレナはイアンの頭に手をかざして何かを確かめている。


 「母さん、どうしたの?」


 「ちょっとだけ、悪戯をした子がいるみたいね。貴方は何も心配しなくていいのよ。」


 「また弟たちが悪戯をしたの?全くあいつらときたらもう。」


 「ふふふ、大した事じゃないのよ?イアン、母さんとおでこをコツンして?」


 イアン少年はヘレナさんのいう事を素直にきき、ヘレナさんの顔を優しく包み二人はおでこを合わせた。

 すると、いきなり世界はぐるんと反転した。イアンは何となく、元いた場所に戻るのだと確信したのだ。

 



 

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