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13.紳士の集い

 王都には貴族のためのサロンがいくつも存在する。その中には軍の関係者が集まるサロンもあり、バイロン家の当主であるアレクがその場所に現れるのは珍しい。

 

 「おい、アレク!こんなところでお前を見かけるなんて、珍しいこともあったもんだな。」


 顎に髭を生やした男がアレクに声を掛ける。


 「ああグラスか、たまにはな。」


 アレクに素っ気ない態度で応対された男はグラスといって、アレクと王立学院時代からの友人である。


 「ああとはなんだ、ああとは!全く冷たいやつだな。」


 グラスは大袈裟に肩をすくめてすぐにアレクの肩に抱いた。


 「愛妻家で有名なアレク殿がこんな場所に来るなんてな。奥方と喧嘩でもしたのか?」


 アレクはグラスを睨みつけて、グラスの胸をぐいっと押した。


 「相変わらずなやつだな、二人の子供とその母親たちにいつか刺されるぞ」


 「養育費に生活費も十分に支援しているつもりだがなあ」


 このグラスという男はとんでもない女好きで欲望の赴くままに生きた結果、婚外子が二人いた。昔からグラスを知っているアレクにとっては意外なことでもなかったが、本当に隠し子は二人しかいないのかと疑っている。


 「そんな事より、女と遊びに来たんじゃなければ何しに来たんだよ?」


 アレクはグラスをじっと見つめた後に溜息をついた。


 「ここはそればかりする所ではなかろう。このサロンは紳士の社交場だ。」


 アレクはおっほんと咳払いをしてから口をもごつかせた。この場所に来た目的を正直に言えば、この髭が揶揄して来ることがまざまざと目に浮かぶからだ。しかし、この髭はサロンの顔役といっても過言ではない。そういうわけで、こいつなしでは用事が果たせない。アレクはなんとも腹立たしいと思いながらグラスを睨んだ。


 「息子たちが、、、」


 一方、何の罪もなく睨まれていたグラスはアレクが話し出した途端にニヤニヤとし始めた。


 「やっぱりやめる!」


 「おいおいおい、可愛い息子たちの為にここに来たんだろう?」


 アレクは6秒沈黙を貫くと、冷静な判断を自分に下した。


 「ふー、実は息子たちがラスペツィに行きたいらしくてな。俺はそっちの情報はさっぱりだからここに来たというわけだ。」


 グラスはつまらなそうな顔でアレクを見下ろす。グラスはアレクが怒り出すの期待していたのだ。

 アレクといえば内心では反省会をしており、この友人の前だとどうしても学院時代の若い頃の自分に戻ってしまうことが情けなかった。


 「なるほどね、つまり親バ、、、」


 グラスはアレクの鋭い視線に気づいて「親バカ」という単語を言いかけて止めた。


 「ら、ラスペツィに行きたいのか、エドワードたちは」


 「ああ、そのようだ。しかも子供たちだけで旅をしたいそうだ。」


 「へえ、思春期というやつだな。一番下の女の子は今年で七歳か。その子は流石に留守番だよな?」


 アレクはいいや、と頭を振る。


 「エドとサイラスは兄妹全員で行きたいらしい。」


 「エドワードは今年で17になるし、いいんじゃないか?サイラスもしっかりしているしな。」


 グラスはアレクの生意気な子供たちを思い浮かべて思わず微笑んだ。いつか、自分の子供たちとも会わせたい。


 「お前もそう思うか?」


 アレクはニッと笑いながらグラスの顔を見上げる。グラスは内心、やっぱり親バカじゃないかと思ったが言わぬが花という言葉もあることを思い出した。


 「しかしラスペツィか。誰に聞くのが良いかねえ。」

 

 グラスはそう言って周囲を見渡す。すると日に焼けた男をグラスは見つけた。


 「ああ、あいつがいいな。」

 

 グラスはアレクの肩に手を置き、目線で日に焼けた男を指した。

 アレクはグラスの視線の先を辿る。


 「どういう男なんだ?彼は、軍人のようにも見えるが知らない顔だ」


 あの男が軍人であるならアレクが知らないはずはなかった。


 「あいつはああ見えて商人でな。最近はこのサロンに出入りするようになったんだ。武闘派だからここのやつらとは気が合うらしい。」


 「商人ということはラスペツィにも詳しいわけか」


 ラスペツィは港街でありこの国では珍しく、東の大国の文化が深く根付いた場所だ。そしてこの国でも1、2を争う貿易都市でもある。


 「というかあの男はラスペツィの出身だ。ラスペツィでも商人として成功していたが、大きな野望を持って最近王都に進出してきたわけだ。」


 近年、北に位置する皇国の情勢が変わり、積極的に皇国は各国との交易を始めた。近隣諸国が皇国と貿易をするにはこの国の王都を通る陸路が一番利便性が良く、大陸中から商人が集まりつつあるのだ。


 「なるほどな、では紹介してくれ。」


 グラスはやれやれという顔でアレクを見る。


 「商人が無償で情報をくれると思うのかね?バイロン卿」


 髭を撫でながらそう言って自分を見下ろすグラスにアレクはみぞおちに一発食らわしてやりたかった。しかし、言う事に一理あると思い顎に手を当てて思案した。

 しかし、思案するアレクを横目にグラスは日焼けの男に声を掛けた。


 「ヴェルザー殿!」


 グラスに声を掛けられたヴェルザーは振り向くとこちらにやってくる。


 「やあやあ、デオン卿。何の御用ですかな?」


 ヴェルザーは声が大きく、近くで見ると思ったよりもずっと若い様だ。それに自身に満ち溢れた印象を受ける男だった。


 「いきなりすまない。私の友人がラスペツィの近況を知りたいそうで、ぜひ貴方に話しをお聞きしたいのだ。」


 そう言ってグラスはアレクのほうを向く。


 「そうでしたな、バイロン卿?」


 「デオン卿、ご紹介感謝する。初めましてヴェルザー殿、私はアレク・バイロンと申します。」


 そう言ってアレクはヴェルザーに一礼する。内心ではグラスに「この野郎」と思っていたが。


 「これはこれはご丁寧に、私めはバルトロ・ヴェルザー、しがない商人でございます。」

 

 それにしても、とヴェルザーが続ける。


 「デオン卿に続けて、バイロン卿とも知己を得られるとは光栄なことですな。何せ『獅子の牙』が歴代最強を謳われ時代に名を馳せたお二人ですから。」


アレクは若い頃によく耳にしていた賛辞の言葉を聞いて酒をぐっと呑んだ。当時はその言葉を誇らしく思い素面でもその言葉を受け入れる事ができたが今はそうではない。大人になるという事は恥を知ることだと思い知らされる。アレクは隣にいるグラスに目線を向けたが、グラスと言えば自慢気な顔で笑っている。


 「グラス、お前は本当に、、、」

 

 「別によかろう、事実だ。」

 

 「ヴェルザー殿、その歴代最強うんぬんは昔の話しです。しかし、貴殿の情報収集力には恐れ入ります。」


 「いえいえ、商人と言えど私めも武人のはしくれでして。これくらいは自然と耳に入ってくるのですよ。」


 アレクは思はず苦笑した。アレクは若い頃隣の髭男と少しやらかしたのだが、今では噂に尾ひれがついた話がかなり広まっているらしく少し前にサイラスが同級生から聞いて来た最強伝説を爆笑しながら披露してくれた。勿論、息子にはお仕置きをしたが。


 「それで、ラスペツィについてお聞きしてもよろしいかな?」


 「勿論です、男爵」

 

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