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10.父の心中

 エドワードたちは『ラスペツィ』という場所に行ってみたいらしい。そこは海に面した街で、小さい港街だそうだ。しかし、小さいながらも遠い東の国々との交易が盛んな場所らしく珍しいものが沢山みられるとサイラスがエリナーに教えてくれた。


 「僕らも行ったことはないのだけどね」


 サイラスがいたずらっぽくそう言った。楽しみでしょうがないという表情だ。


 「東方の文化が根強く出ている街なんだそうだ、楽しみだな」


 エドワードはにっと笑いながらエリナーとイアンの頭を撫でる。


 「さてと、父上に交渉しないとな」


 「そうですね、兄上」


 翌朝、父の書斎へラスペツィ行きの交渉に向かうエドワードとサイラスを見かけたエリナーとイアンは二人のことを全力で応援した。


 「どうでしょうか父上この提案、受け入れてもらえませんか?」


 「ラスペツィかあ、エリナーもイアンもまだ小さいから、私は心配だよ。」


 「でも母上が王都に連れていけると判断したくらいには大きくなりましたよ。」


 「しかしなあ、昨日は結局迷子になって帰って来たじゃないか。」


 エドワードとサイラスはその事を突かれては二人も話しを進めづらい、と顔を見合わせる。


 「確かにあの子たちは、特にエリナーは好奇心旺盛で射られた矢のようにどこかへ飛んでいくこともあるかもしれません。」

 

 「しかし、早いうちから外の世界に連れ出すのも悪くないですよ。」


 指でこめかみを抑えながらバイロン家の当主は考え込む。


 「それは一理あるかもしれないが、しかしなあ。」


 息子たちが可愛い弟妹を連れて出掛けたい気持ちは十分に理解できる。本当なら自分だってエリナーと過ごす時間を作りたい。

 息子たちとならば普段から剣術の稽古や馬乗り等、何かと一緒に居られる時間があるが末娘のエリナーとは過ごす時間が食事の時ぐらいしかないのだ。

 仕事が忙しい時はその時間すらない。そのせいか最近は妻にこんな話をして少し怒らせてしまった。



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 『エリナーは最近、魔法に興味を持っているようだな』


 ドレッサーの前で髪をとかす妻にアレクは声を掛けた。


 『そうみたいですねえ。あの娘は何事に対しても好奇心旺盛ですけれど』


 『はは、そうだな。実は最近俺は期待している事があるんだ』


 『何です?』


 『あの娘は剣術に興味を持ってくれないかな』


 『あなた!なんてこと言うんです!』


 妻がキッとした目で勢いよくこちら振り向いたので急いでアレクは言い訳をする。

 

 『そんな顔をするな。何も騎士にしようというわけではないよ。もしあの娘が興味を持ってくれたら護身になる程度の手ほどきをしてやりたいと思って…』


 『護身というなら馬術を先に教えたらどうです?』

 

 『馬はもう少し体が大きくなければ厳しいじゃないか…おい、なんだその目は』


 オリビアの疑うような視線が痛い。


 『あなた、さっさと白状したらどうです?娘と過ごす時間が欲しいのでしょう?』


 『そ、そんなことは、ないとは言えないな…』


 妻のオリビアにはいつもアレクの心中がお見通しだ。時折、アレクは自分の妻は人の心を見透かす特別な力があるのではないかと思うことがある。


 『剣をあの子に持たせるのはまだ早いですよ。あの娘がもっと大きくなって、自分の意志で剣術を習いたいと言い出したら、その時は稽古をつけてあげて下さい。』


 『むう』


 オリビアに窘められたアレクは諦めきれないような顔している。その様子をみてオリビアは妥協案を提示することにした。


 『剣はやはり危険ですから、護身というなら体術なら体術を教えるのはどうです?』


 『体術か!それはいい、俺の妻は本当に賢者だな!』


 『もう、調子が良いんだから。』


 アレクは本当にそう思ったから言っているのだが、オリビアはおだてられていると捉えたようだ。やれやれと首を振ってベッドに入る妻をみてアレクはやはりと確信した。



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 そんなわけで、アレクとしても二人の提案を無下に却下するのは心苦しかった。


 「明日まで待ちなさい。私にも考える時間が必要だ。」


 エドワードとサイラスはがっかりした様子で部屋から出て行く。ああは言ったものの、アレクは息子たちの提案を前向きに考えている。

 真面目過ぎるほど責任感のある長男に賢く融通もきく次男になら充分に下の子供たちを任せられるからだ。信頼している使用人にもついていってもらおう。

 しかし、何の下調べもせずに子供たちを送り出すわけにはいかない。決断するのは、せめて今晩開かれるはずのサロンで友人たちに話しをきいてからにしようとアレクは決意する。

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