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9.兄と妹

 王都から帰って来た翌朝、エリナーはベッドの上で飛び起きた。

 一瞬、自分がどこにいるのか分からずまさに「ここはどこ?」状態である。


 「お母さま!どこ?」


 エリナーが泣きだしそうな声で叫ぶと、メイドが驚いた顔でこちらを見ていることに気づく。


 「お嬢様、どうされたのですか?」


 「あ、カリン…ここはおうち?」


 エリナーの「ここはおうち?」という発言でメイドのサイラはエリナーの状態を把握した。


 「お嬢様は帰りの馬車の中で眠ってしまったので、屋敷に着いてから旦那様がこの部屋に運んでくださったんですよ。」


 馬車の中はあまり寝心地が良い環境とは言えないのに爆睡してしまったらしいと気づいたエリナーは、昨日は色々な事があったから仕方がないよね。うんうんと首を縦に振る。


 「カリンー、体がべたべたするぅー」


 「はいはい、体を綺麗にしましょうね。お湯の準備は出来ていますから。」


 優秀なメイドのお陰で、エリナーは今日一日不潔に耐えなければならいないという苦痛を味わうことを回避することができた。

 エリナーがお風呂から上がったタイミングで、エリナーの部屋の扉を誰かがノックする。


 「入ってもいいかな?」


 声の主は一番上の兄、エドワードだ。エリナーはまだ着替え終わっていなかったので、カリンがエドワードにもう少し待つよう伝えてくれた。

 兄妹といえ女性が身支度をしている寝室に男性が入室するのはマナー違反である。もちろんエリナーは兄の部屋に一応のノックはするものの無断で踏み込むのだが。

 しかし、お兄様は何の用で来たのだろうかとエリナーが考えていると、戻って来たカリンは気まずそうな顔でこちら見た。


 「カリンでてくれてありがとう。お兄様は何の御用か言っていた?」


 「お兄様方は、」


 エリナーは思わずサイラの言葉を遮る。エリナーはもしかしてと思った。


 「がたは、って全員じゃないよね?」


 「お兄様方全員、部屋の前でお待ちですよ。」


 ということは、心配性のお兄様たちは、昨日のことで朝からエリナーの部屋に押し掛けてきたに違いない。


 「カリン、支度が終わったらそこの窓からにげよう。」


 「駄目です。」


 「そんなあ」


 エリナーが身支度を終えると早速兄たちは尋問を始めた。

 どうやら昨晩のうちに母からエリナーが迷子になった事を聞いていたらしく、次男のサイモンは昨夜にどれだけ心配で眠ることも出来なかったか教えてくれた。


 「そんなおおげさな…」


 小声で反抗をしてみたが、普段はエリナーに甘々はサイモンが圧のある微笑みで「ん?」とだけいうのですぐに黙った。


 「エリナー、俺たちはおまえが男を追いかけて迷子になっていたと聞いて、物凄く心配したんだぞ。」


 エドワードはエリナーの肩に手を置きながらそういうと、イアンも同調して首をうんうんと動かしていた。

 

 「どうして男を追いかけて行ったの?」


 「男の子に落とし物を届けにいっただけだよ?」


 そうしてエリナーは迷子になったのだ。


 「随分長い間、その男と一緒にいたみたいじゃないか。」


 「う、うん。一緒に人探しをね?」


 「小さな女の子を街中連れまわすなんてとんでもないやつだな。」


 兄たち二人の話しぶりだと、エリナーは大人の男の人にたぶらかされて連れまわされていたと誤解されていそうで怖い。


 「そんなに歩いたりしてないよ!魔法で空を飛んだの!」


 エリナーはあまりフォローになっていないような事を言ってしまったと思った。三番目の兄イアンもおいおい、というような顔をしている気がする。しかし、上の兄二人はエリナーの心中はよそに、他の事に驚いた顔をした。


 「魔法で空を?そんな芸当ができるのは…」


 「高位の貴族か、魔導士か、王族か。」


 「そんなやつが人探しだと?」


 「エリナー、その男は誰を探していたの?」


 「えっとね、王子様とお姫様!二人ともすごく可愛かったよ!」


 エリナーはこれって言ってもよかったんだっけ、と思ったが、口止めをされた覚えもなかったのでまあいいか、と思った。


 「探し人が王子と姫だったならそのくらいの力を持つ魔法の使い手だったとしてもおかしくはないが…」


 上の二人の兄はいきなり、こそこそ話をし始めた。イアンも兄たちの話しについていけない様子でエリナーと目を合わせる。


 「兄上、まずいですよ!そんな高位貴族の男に目をつけられていたら!」


 「目をつけられていたら?!まだ子供だろう!」


 「子供だからですよ!同じ年頃なら縁談に持っていきやすいじゃないですか!」


 「何い!我がバイロン家は誇り高い家門ではあるが所詮は男爵だ!もし相手が高位の貴族だったら縁談を揉み消すことができないじゃないか!」


 サイモンは自分の兄がバイロン家の次期当主のくせに両親及び先祖の墓の前では言えないような事を随分はっきりいうのだなと思った。

 しかし、サイモンとしてもエリナーが高位貴族に嫁いでいくのは、というか嫁に行かれるのが嫌なので全力で兄に同意の意志を示した。


 「そうですよ!兄上!」


 「こうなったら俺たちが取れる手段はただ一つだ!出世しよう!可愛い妹のために!」


 「そうですね!兄上!」


 エリナーとイアンを置いてけぼりにして上の兄たちが手を取り合っている光景を見て下の二人もこそこそ話をする。


 「なあ、兄上たちなんだかきもくね。」


 「わたしもそう思う。気味が悪いよね。」


 下の弟妹たちから散々な言われようの長男と次男は、後に各々が政治面、軍事面で王国の高い地位に就くことになるがそれは遠い未来の話しである。

 心行くまで心を通わせたらしいエドワードとサイモンは、そういえばとこちらむく。 


 「まだ父上には言っていないのだが、夏になったら俺たちだけで海のほうに行かないか?」


 エドワードからの突然の提案に、エリナーとイアンは一瞬戸惑ったが二人ともすぐに元気な返事をした。


 「「うん!行きたい!」」

 

 「父上と母上は夏はいつもの別荘に行くのだけど2人とも寂しくない?」


 「俺は大丈夫だよ!」


 「わたしも!お兄様たちがいるもん!」


 本当は寂しいし、少し不安もあったが、エリナーは生まれてから一度も見たことがないこの世界の海に対する興味のほうが遥かに上回ってしまった。

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