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【番外編】王子様とお姫様

心地よい風が吹く、ある真昼の物語。  


 今俺がいる場所は王都のはずれにある教会の廃墟だ。そしてこの廃墟のかつては中庭であったであろう場所にはどうしてなのか花が一面に咲いている。

 ここは俺が今一番お気に入りの場所だ。すごく綺麗な場所だから、ここを見つけたその日からずっと今手を握っているこの子に見せたいと思っていた。

 エノテラの花と同じ色の髪に、ピンク色のシンビジウムのような瞳の色、雪のような白い肌の完璧な女の子に。


 「レオ様!王宮を抜け出したりして大丈夫なのですか?」


 ピンク色の唇から溢れでる音はどんな言葉でも愛らしく、俺のせいで困っている顔もまた可愛い。


 「私の話しを聞いておられますか?」


 「大丈夫だ!少しの間ならバレたりしねーよ!」


 「言葉遣いが汚いですわ!」


 怒った顔は女神の様に美しいので見惚れてしまう。


 「あんたに、グレースに怒られたくて、わざと汚い言葉をつかうんだ。」


 そう言って俺が笑うと、グレースは目を逸らして頬を赤くする。そして、グレースは小さい声で呟いた。


 「ばかじゃないの?」


 「あんたもそういう言葉をつかうんだな。」


 グレースがこちらをキッと睨む。


 「レオ様が変なことをおっしゃるからですわ!」


 「親しい者と話すときはそんな風に喋るのか?」


 「へ?」


 俺が突然質問をしたせいか、グレースはとても驚いた顔する。ちなみに驚いた顔を可愛い。


 「あの、小さい頃から世話してくれているメイドや、妹たちとは普段より気安い話し方をします。」


 「そうか、では俺と話す時も気安い話し方をしてはくれないか?」


 「そんなことは、、、」


 断りの言葉を言おうとするグレースの口を思わず手でふさいでしまった。グレースの瞳をじっと見つめる。


 「将来夫婦になるんだから、いいだろ?」


 今度はグレースが俺をじっと見つめて、少し考えた様子を見せてから俺が口をふさいでいる手を掴み、腰の位置まで降ろして手を握ってきた。そして微笑みながらこちらを真っ直ぐみてくる。


 「2人きりの時だけなら、こんな風に話してあげる。」


 「おぁ」


 なんだよ「おぁ」って惚れた女の子の前でダサすぎるにも程があるだろ!グレースだって不思議そうな顔でこちらを見ている。でも、今のは心臓が体から飛び出てしまうのではないかと思うくらいの衝撃だった。


 「あ、ああ。すごくうれしい。」


 何とか俺は俺の望みに応えてくれたグレースに礼を言うことができた。ちゃんと笑ていただろうか。

 

 「私があなたに贈ってきたどんなプレゼントよりも嬉しそう、、、」


 そう言って、グレースはまた俯いてしまった。辛うじて見える耳は赤く染まっている。暑いのだろうか?


 「風よ、春のそよ風を吹かせ。」


 俺が魔法を使うと、グレースはパッと顔を上げる。


 「どうして魔法を使ったの?」


 「あんたの耳が赤いから、暑いのかと思って。」


 「暑いからこうなってるわけじゃないよ!」


 なぜだろう。グレースは怒っている。でもいつもよりずっと可愛い怒り方だ。今までと何が違うのか俺にはまだ分からないけど。


 「なあ、そんなことよりここは綺麗な場所だろ?」


 俺がそういうと、グレースは口を閉口させてから何かを諦めたような顔をして、しょうがない、と言った顔でこちらをみる。


 「ふふ、そんなこと、ここに降りた時からずっと思っていたよ。レオ様、この場所を私にみせてくれてありがとう。」


 まただ、心臓が飛び出していきそうになる。顔も、声も、仕草も全部。グレースは可愛い過ぎる。


 初めて会った時は俺のせいで、あまり良い初対面にはならなかった。なぜならグレースを見た時の第一声が、「あんた、絵の中から飛び出してきたのか?」だったからだ。

 一国の姫君を前にしてあんなに無礼な振る舞いはない。横にいた母上に頭をペシっと叩かれた。王妃である母上も賓客を前にして息子の頭を叩くなんて如何なものだろうかと未だに思う。でも、本当にあの時は驚いたのだ。ずっとこの子がお前の婚約者だよと言われてきた絵画の中の女の子が目の前に立っていたから。だって、普通見合いの為に描かれた絵なんて誇張されいるもんだろ?

 とにかくそう言われたグレースは困った顔をしていたし、付き添ってきた北国の皇帝は俺をすごく顔で睨んでいた。あの顔は今でも忘れられない。


 何度かグレースに会う中で、俺はグレースを好きになっていた。勿論外見だけを見て好きなったわけではない。グレースの優しさや健気さ、努力家で自分に厳しいところがすごく好ましいと思った。自分に厳し過ぎる彼女を甘やかしてあげたいと思ったし、彼女となら国を導くことが出来ると心から思ったのだ。


 「レオ様?考えごとをしているの?」


 グレースが上目遣いで俺を顔覗き見ている。


 「うん、グレースに初めて会った時の事を、、、」


 「ふふふ、あの時は面白かったね。」


 「面白かったか?」


 「帰ってから姉や妹たちに話して盛り上がったんだよ。」


 なんだか、複雑な気持ちではあるが笑い話になったのは良かった。実はグレースが傷ついていやしないかと後から気になっていたから。


 「そうか。」


 「あなたといたら、その時や今日みたいに楽しいことがいっぱいありそう。お礼に今から花冠を作ってあげる。」


 「じゃあ俺も作るよ。」


 俺は花冠なんて似合わないだろうけど、グレースには絶対似合うと思うから。


おわり。

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