レオとグレース
私、エリナー・バイロン男爵令嬢は『異世界転生者』である。
自分には前世があることに気付いたのはいつからだっただろう。多分、物心ついたばかりの頃だ。それまでもぼんやりと自分には『前』があるな、と思っていたが成長するにつれて段々と以前の『自分』の記憶が呼び覚まされていく。そして、12歳になる頃には前世の記憶を全て思い出していた。
私が前世で生活していた世界は、連絡するにはスマホがあって交通には電車や車、飛行機が使われていて、都会の大半はコンクリートで出来ていて、少し田舎に行くと自然が広がっていて、テレビがあって漫画があってゲームは楽しくて、好きな音楽が手軽に聴けて、可愛いキャラクター達がいるテーマパークがあって、学校やバイトは面倒臭い。でも、食べ物は美味しい物が沢山ある。そんな世界だった。
だから、この世界に生まれ変わった私は、最初はこの世界はつまらないし、不便だと感じていた。私が生まれた場所は何やら中世の西洋を感じさせる雰囲気の所で、私は前世ではあまり中世の西洋に興味を持っていなかったので、映画や小説やゲームの中のふんわりとしかイメージしか持ち合わせていなかったが、思った以上にこの世界は不便だし、退屈に感じた。
少し遠くに行くにしても馬車に乗るか自分で馬に乗れる様にならなければいけない。馬車の乗り心地はあまり良くないし、馬の上は存外目線が高くて使用人に乗せて貰った時は怖くて固まってしまった。私は、運良く貴族の家に生まれたので空腹に悩まされたり、不潔に耐えなければいけないという事にはならなかったけど、食事はいつも似たような内容だし正直、お米とか饂飩とか醤油が恋しい。トイレは勿論、水洗便所ではないので用を足して終わったら汚物は肥料に使用される。お風呂は使用人が手伝ってくれるけれど正直1人で入りたい。ドレスも、細かく刺繍が施され、レースとフリル、リボンが、沢山ついたものを着せてもらえてとても可愛くて、最初は楽しかったけれど毎日コルセットをつけて布の多い衣服を着るのは正直疲れる。私には寝る時用の寝衣くらいが丁度良いけれど、そんな格好で歩いていては色んな人に怒られてしまう。娯楽といえば、読書をしたり刺繍をしたり時たま家に楽団が来て音楽を聴きながら小さいパーティーくらい。
兎に角、前世の記憶がある私にとって現在の世界はすごく不便で退屈な場所であった。7歳になって、【魔法】に出会うまでは!