第3話
聖歴500年6月10日午前10時
大海洋 迷い霧の海を越えた先 新海域
「クロゼス艦隊長! またあの不明騎です!」
「段々と接触してくる回数が多くなってきたな...御客様方には心配しないで構わないと伝えてくれ。」
「はい!」
私、アレス・ベタ・クロゼスは外交団が乗船している超大型豪華客船『セインツ・クロウ・マグセ』を護衛する為に編成された艦隊を指揮し、今まで帰って来た船はいないという伝説がある迷い霧の海を越えてからというもの飛来する不明騎を見ながら額に浮かぶ汗を拭った
我々が信仰する神々がその新たな勢力の存在を伝えてから5ヶ月、人族の国家群と教団が外交団を派遣してから早2ヶ月、長かった航海も終わりが近づいてるのだと乗艦している艦隊旗艦である大型戦列艦『フレーア・デリ・フローネ』の甲板上で実感しつつあった
それが確信できるのはその新たな勢力が運用しているであろう騒音を撒き散らして飛んでいる不明騎が段々と接触してくる回数を増やしている事だった
客船に居る教団から派遣されている外交団の御偉い様方が暫く前に「神に仕える我々に対し不敬な! 打ち落とせ!」等とほざきやがった時はヒヤヒヤしたが、国家群の外交団が止めて何とかなったらしい
何がともあれさっさと終わらせたい
「艦隊長! 哨戒偵察の竜騎士より報告! 所属不明勢力の物と思われる船団発見! このままの速度で後4時間に船団に接触するそうです!」
「よし! 艦隊速度そのまま! 全乗員に礼服を着用させろ! それと掃除は徹底的に行え!」
報告を受け深く考えるよりも先に口に出た言葉に私自身、かなり興奮しているのだと自覚し苦笑を浮かべたのに誰も攻めてこれないだろう...私も今着ている水兵服を脱ぎ礼服に着替えなくては!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅー...」
「落ち着いてくださいローゼン大使。」
後20分で互いに接触するという距離に達すると『人類共存態構想』によって終結した3大連邦の艦隊はあわただしくなった
扶桑帝国海軍第2艦隊の旗艦である飛竜型航空母艦1番艦『飛龍』の甲板上でドイツ帝国大使として派遣されてきた落ち着かない様子の見送りに来たローゼンに誘導役に志願した近衛軍の緑色に金色の紐をあしらった軍服を着こんだ直哉は甲板にヘリが出されるまでの間、そういってしっかりと水平線を見ていた
「いやはや、遺書は書いてあるとはいえ緊張するものでして...直哉殿は異世界出身という事もあって落ち着いてらっしゃるので?」
「まあ、そうですね...接触した事による疫病や様々な要因による死に対する恐怖もありますが今更ですし。」
ローゼンの問いに直哉はそう返すと、双眼鏡を使い近くで同じように展開している艦隊に目をやった
「ガリア共和国海軍航空巡洋艦『ラ・レゾリュー』ブリティッシュ連合王国海軍航空戦艦『ラミリーズ』アメリカ連邦国ミサイル巡洋艦『ガルベストン』...大西洋連邦の数少ない主力艦に加え中立連邦もローマ連邦王国海軍戦艦『ローマ』インド共和国海軍の元雲竜型の航空母艦『ヴィクラント』という豪華な顔ぶれ...そして我々は番号艦隊の第2艦隊とその旗艦たる飛龍型航空母艦『飛龍』に加え帝政ロシア海軍太平洋艦隊とその旗艦のインペラートル型超大型双胴航空戦艦『インペラートル・ピョートル1世』がいます...今この場にいる艦隊で止められなければ我々は破滅です...まあ気を楽に行きましょう!」
ヘリの準備が整ったのでローゼンの見送りに手を振り返し、直哉はチヌークによく似た最新鋭の大型輸送ヘリである『45式輸送回転翼機』に乗ると所属不明艦隊の方に飛び立っていった
そして所属不明艦隊の近くによると、ヘリを海面スレスレにホバリングさせると
「直哉近衛侍従武官! 準備出来ました!」
「危険な任務に志願してくれた事に皇帝陛下と国民に代わって感謝する、着水!」
小型のエンジン付きボートを下ろし、降りた後ヘリを所属不明艦隊から安全圏まで離れさせ大声で
「我々の言葉がわかるか!」
と叫んだ
すると不明艦隊の中央から小型の船がやってきて
「わかります! 御用件は何か?」
と乗っていた数人の豪華な格好をした男性の内1人が叫び返した
そして
「誘導する! この先に我々の艦隊が停泊している! そこで御用件を御伺いしたい! ついていただけないだろうか?」
「承知した!」
直哉の言葉に、1人何か叫ぼうとしたが近くにいた者達に抑えられ、始めに叫んだ男性が慌てたように返事した
直哉はその様子に嫌な予感がしたが一先ず上手く誘導できたことに安堵するとヘリを呼び戻し乗る、ゆっくりと艦隊に速度を合わせ誘導させた
そして両艦隊が互いに目視できる近さまで来ると一足先に『飛龍』まで戻ると戦闘艇に乗り換え誘導し、エレベーターで上がると『飛龍』の甲板に外交団が並んだ
直哉がいる方の外交団には比較的初老の男女で構成されているが、相手方の外交団は3人以外は初老や老年の男性で構成されていた
「国際連邦特別外交団の団長ローゼンです。」
「ディルラム大陸からやってまいりました派遣外交団の団長のエルダス・グラディアです。」
そして両外交団の団長が挨拶すると、会方式の大型テントを目の前で張り日陰を作ると何も隠していないのを示すために骨組みとクッションだけのシンプルなイスと同じくシンプルなテーブルが出され、簡易的な会談場が作られ会談が始まった
後に『大海洋会議』と呼ばれる会談が行われ、互いの食料や物品を交換し有害な成分が含まれていないか調べる事が決まり一先ず互いを国家として認め合う事となった