第1話
西暦1946年5月2日午前11時
東ヨーロッパ・アジア同盟連邦構成国扶桑帝国 第1首都東京 皇居内 小林直哉近衛武官専用執務室
「のう直哉や、すっかり落ち着いたと思わんかの?」
「だからって外遊行きたいとかは無しだぞ神楽、行く暇あったらさっさと書類を片付けろ。」
ソファーに座り書類を片付けていた1人の神楽と呼ばれた美魔女の言葉に、この執務室として膨大な資料が保管されているこの部屋の主である直哉と呼ばれた男が少し呆れた様な口調で素っ気なく返した
扶桑帝国...英語でFuso Empireと呼ばれる北は樺太、南は本来ならオーストラリアと呼ばれるウルル大陸、東はハワイ王国、西はシャム地方と呼ばれている本来ならミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム、マレーシア等と呼ばれる地方を勢力圏とする大国だった
またそこまで勢力圏拡大したのは『異界者』と呼ばれる転生者や転移者が好き勝手に歴史を変えまくったという過去があった
そして完全に外遊という大義名分で仕事をサボろうとしているのは『世界三大美女を世界四大美女にさせた程の美女』『太陽の女帝』『女豹』『激怒したら総戦力1500万が殴り掛かってくる歩く国家』等という異名を持つ扶桑帝国第123代皇帝の神楽、間違えても自分の執務室ではなく部下という建前ではあるが、違う立場の部下の執務室に入り浸る所かそこで執務している扶桑帝国で総理大臣以上に影響力のある立場の人間である
そしてこの部屋の本来の主、扶桑帝国皇帝付き近衛侍従武官兼扶桑帝国近衛軍最高司令官兼憲兵軍最高司令官兼扶桑帝国政府外部顧問兼皇配という色々と可笑しい立場を押し付けられていて、現在進行形で書類の山を格闘しているのは『世界最良の護衛』『皇帝しか命令を受けない男』『殺人許可証所持者』等と呼ばれる男、小林直哉だった
因みに1931年から始まった『大戦』と呼ばれる世界大戦にて扶桑帝国の国家戦略を組み上げ、その後は引退し伴侶達や子供達との時間を作ろうとしていたが神楽から
「誰が逃がすか!」
という言葉の元、どれだけ人を殺しても無罪とする『殺人許可証』と様々な役職を押し付けられた1種の哀れな男でもあった
そんな2人だけではなく
「直哉さん、この書類に判をお願いします。」
「神楽~、相も変わらず変な団体が要望書出してきたわよ、とりあえずお断りの返事出しとくわね。」
「父さん、この決算書ちょっと怪しいので調べてほしい。」
「父上~、陸師匠が新しく運動場に機材設置したいって、」
直哉の...厳密にはバイな性格の神楽が同性の愛人を持つのは既に知れ渡っているとはいえ正式には色々と都合が悪いので、人口における男女の割合が4対6という事で一夫多妻制を採用している事を利用して直哉のハレーム扱いとなっている伴侶の純扶桑系の幸、同じく伴侶の金髪碧眼ダイナマイトボディ白人のグレイス、幸との子の彼方此方にペンを指して実用性に特化した洋服を着た茜、そして神楽との子である着物を着こなしている輝夜がそれぞれ直哉と神楽に仕事や用事を持ってきていた
そんなこんなで仕事をこなしていると
執務室の扉が開かれ、コック服で隠しきれない程のボンキュッボンな体を持つ同じく金髪碧眼の美女とその両腕に抱かれている幼児2人、史実ならナチスドイツと呼ばれた時代のドイツ国防軍の軍服によく似た軍服を身に纏った同じくダイナマイトボディなアルビノ美女、ダボダボな作業着を着た少しアルビノの入った金髪の少年が入ってきた
「な、直哉さん...えーとね、厨房の設備新しくしたいんだけど...」
「直哉! 新しい空挺装甲部隊の錬成終わったぞ! 戦え!」
「父さん! 新しい計算プログラム作ったから採用して!」
直哉の伴侶で皇帝一家の食事関係を担当している元料理長にして現在は子守り兼家事担当になっているコゼットとその両腕に抱かれているのはコゼットとグレイスの子の和平とヘレン、ドイツ帝国陸軍少将にして大戦における英雄で直哉に負けるまでは『人類最強』と呼ばれた戦闘凶にして名家バルクホルン公爵家現当主のエルザ、エルザの子でアルビノ体質で体が弱いがその分コンピュータのプログラム作成では誰も敵わない程の腕前を持つフリードリヒだった
そんなこんなで過ごしていると
「ん? 地震か?」
「一応ドア開けといてー。」
「カーテン閉めるわね。」
と揺れ始め、全員慣れた様子で退路と安全確保を行った
そして暫くすると震度3程の地震が発生し、20秒程で終息した
そして仕事に戻ったが...
「陛下! 陛下は居られますか!」
血相を変えた様子で役人が飛び込んできた
直哉はその様子に敵襲かと思い即座に制圧しようとしたが、神楽が止めて
「どうした、津波が発生したのか。」
と落ち着いた様子で尋ねた
役人は自身がとんでもないことを仕出かしたと気付き、即座に息を整え報告した
「ち、違います! つ、つい先程の地震の後アメリカに向かっていた航空機から緊急報告が入りました! ア、アメリカ大陸が光に包まれ消失しました! 衛星からの通信も途絶えました!」
「直ぐに内閣を招集せよ! わらわの非常時大権を発動する! 即座に全帝国軍将兵に即応体制を取らせ臨戦態勢! また全周波数で『011110101 緊急事態発生』と流し世界各国と各国の軍に非常事態が発生している事を伝えよ! 世界各国の核報復用の戦略潜水艦を各港で受け入れる準備! 間違えても最終戦争なぞ起こさせるな! 直哉にエルザは近衛軍をいつでも出せるように準備! グレイスに幸は直ちに各省庁に確実性がなるべく高い報告を上げさせ皇居に国民達を収容できるように準備! コゼット! 子供達の荷物を纏めて移動できるように準備! 急げ! 輝夜! もしもの時はわらわの後を引き継げ!」
一瞬で書類仕事をめんどくさがる皇帝から、名君と称えられるであろう権力と意志を持ち数多の国民を守る皇帝に切り替わった神楽からの指示が飛んだ
この日世界は今まで経験した事の無い現象に振り回される事となる
この日のこの出来事は『大転移事件』と呼ばれる事となる
そしてこの時遠く離れ扶桑帝国と14時間の時差があるアメリカ連邦国の私営テレビ放送局では大騒ぎになっていた
資金稼ぎの一環として料金を貰って番組を放送する元公営の民営の放送局で、この日は夜の11時から翌日の午前1時までの間とある過激思想団体が勧誘の為にとある儀式を放送していた
1931年から起こった大戦に途中参戦し、敗北に近い状況で講和した合衆国は国名をアメリカ連邦国に改名し、身から出た錆で独立し西海岸一帯を勢力圏に収めるアメリカ自由共和国を『対話と融和の統合』と称して再び勢力下に加えようとしていた
その反省の為に大戦に参戦する為に様々な工作を行った企業や公務員に加え政治家の社会的追放を行って、急速に軍事関係企業や好戦思想持ちの人々が政治と軍事の業界から追放されていった
こういった行為から自由共和国も再び合流し、合衆国を復活させようとしていた
そういった事情によって発生した経済危機を乗り越える為、公共インフラ以外の事業を民営化させており、この放送局もまたそういった事情で民営化した放送局だった
そして儀式を放送していた団体は、そういった事情によって追放されたり職場にいられなくなった人々が立ち上げた団体だった
扶桑帝国以外の世界各国の人々は昔は嘘だと決めつけていたが、大戦の後古くから扶桑帝国の国政指導者には何人か異世界出身者が混じっており繁栄した事を認識し、かつて魔女狩り等で弾圧した人々の遺産や胡散臭い魔術の遺物を発掘しようとする動きが活発になっていたのである
この団体も世界各地に眠る様々な古の魔女と呼ばれた人々や魔術の遺産を発掘(非合法且つ犯罪も含む)し、この世に具現化させ合衆国を世界の支配者にするべく活動している団体だった...最もほぼ全ての遺産は紛い物で魔女の子孫達も長年の謂れ無き迫害でほぼ全てが死に絶えるか各国の植民地に逃れたり少数が扶桑帝国に移住しておりほぼ空ぶっていた
しかし運命の悪戯か今回の魔術は成功したように見えた
実際儀式を行ったら世界各国が完全に可笑しい状況に陥ったのである
この日からこの団体『Wing・of・Liberty 通称WoL』は話題になりアメリカ国内では飽き足らず国外でも急速に構成員が増えていく事になる