異世界〝アースト〟
魈達の視界を真っ白に染め上げた光が収まり、恐る恐る目を開けると、そこは先程までいたお洒落なカフェではなく、何処か神々しさを感じる大広間だった。
直径二メートルくらいの十数本ある太い柱が天井を支えており、広間の中心には先程カフェで見たのと酷使している魔法陣が直接床に刻まれている。神々しさを感じるのは、何の曇りもない白一色の石材で造られているからだろう。天井には広間全体を照らすシャンデリアのようなものが置かれている。何が光っているのかはわからないが、少なくとも電気で光っているわけではないだろう。
広間の奥には煌びやかで豪奢な玉座が置かれていることから、この広間は王室なのだろうと察しが付く。
その玉座には、髭を蓄え王冠を冠っているそれ相応の年の男が座っており、周りには騎士甲冑に身を包み、腰に剣などの武器を携えた近衛兵と思わしき男が十数人立っている。そして、魔法陣――魈達の目の前に座り込み、手を組み祈りをささげる魈達とさして年が変わらないであろう少女がいた。
少女はゆっくりと目を開き、目の前に魈達がいるということを確認すると、その少女はぱぁっと顔を明るくし。
「ゆ、勇者様方! どうかわたしたちの世界をお救い下さい!」
そう言った。目の前の魈達を勇者と呼び、世界を救って欲しいと無理難題を押し付けた。何と素晴らしいテンプレ展開か。
少女のその言葉に、周りにいた近衛兵達も歓喜の声を上げ、高らかに拳を突き上げている。「これで私達の勝利だ!」とか、「俺達は助かったんだ!」とか聞こえる。王と思わしき男も肩の荷が下りたかのように安堵の息を漏らしている。ものすごく嫌な予感が魈の脳裏を過った。
その一方で、優輝と賢吾は何のことだ? と首を傾げ、綾と美琴はやっぱり魈と同じようなことを考えているのか、表情が暗くなる。魈も、綾と美琴同様これから何をさせられるのか大体察しが付くため表情が暗い。
「あ、あの……、勇者って何ですか? それにここは一体……」
優輝は目の前の少女に勇者とは何か、此処は何処かを率直に聞いた。確かに、いきなり見知らぬ場所にいて、目の前の少女には勇者と呼ばれる。確かに、訳がわからない。だからこそ、優輝は聞いたのだ。
「あ、突然申し訳ありません! 召喚に応じていただけたのが嬉しかったものですから……。私はアイリス=レイアストと申します。ここ、レイアスト王国の王女です」
スカートの端を摘み、少女は頭を下げた。どうやら、目の前の少女はこの国――レイアスト王国の王女様だったようだ。栗色でさらさらとしたロングヘア―に優しそうな瞳、気品溢れる純白のドレス。そして、頭の上のティアラ。なるほど、確かに王女だというのも納得が出来る上品さを兼ね備えている。
「召喚、ですか……。あの、俺達をこの世界に連れて来たのはアイリス様なんですか?」
アイリスの気になる発言に、優輝は疑問を抱き、聞く。そうやって初対面の人にでも普段通りに話せるのは勇気の才能か、はたまた魈がそれ程の弱キャラなだけなのか。まぁ、きっと、多分、絶対に後者だと思う。
「いえ、正確にはこの世界の創造神であるエデン様がご召喚なされました。この世界の危機を救うため、勇者を召喚されるとご神託があったのです」
どうやら、この世界にはエデンと呼ばれる創造神がいるらしい。日本では、神様なんて空想上の存在としか思われていないが、神託があるということは少なくともこの世界の住人は神は実在すると思っているのかもしれない。まぁ、異世界なんだし神がいてもおかしくはないと思うが。
「それで、そのエデン様はどうして俺達を召喚したのですか? それと、この世界を救うとは……?」
「うむ、それは儂から答えるとしよう。勇者殿よ」
優輝の質問に答えるべく、声を上げたのは玉座に座っていた男。即ち、レイアスト王国の王様だった。
「儂の名前はハイドリヒ=レイアスト。それで、お主は……」
「七瀬優輝です」
「そうか、優輝殿だな。確かに、優輝殿の質問は当たり前であろう。ならば、まずはこの世界のことについて教えることにしよう」
ハイドリヒの話を要約するとこうだ。
この世界――アーストは今、危機に陥っているらしい。
元々いた魔物と呼ばれる生命体が凶暴化し、森や山、洞窟や草原、氷雪地帯などを蔓延り、この世界の人々に危害を加えているというのだ。
中には温厚な魔物もおり、家畜として飼われている魔物も中にはいるらしいが。それはさておき。
その魔物を凶暴化させていると言われているのが、魔人族と呼ばれる種族らしい。魔物同様角や牙、翼といった普通の人々――人間族にはないものを持っている人々のことをそう呼ぶようだ。
そんな魔人族は魔物を凶暴化させ、使役し、様々な国を侵略しては自国の領土を増やしているらしい。
だからこそ、危険な存在である魔人族と魔物に対抗するべく、エデン様とやらは優輝達を勇者としてこの世界に召喚した。それが、レイアスト王国の民が知るご神託とのことだ。真実かどうかはわからないらしいが、民は信じているとのことだ。神への絶対的信仰心でもあるのだろうか。
「……なるほど、俺達はその魔人族と戦えばいい、というわけですね?」
「うむ、話が早くて助かる」
いくら何でも早すぎると思う。
優輝はもうやる気に満ち溢れているようだが、他の者はそうはいかない。だって、魔人族と戦うということは、つまり人と戦うということ。ならば、必然……。
そう考えてしまった魈達は表情が暗い。平和な日本で暮らしてきた一般人としては、その願いはあまりにも酷だろう。優輝は、そのことに気付いていないのだろうか……。
そんな魈達の心情はさておき。ハイドリヒは話を続ける。
「だが、エデン様の話によれば、勇者として召喚される者は四人と聞いておるのだ。しかし、お主らは五人。何故、五人なのかはわからぬが、誰が勇者なのかを確認したい。よって、これを渡そう」
ハイドリヒは近くにいた兵士に命令を下した。すると、近衛兵は魈達それぞれに一枚の金属板を、そして透明な金属インゴッドを渡した。何処からどう見ても、何の変哲もない金属である。
「その板状の物は〝ステラ・プレアス〟。自分のステータスが数値で表示されるものだ。名前も記入されるため、この世界では証明書としても使われておる。ステータスとは、その人の強さを明確に理解出来るよう、数値で表されるものだ。成長することによってレベルが上がり、レベルが上がることによって強くなり、ステータスも強化される。今は、ただのいた同然だが、自分の血を一滴垂らすことでその機能を発揮するだろう」
こんなものが身分証明書になるなんて考えられないが、アーストでは当たり前のことなのかもしれない。アーストでは、日本で培った常識は通用しないと思った方がいいのかもしれない。
「そして、もう一つのインゴッドだが、詳しくは儂も知らない。代々、勇者にしか扱えないものとしてこの国に伝わっているが、勇者が望む武器を創造してくれるものとのことだ。だが、まずはステラ・プレアスが先の方がよかろう」
ハイドリヒがそう言うのと同時に、先程ステラ・プレアスを渡してくれた近衛兵からナイフを受け取った。どうやら、魈達に拒否権はないようだ。是が非でも戦わせたいのかもしれない。
魈は恐る恐るナイフの切っ先を自分の指の腹へと当てた。すると、少しの痛みとともにぷくりと膨れ上がった血を、魈はステラ・プレアスに擦り付けた。
瞬間、ステラ・プレアスから発せられた無色の光が魈を包み込む。周りを見れば、綾は桜色の、美琴は菫色の、優輝は金色色の、賢吾は藍色の光に包み込まれた。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
今回は、まぁなんも面白くないですね。ただステータス確認しただけですから。
衛兵に囲まれたショウさん、一体どうなってしまうのか!
さて、こんかいはこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。
※2020/03/12に改稿しました。