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詩和二周年記念番外Ⅻ 決着と別れ

これは番外編です。本編とは関係ありません。

それを踏まえたうえでお読みください。それでは、どぞ。

 時は少し遡る。


 夜がある意味愛の境地に至ったあかりに殺されそうになっている時、ショウはリアとともに魔王城の中を歩いていた。


 魔王城が最難関ダンジョンと言われている理由は、何もボスが強いからという理由だけではない。マップの複雑さと雑魚敵の異常な強さなのだ。


 まるで迷路のように複雑な城内。絶え間なく襲い掛かってくる凶悪なモンスター。休む暇もなく、アイテムで回復する暇すら与えられない。故に、最難関ダンジョンとしてSaMでは有名なのだ。まぁ、数の暴力というある意味チート行為を行えば簡単にクリア出来るのだが……。


 しかし、ショウは道中の敵を意に介すこともなく返り討ちにし、すたすたと複雑な構造をしているはずの城内を迷いなく進んでいく。何故なら、ショウはすでに魔王城を攻略しているからだ。


 城内の構造がゲームとまったく変わらないので、その通りに進んでいるのだ。絶対に攻略サイトは見ない! という頑なな意志により、ショウは魔王城のマップをすべて埋めたのだ。まぁ、逆にいえば最後まで迷いまくったのだ。悲しいことに。


 だが、そんな簡単に事が運ぶわけもなく……。


「チッ、やっぱり変わってるか……」


 角を曲がった先は行き止まりとなっていた。やはり、ゲームとは構造が少し違うらしい。


「今からマップを埋める時間なんざねぇぞ……」

「どうするの?」


 苛立つあまりに髪をがしがしと掻くショウに、リアが心配そうな声音で尋ねた。


「ん? ここはゲームじゃねぇんだ。なら、律儀に攻略してやる義理はないだろ? だから、ぶっ壊す」


 そう言いながら、夜は背負っていた大鎌を手に取り、腰を低くして構えた。


「城全部は無理だろうが、壁くらいなら壊せるだろ!」


 ショウは大鎌を横一閃に薙ぎ払った。振るわれた鎌は石煉瓦で出来ているのだろう壁を一部粉砕し、バランスを保てなくなった壁は音を立てて崩壊した。


「思ってたのとはちょっと違うが、まぁいいだろ。行くぞ、リア」

「ん!」


 もう少しドガァン! とか爆発でも起きたかのような音を立てて壁を粉砕出来ると思っていたのだが、流石にそれは無理だった。まぁ、壁を壊すことが出来るということがわかっただけ良しとしよう。


 そうして、時に襲い掛かるモンスターを完膚なきまでに返り討ちにさせ、時に行く手を阻む壁を粉砕して突き進むこと十数分。遂に、目的地の前へと辿り着いた。


 ショウとリアの目の前には、血を彷彿とさせるどす黒い赤色を基調とし、金色の装飾があしらわれた趣味の悪そうな大扉だった。


「流石に鍵とかかかってねぇよな?」

「かかってたらどうするの?」

「壊すに決まってんだろ」


 軽口を叩きながら、ショウはドアを押した。すると、鍵はかかっていないようでギギギと鈍い音を放ちながらドアが勝手に開いた。演出か何かだろうか。


『ようやく来たか』


 ドアの奥から聞こえた声に、ショウは大鎌を構え、リアも紅剣を二本侍らせている。


『そう構えるな。少し話でもしないか?』

「話だァ?」


 一体何を話すのだろうか、とショウは首を傾げる。


『貴様、本当に元の世界に戻りたいと思っているのか?』

「っ! ……何が言いたい」


 微かに動揺した心を紛らわすように、ショウは感情の籠っていない声音でそう言った。瞳は鷹の如き鋭さで、何処か冷たかった。


『その腕、召喚された先の世界で負った傷であろう? それに、あやつ等の反応を見るに、貴様はかなり変わったのだろう? そんな世界に戻りたいのか?』


 確かに、左腕が溶けてしまったのも、ここまで身も心も変わってしまったのも、元を糺せばあの世界――アーストに召喚されてしまったからといえるだろう。召喚されていなければ、今もきっと平和な日本で平和な日常を送っていたのかもしれない。いや、平和な日常は無理か。


『条件を飲めば、我が本来の世界に戻してやるぞ?』

「へぇ、条件ってのは?」

『そうだな。貴様の仲間を全員殺せば戻してやろう』

「つまり、夜やリア達を殺せばいいということか」


 条件としては妥当なとこだろう。全員を殺せば願いを叶えてやる、ありがちな条件だ。アーストではともかく、SaMではショウは最凶だ。苦戦は強いられるだろうし、何なら死ぬかもしれないけど条件は達成出来るかもしれない。


 思い返す。平和だった日々を。


 毎日毎日行きたくもない学校へと足を運び、面倒事に巻き込まれたくないが故に授業中は寝て過ごし、家に帰ってはゲームしてアニメ見てラノベ読んでの繰り返し。


 特に変わったこともない、いつもの日常。


「それもいいかもな……」

「ショウ……!?」


 平和な日々を頭に思い浮かべたショウは微笑を浮かべた。確かに、日本に帰るのもいいかもしれないな、と。リアはそんなショウを見て焦燥に駆られる。そんなことしないよね? と。


『なら……』

「だが断る!」


 フィオーナの言葉を遮って、ショウは声を大にして叫んだ。一度は言ってみたかった台詞を叫べたことに若干嬉しそうにしながら。


「確かに、あの世界に俺は殺されそうになった。だから、帰りたくないってのが俺の本音だ」


 あの時、リアがいなかったらスライムに溶かされて死んでいただろう。闇穴の底に抜け道がなかったら野垂れ死んでいただろう。


 今、ショウが生きているのは、幾つもの奇跡が起きたからにすぎないのだ。


「だがな、友人を殺してまで帰ろうとするほど俺は堕ちていねぇんだよ」

『そうか。かなりの好条件だと思ったんだがな』


 そう言いながら、フィオーナは禍々しい雰囲気の玉座から立ち上がり、灰色に鈍く輝く大鎌を手にした。フィオーナの浮かべる嘲笑を見るに、わざと大鎌にしたのだろう。実力の差を思い知らせるために。


「上等じゃねぇか……! リア、サポートを頼む!」

「ん! ショウのためにがんばる!」


 そう言うと同時に、ショウは床を蹴り飛ばしフィオーナの懐へと潜るべく駆け出した。リアの操作する紅剣は追従するかのようにショウの周りを浮遊している。


『まさか、神に勝てるとは思っていないだろうな!』

「そのまさかだッ!」

『そこまで愚かな男だとは思っていなかったわ!』

「そりゃ過大評価だ!」


 ショウは何の躊躇もなく大鎌を大きく振り回す。その所為か隙だらけなのだが、その隙をリアが紅剣を巧みに扱い埋めていく。


 故に、ショウは防御をする必要がないので、攻撃だけに専念出来る。大鎌は一撃の威力は大きいものの、手数の少なさや隙の大きさなどデメリットの方が多い上級者向けの武器だ。


 ゲームでとはいえ使い慣れたショウと余興を楽しむためだけに大鎌を使っているフィオーナでは大鎌の扱いの上手さにははっきりとした差があるのだ。


 ショウが隙を晒してもリアの紅剣に阻まれ、ショウが攻撃すると同時に紅剣も攻撃する。フィオーナは防戦一方だった。


『ほぉ、中々やるではないか』

「はぁ、はぁ……」


 余裕の態度を見せるフィオーナだったが、一方でショウは既に疲労困憊といった様子だった。


 それもそうだろう。道中、襲ってくる敵の数はいざ知れず。逃げることも出来ずにすべてを返り討ちにし、行く手を阻む壁を悉くぶっ壊して今に至るのだ。


 つまり、フィオーナと戦う前の時点で蓄積されたダメージによる疲労は相当なものだった。だというのに、身体に鞭を打って大鎌を振り回していたのだ。疲労困憊になるのも無理はないだろう。


『なんだ、もう限界か? つまらんな……』

「うっせぇ、黙ってろ……!」


 認めてたまるかと、ショウは大鎌を振りまくる。だが、その行動はフィオーナからしてみれば肯定と思えるようで。


『口ほどにも無いな』

「っ! ぐぁあぁぁっ!」


 今まで本気を出していなかったのか、フィオーナの振るった鎌にショウは吹き飛ばされた。ショウの相棒である大鎌は二つに折れ、右肩から左腹部にかけて切傷が出来ている。相当深いのか血が噴き出て止まらない。


「魈、大丈夫か!」

「魈さん、大丈夫ですか!?」


 そう言いながら魔王城最深部のこの部屋に入って来たのは夜達だった。どうやら正気に戻すことが出来たようで、夜の傍にはあかりがいる。


「……よ、るか……?」

「! アリス、回復!」

「うん!」


 夏希の唱えた回復魔法によって傷は癒えていくが、それでも流した血は戻るわけではないので貧血状態にあるのか立ち上がるだけでも困難だった。


「ショウ、だいじょうぶ……!?」

「あぁ、大丈夫だ。もん、だいない……」


 ショウはメニューウィンドウを開きながら別の武器を具現化させる。同じ大鎌ではあるが、先程よりも一回り小さい。ぶっちゃけ言えば、今梨花達が持っている武器と同じか、それ以下の武器である。


「クソ、こういう時のために武器は取っておくんだったな……」

「ショウ、これつかって……!」


 リアは義手を創成し、二本の紅剣と一緒にショウへと渡す。


「助かる、リア。ありがとな」


 ショウは義手を受け取って左腕に装着。そして、紅剣を握る。


「二刀流か……。夜とキャラ被るじゃねぇか……」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ……」


 若干不満げなショウに、夜は思わずツッコんだ。


「じゃあ、おおきいけんにする?」

「頼めるか?」

「ん!」


 リアは頷くと、ショウの持つ紅剣へ魔力を注ぐ。すると、二本の剣は一つになり、ショウの身長程の大剣へと変わった。


『思ったよりも早い登場だったな。もう少しでそこの男を殺せるところだったというのに……』

「悪かったな、早くて」

「殺せるだァ? そんな簡単にくたばるわけにはいかねぇんだよ」


 余裕綽々なフィオーナに、夜とショウは言葉を返しながらも各々武器を構えていた。


「行くぞ、夜!」

「あぁ! これが最終決戦だ!」


 ショウと夜は同時に飛び出す。ショウは大上段に、夜は切っ先をフィオーナに向けて突っ込んでいく。


『いいだろう! 二人纏めて相手をしてやろう!』


 フィオーナは大鎌を捨てた。まさか、素手で戦う気なのか? とショウと夜が首を傾げていると、何処からともなく現れた灰色の液体が剣や槍、斧などの武器へと形が変わっていく。


『やれ』


 フィオーナがそう言うと同時に、数多の武器は流星群のようにショウ達を目掛けて飛んでくる。


「夜! 俺の後ろに回れ!」


 なんで? とか、どうして? なんて聞かない。聞く必要がない。何故なら、何かしらの理由があるはずだから。故に、夜は何も言わずにショウの後ろへと移動する。


 ショウは夜が背後にいることを確認すると。


「リア!」

「ん!」


 夜に名前を呼ばれ、リアはショウの意図を汲み大剣を大盾へと変える。


「うぉぉぉぉぉ!」


 雄叫びとともに、ショウは大盾をかざして流星群の中を突き進む。しかし、すべてを防げるはずもなく、ショウの足は剣に刺され、槍に突かれ、斧に斬られる。だが、お構いなしに突き進む。


『くっ、そんなはずは……!』


 すべてを射出し終えたのか、フィオーナの周りを浮遊していた武器は欠片もなかった。流石にマズイと判断したのか、フィオーナの声音は焦燥に満ちていた。


「夜!」

「了解!」


 ショウの言葉を待たずして、夜は行動を起こしていた。チャンスは今しかない! と。


(魈が作ったこの瞬間、無駄にする訳にはいかない!)


 夜はフィオーナの懐に潜り込み、右手に持つ灼熱の剣を突き刺し、左手に持つ蒼穹の剣を上段から斬り下ろす。そして、深々と突き刺さった灼熱の剣を抜き、横一閃に振り払った。フィオーナに防ぐ術はなく、身体は真っ二つに分かれることとなった。


 上半身と下半身がお別れとなったフィオーナ。流石に死んだと思われたが……。


『まだ、終わらんぞ……!』


 流石は神というべきなのだろうか、しぶとくも生きていた。身体が真っ二つになっても生きているとは、神様というよりも化け物の方が正しいのではないだろうか。


 フィオーナが絶望に染まっているであろう夜の表情を一目見てやろうと夜を見つめた。しかし、フィオーナは嘲笑を浮かべるわけでもなく、驚きに目を見開いていた。


 だって、夜の表情は絶望などに染まってはいなかったから。


「魈、今だ!」

「おう!」


 夜が屈むのと同時に、ショウは夜の上を跳んでいた。大上段に構えられているのは大剣だ。


「これで、終わりだァ!」


 ショウが振り抜いた大剣はフィオーナの脳天を捉え、切り裂いた。


『ば、かな……』


 その言葉を最後に、フィオーナの身体は粒子となり風に攫われて何処かへと飛んでいった。


「終わった、のか……」


 ショウが呟いたのと同時に、みんなの身体が淡い光に包まれた。足元には魔法陣が描かれる。


「……この魔法陣って……」

「タイミングを見るに、元の世界に戻れるってことだろうな」


 確かに、フィオーナを倒した途端にここぞとばかりに出現した魔法陣。見た目もショウ達がこの世界に来た時の魔法陣とそっくりである。考えなくてもわかる、遂に元の世界に変えれるのだと。


「じゃあ、ここでお別れか」

「だろうな。時間もそこまでないだろ」

「……楽しかったよ、魈。色々とありがとな」

「それはこっちの台詞だ。色々と助かった」


 二人は笑い合いながら、握手を交わした。すると、同時にショウ達の身体が輝きだす。どうやら、もう時間のようだ。


「じゃあな、夜。そいつら幸せにしてやれよ?」

「わかってるよ。またな、魈」

「あぁ、またな」


 眩い光が辺り一帯を染め上げ、ショウ達は思わず目を瞑る。


 光が収まると、そこには誰の姿もなかった……。




「んぁ? どこだここ……」

「ショウ、おきた?」


 ショウが目を覚ますと、目の前にはリアの顔があった。


「っつぅ……。リア、ここは?」

「リアたちがさいしょにいたばしょ。もどってきたみたい」

「そうか……」


 元の世界に戻って来たことに、ショウは安堵の息を漏らした。まぁ、ショウからしてみれば、異世界から異世界に戻っただけなので殆ど変わりないのだが。


「リア、ありがとな」

「……どうして?」

「色々と助けられたからな。リアがいなかったらきっと死んでた。本当に、ありがとな」

「……どういたしまして」


 嬉しそうに微笑むリアを見て、ショウも同じような笑顔を浮かべた。その笑顔は、まるで日本にいた頃のような、優しさに満ちた笑顔だった。

ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけましたか?

漸く、漸く二周年記念番外が終わりました。長かった、長かったよぉ……!(泣)

これで、次回からは本編に入れそうです。お待たせしてすみません。

ラストが少々雑ですが、お気になさらず。戦闘描写をもっと練習しないといけないなと思い知らされた次第です。

それと、前回のあかりの件ですが、闇落ちからの復活の速さは尺の都合です。あとはお察しください。毎日半日以上パソコンの前にいると腰も痛いし目も痛いし頭も痛いしで大変なんです。昨日に関しては何故かわかりませんが両手両腕が痙攣しましたしね。

なので、七月はもう休ませてください。投稿再開は八月からです。

まぁ、折角の夏休みなんでね? 終わるまで――8/20まで毎日投稿が出来ればなと思います。北海道なので夏休みが25日しかないんですよね……。その分、冬休みも25日なんですけど。

それと、補足ですが今回だけラストが展ラブと死姫では視点が変わっております。ぜひ、足を運んで確認なさってください。まぁ、まったく違うというわけではないんですけど。

さて、今回はこの辺で。休みつつもちまちまと書いて行こうと思います。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。

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