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詩和二周年記念番外Ⅴ 再会

これは番外編です。本編とは何の関係もありません。

それを踏まえたうえでお読みくださると幸いです。それでは、どぞ。

 最初の街――セルバートに辿り着いたショウとリアは、目的地の酒場へと向かっていた。酒が飲める年齢ではないだろう? そんなの知らん。異世界に日本の常識や法律は関係ないのである!


 セルバートのメインストリートは出店の呼び込みや冒険者と思わしき人達の話し声で賑わっていた。流石、最初の街にしてSaMでは四番目という大きさを誇る街なだけある。まぁ、四番目って微妙な気がするが……。


「へぇ、やっぱり大抵のものは変わってねぇんだな」

「……すごいにぎわってる」

「だな。どこもかしこもお祭り騒ぎだ」


 ショウとリアは喧騒に包まれるメインストリートを肩を並べ歩く。傍から見れば黒ずくめで背中に大鎌を背負った隻腕の怪しい男が十代前半の幼気で可憐な美少女を連れまわしているようにしか見えない。ぶっちゃけ、誘拐をしているように見られてもおかしくない光景だった。ショウが黒ずくめなのも誘拐と思わせる原因かもしれないが。


 そんなわけだから、周りから注目を集めるわけで……。


「衛兵さん、あそこです!」

「む、そこの貴様! ちょっと話を聞かせてもらおうか!」


 面倒事に巻き込まれるというわけである。


「チッ、めんどくせぇ。リア、走るぞ」

「かえりうちにしないの?」

「勘違いされて鬱陶しかったので殺しましたってか? 俺は殺人鬼に成り下がるつもりはねぇぞ……」


 後ろから、止まれ誘拐犯! と。その子をどうする気だ犯罪者が! と、衛兵さんが全力疾走している。現在進行形で衛兵さんと街の人々の勘違いが止まらない。


 説得するのも面倒だし、信じてくれなさそうだしとショウは逃げることにしたのだが、そのことにリアは疑問を抱いていた。


 ショウが闇穴の底で抱いたこの世界を生きていくうえでの誓いを聞いているので、その誓いに反する行動を取ろうとするショウがただ純粋に不思議だったのだろう。邪魔する者は殺すと誓ったショウが、今まさに旅路を邪魔しようとする衛兵を殺さないのは何故なのかが気になったのだろう。


 そんなリアの疑問に、ショウは淡々と答えた。確かに、邪魔する者は誰であれ殺すと誓った。だが、こんな街中で殺しをしようとは思わない。だって、殺人鬼にはなりたくないのだ。殺したくて殺すのではない、殺さなきゃならないから殺す、それがショウの考え故に。


 そんなこんなで、追いかけてくる衛兵を振り払うためにたっぷり三十分を要したショウとリアは身体的にはそこまでだが精神的に疲れ果てていた。一体、何時まで追ってくるんだ……と。


「……そんなにこの格好怪しいのか……?」

「ん。あやしい」

「それ先に言ってくれよ。そしたら変えてたってのに……」


 ショウはため息交じりにメニューを開き、自分の装備を変える。黒ずくめだった装備が、生地が紅色で黒の線が複数入っているコートに。所々にチェーン――銀色の鎖があしらわれた紅コートに。


「あんまり、この装備好きじゃねぇんだけどな……」

「どうして?」

「だって、如何にも中二病って感じがするだろ?」

「ちゅうにびょう?」

「まぁ、わからねぇか……」


 ショウは頭をガシガシと掻きながら大鎌も装備欄から外し、メニューを閉じた。もしかしたら、あの大鎌も原因の一つかもしれないし。


 そうして、ちょっとしたアクシデントはあったものの、気を取り直してショウとリアは酒場へと向かうのだった。




 道中、様々なことがありながらも、夜達二次元部はなんとか街に辿り着くことが出来、今は酒場にいた。理由は言わずもがな、情報収集と腹ごしらえである。


「ナイト、これおいしいよ!」

「うんまっ……。ゲーム内でこんなうまいもん食ってたのかよ、(ナイト)……」


 プレイヤーとしてキャラを操作して何度も何度も食べていた料理のあまりの美味しさに、夜と夏希は感動していた。すんごいうまいこれ、と。


 夜が食べているのは〝始まりの草原〟に出現する火を操る鳥のステーキで、夏希は同じく〝始まりの草原〟に生っている木の実を使ったパンケーキである。因みに、お値段的にはステーキよりもパンケーキの方が高い。普通逆じゃね? と夜がツッコんだのは言うまでもない。そして、これほんとに酒場のメニューか? とツッコんだのも言うまでもない。


 しかし、ここは夜と夏希はともかくあかり達にとっては見ず知らずの世界。故に、箸がまったく進んでいなかった。それは何故なのか……。


「……食わないのか?」

「だって……どんなものが使われてるのかわからなくて……」


 SaMをプレイしたことのないあかり達にとってはこの世界は“未知”なのである。右も左も、何もかもがわからないのだ。そんな世界に蔓延るわけもわからない生き物や果実を使った料理もあかり達にとって“未知”なのだ。


 だからこそ、口に運ぶのを躊躇っていたのだ。まぁ、どんなモンスターが、果実が食材となっているのかわかったとしても変わらないとは思うのだが……。


 そんなわけだから、あかりの発言にみんなこくこくと頷いている。


 因みに、あかり達が頼んだのも夏希と同じパンケーキだったりする。メニューを見ても訳がわからなかったのでとりあえず同じものを頼もうとしたのだろう。なんで、一人を除いて頼んだものが女子会っぽいのか……。あ、女の子だからか。


「なんも問題ないと思うぞ? というか、お前等まだ果物だからいいけどな? 俺は肉だからな? というか、なんで俺だけがっつり飯食ってんだよ! お前等女子会でもする気か!?」

「ん? なら、夜クンじゃなくて夜ちゃんにする?」

「無理矢理口に突っ込まれたいか?」

「部長におにいちゃんがあ~ん!? おにいちゃん、わたしも!」

「そう言う意味じゃねぇよ!」


 何処にいても変わらない二次元部。結局、いつも通りになってしまうのは流石というべきなのか……。


 そうして言い争っていると、スイングドア――西部劇でよく見るドア――の開く音が酒場内に響いた。


「はぁ、やっと着いた……」

「ん、とうちゃく……」


 何処か聞き覚えのあるその声に、夜は声のした方へと視線を向けた。そこには……。


「何あの中二病全快の見た目……」

「んぐっ……!」


 黒髪の一部が白色になっている、所謂メッシュ。羽織っている紅色のコートは銀色の鎖が散りばめられていて、とりあえず見た目は完全中二病患者だった。その言葉が突き刺さったのか、中二病患者さんは胸を抑え付け、項垂れている。


「だいじょうぶ、ショウ(、、、)?」

「あ、あぁ……。ちょっとな」


 中二病患者さんが隣にいる白髪紅眼の美少女に背中をさすさすされている。中二病患者ならぬショウさんの心がちょっと癒えた気がした。


「……ってあれ? なんで中二病って伝わるんだ? それに、ショウって……」

「……あ? どうしてこの世界のやつが中二病なんて知ってるんだ?」


 この世界に“中二病”という単語を知る者はいないはず。だというのに、お互いに“中二病”という単語を知っている。つまり、それって……。


 夜は再び視線を向け、ショウは顔を上げた。二人の視線がぶつかる。


 そして……。


「もしかして魈、如月魈か?」

「そう言うお前は夜か?」


 お互いに顔を見合わせ、確かめ合うかのようにお互いの名前を呼び合う。


 見覚えのある顔。聞き覚えのある声。そして、お互いの名前を知っているということ。つまり……。


「やっぱ魈か! 久し振り!」

「あぁ、久し振りだな。にしても、なんでこんなとこにいんだよ……」

「それはこっちの台詞……って、なんか雰囲気変わったな。前の優等生感何処行った?」

「まぁ、ちょっとな。というか、優等生感ってなんだよ……」


 ショウの変わり様に首を傾げる夜だったが、聞いたらダメなのだろうとそれ以上踏み込まないことにした。言いたくないことを、わざわざ聞き出したくないのだ。


「ゼロ先輩、久し振り!」

「おぉ、夏希か。久し振り……って、もしかして、呼び捨てにしない方がいいか?」


 ショウはニヤリと笑いながら夜の方をちらっとした。その行動が、彼氏()の前だしなぁ、というショウの心の声を言外に伝えていた。


「べ、別に大丈夫! それに、僕とナイトはまだそんな関係じゃ……」

「へぇ、ならいつかそういう関係になると?」

「うぅ……! ゼロ先輩のいじわる!」

「……魈、キャラ変わったな……」


 顔を赤く染めながらそっぽを向いてしまう夏希。そして、やっぱりキャラ変わってね? むしろ崩壊してね? と首を傾げる夜。まぁ、そう思うのも無理はない。夜の知っている魈と今のショウでは、もはや別人といってもおかしくないほど変わっているのだから。


「……」

「ん? どうかしたか、リア」

「……ショウ、たのしそう。リアのまえでは笑わないのに……」


 ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向くリアに、ショウはため息を吐きながら頭をガシガシと掻く。


「そういえば、魈。その子は?」

「あぁ、こいつはリア。えっと……」

「リアはリア。吸血族(ヴァンピシャス)の王女でショウの命の恩人」

「命って……んな大袈裟な……。な、なぁ?」

「いや? なんも間違ってねぇぞ?」

「マジですか……」

「ゼロ先輩どんな修羅場くぐってきたの……?」


 命の危機に陥っていたというショウに、夜と夏希は二人して信じられないといった表情だ。まぁ、平和な日本で命を助けられるという場面はそうそうない。だからこそ、信じられないのだろう。まさか、異世界で魔物に襲われてそこを助けられたなんてわからないだろうし。つか、わかるわけがないし。


「つか待て。今、聞き慣れない単語が聞こえて来たんだけど?」

「ん? あぁ、吸血族(ヴァンピシャス)か?」

「そう、それ! そのばんぴしゃすってなんだよ?」


 聞き慣れない“吸血族(ヴァンピシャス)”という単語に、夜はショウに鸚鵡返しに聞き返した。まぁ、訳もわからない単語が耳に入れば気になるのも仕方がないだろう。


「まぁ、簡単にいえば吸血鬼のことだ」

「……なるほどな、吸血鬼のことか。そっかぁ……ってなってたまるか!」

「ま、そうなるわな……」


 夜の反応に、ショウはやっぱりなと苦笑を浮かべる。吸血鬼とはいわば空想上の生物だ。その吸血鬼が目の前にいるなんて言われて「はいそうですか」と納得出来るわけがない。


「なぁ、魈。本当にこの子は吸血鬼なのか?」

「本当だ。そもそも、嘘を吐く理由がないだろ?」

「確かにそうだけど……」


 やはり納得がいかないのか難しい表情をしている夜。ショウがどうすれば納得するんだ? というかそもそも納得させる必要があるのか? と思案していると。


「あの、魈さん」

「どうかしたのか?」


 声のした方を向くと、そこにはあかりが立っていた。


「綾さんはいないんですか?」

「ここにはいないな。俺も、今あいつが何してるかはわからん」


 きっと、今頃勇者達みんなで仲良く世界平和を目指してるんだろうな、と心の中で付け足した。まぁ、ショウにとってはどうでもいいこと。見殺しにしようとしていた奴等など……。助けようとしてくれた人もいたにはいたが、そうだとしても、どうでもいいこと……。


 その後、雑談に花を咲かせながら夜達は食事を頂くのだった。因みに、ショウは夜と同じステーキ、リアは〝始まりの草原〟産の野菜、兎肉を使ったピラフモドキを注文。鉄板の上で焼かれる鳥肉が香ばしい香りを漂わせ、香辛料などで味付けされたピラフは米一粒一粒が輝いて見えた。


 ……こんなにうまいもん食ってたんだな、(ゼロ)……とショウが呟いたのは言うまでもないことだった。


「ショウ、おいしい?」

「ん? あぁ、うまい」

「リアのたべる?」

「じゃあ一口貰うわ。……うまいな、これ」

「ん、ショウのもおいしい」

「やるとはいってないが……。まぁ、いいか……」


 自然な流れでお互いのを食べ比べているショウとリアをみて……。


「おにいちゃん、わたしの食べる? 食べるよね? はい、あ~ん」

「強引すぎやしませんかね……」


 対抗心を燃やしてあ~んするあかりを横目に、夜はショウのもはや別人というべき変わり様に益々首を傾げるのだった。


ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけましたか?

漸く、漸くです! 夜達展ラブ組とショウ達死姫組が再開しました。ここまで長かった、実に長かった……!

みなさん、お忘れかと思いますが、私の二周年は6/21です。今日、7/18です。

……どうしてこうなったんでしょうね。一ヶ月半ずっと番外編しか出してない気がするんですけど。

と、とりあえず、二周年記念番外は後二話くらいで終わる予定です。あくまで予定ですのでご了承のほどを。

誤字脱字あるかもしれませんが、また誤字ってるよこいつ、とでも思ってください。余裕のある時に直します。

さて、今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。

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