表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

一週間ぶりの光

 巨大蝙蝠を殺し、余りのグロさに吐き気を覚えつつも生きるためだと肉を剥ぎ取った後、暗い昏い洞窟? 洞穴? を歩くこと小一時間程度。


 漸く、太陽と思わしい光が見えて来た。ずっと暗闇の中にいたためか、微かな光でもとても眩しく見えてしまう。


 腕で目元を隠すようにして光を遮りつつ、一歩一歩と近付いていく。


 徐々に歩幅は広くなっていき、気付けば体力はレッドゲージどころかゼロと言っても過言ではない程無いというのに走っていた。


 ほんの少し走っただけで息は荒くなり、目眩に襲われ、足元は覚束ないが、それでも尚走り続けた。久々の外の空気に、高揚しているのだろう。


 そうして、やっとの思いで魈は太陽の光を浴びることが出来た。


「はぁ、はぁ……た、太陽を見るのも、一週間ぶりか」


 一週間。日本で普通に生活をしていた時はあっという間に感じていたその時間だが、この世界では何年、何十年と変わらないくらい長く感じた。


 まぁ、現実離れした体験を無理やりさせられたのだ。死の淵際を彷徨い続けていたのだ。一週間を永遠に感じてもおかしくはないだろう。


 夢にまで見た異世界。まぁ、実際は転移なんてしたくなかったのだが、夢の中では何度も救った異世界。


 しかし、現実は何時だって非情で無情なのだ。それは、日本でも異世界でも何ら変わりはなかった。


 転移したのはまだ良しとしよう。だというのに、勇者として召喚されたのは自分以外の転移者四人で、自分はただ巻き込まれただけ。


 それだけにとどまらず、訳のわからない濡れ衣を着せられて国の仇敵扱い。そのまま奈落の底へ落とされたのだ。まぁ、自分から落ちたのだがそれはともかく。


 しばらく見ることの出来なかった太陽の光に、魈はどこか懐かしさを覚えていた。まぁ、日本で見た太陽とは違うんだろうけど。


「で、ここは何処だ……?」


 何時までも感慨深げに想いに耽るわけにもいかない。故に、辺りを一瞥する。


 そこには、鬱蒼と生い茂る木々が生えに生えまくっている森があった。というか、森の中にいた。


 つまりは、前方に森、後方に洞窟という訳である。


 流石に抜け出した先が街か村だとは思ってもいなかったが、まさか森の中だとは……。


「とりあえず、腹減った……」


 一週間、まともに飯を食っていないのだ。生きるためだからと迷い込んで来た鼠を喰らったりはしたが、足りるわけもなく。魈はそこら辺に落ちていたりする枝や枯葉を集めた。


 集めた枝枯葉を纏めて置き、木と木を擦り合わせる。


「チッ、やっぱうまくいかねぇか……」


 簡単に火が付くとは思っていなかったが、これっぽっちも火が付く気配がしない。時間をかければ着くと思っていたのだが、もしかしたら違うのか……?


 そうして性懲りもなく木と木を擦り合わせること十数分。漸く火が付いた。


「はぁ、はぁ……」


 無駄に疲れてしまったが故に先程走った時と同じくらい息が荒くなっているが、それはさておき。魈はナイフで尖らせた枝に先程剥ぎ取った巨大蝙蝠の肉を突き刺し火に近付ける。


 見た目はやっぱりグロいが、香ばしくも美味しそうな匂いが鼻孔を擽れば、不思議と美味しく見えてしまうもの。一週間ぶりのまともな飯となれば尚のこと。


 流石に生焼けで腹を下したくはないのでしっかりと焼けるのを待つ。


 ……いや、焼き過ぎじゃね? これもう焦げてね? と思うほど真っ黒と化した肉を、魈はいただきますと恐る恐る口の中へと運んだ。


「……意外といけるな、これ」


 思っていたよりも美味しかったからか、あっという間に平らげてしまった。まぁ、比べているものが鼠の肉だから一層美味しく感じるのかもしれないが。


 まだ食べたい、こんなんじゃ足りない……と闇孔の底にて拝借したポーチモドキの中に直に入っている巨大蝙蝠の肉――衛生面とか鼠に齧り付いたくらいだから今更気にしても仕方がないし、そもそもビニール袋のような大層なものは持ち合わせてなどいない――に手を伸ばし、頭を振った。


 言ってしまえば、この巨大蝙蝠の肉は魈にとっての生命線だ。どこかで食料の調達が出来ない限り、慎重になるべきである。だから、一時の感情に任せて喰らい尽くすのは流石にマズイ。


「……ご馳走様。さてと、これからどうするか……」


 何よりも優先するべきなのは、生活の基盤を整え、確固たるものにすること。


 やっとの思いで抜け出したというのに、こんなところで野垂れ死ぬわけにはいかないのだ。


 まぁ、流石にこの世界で生きていくつもりなんて微塵もないのだが。


 いじめ等を受け孤独な時間を過ごすが平和な日本と、今頃指名手配され命を狙われる平和の“へ”の字もないこの異世界。天秤にかければ即答で日本である。


 自分も勇者とか囃し立てられていたらこの世界に居残り続けようと思ったかもしれないが、この世界は魈にとって生き辛い。それはもう生き辛いのだ。まぁ、日本も同じようなものだが、平和で家族がいる分この世界よりもマシである。


「生きるためには衣・食・住が必須。まぁ、住む場所はともかく食い物と服は重要か」


 この世界に移住するつもりはないので“住”は不要。しかし、三大欲求の内が一つである食欲――“食”と、衛生面を気にしての“衣”は必要である。


 肉はどうしたって? ……そ、それはそれ、これはこれというやつである。


「そのためにも、まずは街か村だな……」


 RPGでの知識ではあるが、街や村ならば大抵のものは手に入る。まぁ、それはただのゲームの知識なので、この世界に通用するとは思えないが、悪い案ではないはずだ。情報収集も出来て、衣食が揃うとなれば十分ではないか。


「とりあえず、この森抜けなきゃ話にならねぇか……」


 とにもかくにも、この森を抜けることが先決だろう。


 ガサガサと蠢く草木は如何にもホラゲーのような雰囲気を醸し出している。そういう類のゲームは嫌い、否、少し苦手な魈としては本当ならば足を踏み入れたくもない場所だ。


 だがしかし、たかがそんな理由で立ち止まっていては何時死んでもおかしくない。そもそも、すでに死んでいたっておかしくはないのだから。


「……そういえば、ここってあの城とどれぐらい離れてんだ?」


 もし、レイアスト王国とそこまで距離が離れていないのだとしたら、一刻も早くこの場を離れた方がいい。何時、魈が死んでいないとあの王が知ってもおかしくはない。そして、何時追手が来るかもわかったものではない。


 かなりの距離を歩いたし、それなりに離れているとは思うのだが……用心するに越したことはないだろう。


 警戒しておいて損はないし、まぁ、気疲れするくらいどうってことはない。この一週間で色々と思い知ったのだから。


「にしても、一体どれだけの人が犠牲になったんだろうな……」


 暗くて良く見えなかったが、三桁では収まりきらないほどの白骨死体があの場所にはあったのだと思う。つまり、それだけの人があの国に殺されているということだ。


 玉座の間に連れてこられ、いきなり落とされる。このまま転落死するかと思えば組み込まれたのであろう魔法によってそんなことはなく、閉鎖空間に囚われ不安や恐怖に駆られ、衰弱死させられる。


 惨い。あまりにも惨過ぎる。何なら、あの国の脅威である吸血族(ヴァンピシャス)なんか目じゃないくらい酷過ぎる。


 何が世界を救って欲しいだ。何が魔王だ勇者だ。ふざけるな。魔王というのならあの国の王の方がぴったりである。あれだけの残虐非道を繰り返しておいて救って欲しいだの虫が良すぎるではないか。


「まぁ、いいか。そんなことはどうでも」


 窮地に陥っている国のことも。魔王のことも勇者のことも、何もかも。魈にとっては、すべてがどうでもいいこと。関係のないこと。


 森の中に先程の巨大蝙蝠のような魔物がいてもおかしくはない。故に、いつでも剣を引き抜けるように柄に手をかけつつ、魈は森の中へと入って行った。


 近くでガサゴソと草を揺らし機会を窺う何者かに、気付くこともなく。


ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。

……最近、展ラブよりこっちに力を入れている気がするなぁ……。やべぇ、読者離れてく……。

ショウが魔水を飲んでも大丈夫な理由がわかったでしょうか。何処か矛盾しているような気もしますが、俺の頭が悪かったということでご容赦ください。

次回もそこまでお待たせしないようにしますので、楽しみにお待ちいただければ幸いです。

さて、今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ