いつも通りの日常 前編
七日間ある一週間の内、五日という大半を占める学校生活。
各々勉強し、友人達とお互いに高め合い、より理解を深める。そして、よりよい進学をしようと、よりよい就職に就こうと努力をする場所。それが、学校である。
そんな学校を好きという人がいれば、嫌いという人もいる。
如月魈は、後者の方。つまり、学校が嫌いである。
とある事情でクラスからは孤立状態。友達も碌にいなければ、軽くはあるが虐めも受けている。そんなわけで、学校での居心地は超が付くほどの最悪。嫌いにならないわけがない。
そんなに嫌いなら、そんな状況なら、学校に行かなければいいのでは? と思うだろうが、親を心配させたくはないのだ。それに、逃げ出したような気がして嫌というのもある。意固地になっているだけだろうと言われれば、まったく以ってその通りである。
今日も今日とて魈は憂鬱にどっぷりと浸りながらも、学校の校門を潜り抜けた。すると、チャイムが鳴り響く。朝のHRが始まる五分前に鳴るチャイムだ。出来るだけクラスにいたくない魈は、時間ギリギリに登校するようにしているのだ。そのお陰で、先生に注意されることもあるのだが。
玄関で外靴から上靴に履き替え、廊下を進む。この時間帯だと、生徒達は余り歩いてはいない。先生達も、職員会議をしているので静寂とまではいかなくとも割と静かな廊下を一人歩く。そして、階段を上り左に曲がり、二つ目の教室。そこが、魈の教室である。
魈は軽く深呼吸をし教室のドアを開き、中に入る。すると、仲良く談義中だったはずの生徒達は男女問わず鋭い眼差しを夜へと向けた。その視線には、わかりやすいほどの悪意や敵意が込められている。
直接向けられる悪意は、どうしても辛いものがある。それは、誰であれ思うことだろう。だから、好かれたいと、いいように思われたいと願うのだ。
それ故に、人は自分より上の者につこうとする。そして、自分より下の者を蹴落とそうとする。自分が下になりたくない故に。その蹴落とす対象が、今回は、否、このクラスでは魈なだけ。不平等もいいところである。何せ、蹴落とされる理由が自分に無いのだから。
魈は、毎日毎日飽きるほど頂戴した視線を向けられながら、面倒なことになりかねないのでバレないようにため息を吐いた。ため息の一つや二つ、吐きたくなるのも仕方がない。本来なら、耐えることが出来なくてもおかしくないことだから。
そうして、魈は自席へと向かった。因みに、魈の席は窓側の一番後ろ、詰まるところ一番端の席である。廊下側というのは退屈な授業時間に外を眺めるのにうってつけの席なのだが、この席を決めた先生には他の思惑があると思うのはどうしてだろうか。ありがたいのはありがたいのだが、そのお陰で生徒から思われる陰キャっぷりに拍車がかかっているのだが……。
しかし、どのクラスにも一人や二人存在するのではないだろうか。魈のような、良く思われていない奴に面白半分で話しかけてくる輩が。人を下に見ることしか、蹴落とすしか能のない輩が。魈のクラスには存在するのだ。してしまっているのだ。
「よぉ、オタク。今日も遅刻ギリギリかぁ?」
「もしかして、エロゲとかしてたのか?」
「え、何それ。超気持ち悪いんですけどぉ」
「えぇ、ガチキモいんですけど~」
魈はそんな彼らを一切合切無視し、席に着いた。
一体、何が面白いというのだろうか。ゲラゲラと、それはもうゲラゲラと笑う、否、嗤う男女二人組。毎日飽きもせず、魈に絡んでくるのはある意味尊敬の念すら抱く。まぁ、尊敬するのは飽きもせず続けられるところであって、人を見下すことに関してではないのだが。
確かに、魈は自他共に認める生粋のオタクである。一日の大半を、趣味であるゲーム、ラノベ、アニメ、マンガに費やし、近い将来二次元関係の職に就きたいと思っている。部屋には、数多のアニメグッズの他にゲーム機、ラノベ百十冊と素晴らしいオタク生活を送っている。
だが、オタクオタクと言っても罵られるほど、蔑まれるほどの醜さは魈に存在しない。
話しかけられれば最低限の受け答えはする。つまり、コミュニケーション障害ではない。身だしなみもだらしないということはなく、言動も馬鹿にされるような見苦しさは一切ないと言ってもいい。陰キャ陰キャと言われるが、そこまで酷い物でもない。まぁ、陽キャ陰キャどちらかと言われれば即答で陰キャと答えるが。
世間では、オタクに対する反感が強く、あまりよいものではないと思われている風潮がある。確かに、犯罪紛いの行動をする人たちも中にはいる。だが、それはあくまでも少数で、皆が皆そういうわけではない。それに、世の中には鉄道オタクやアイドルオタクといったかなりのオタクがいる。それなのに、二次元オタクだけを蔑むのはおかしいではないか。
まぁ、世間から良く思われていないオタク達だが、ここまであからさまな侮蔑や敵意といったものを向けられることはほぼないと言ってもいいだろう。だって、嫌ならば関わらなければいいだけだ。好きの反対は無関心のように、嫌いの反対も無関心。なら、無関心でいれば嫌うなんて発想もなくなるはずである。
それなのにもかかわらず、何故ここまで魈に敵意むき出しなのか。
それは、彼女が原因である。
「おはよう、如月君!」
その一声、たった一声だけで、クラスの雰囲気はがらりと変わり、魈に向けられていた視線は彼女へ向けられた。しかし、込められているのは先程まであった悪意や敵意ではなく、尊敬や敬愛の念。
そんな視線を向けられ、クラス中から良く思われていない魈に自分から話しかける数少ない人物。可憐に微笑む彼女の名は光崎綾。彼女こそが、綾こそが、魈が悪意敵意を向けられ、必要以上の侮蔑を向けられる原因である。
彼女――綾は、この高校で有名な生徒である。誰にでも優しく接し、面倒見もよく、責任感も強いことから生徒や先生からの信頼も厚く、頼られることもしばしば。簡単に言ってしまえば、超優等生である。
さて、そんな超優等生な彼女は、毎日と言ってもいいほど魈に話しかけているもの好きでもある。学校一の美少女として、超優等生として有名で学校内で知らない者がいないと言われている綾が、オタクで陰キャでいいように思われていない魈に話しかけるのだ。しかも、自ら進んで。他の人からいいように思われず、悪意敵意をむき出しにされるのも無理はないだろう。光崎さんに迷惑をかけるなクソ野郎とも思われているだろう。まったく、悲しいことこの上ない。逆恨みもいいところである。
だが、もしも、もしもの話だが魈がオタクだったとしても、綾と同じように優等生で超イケメン、運動神経抜群何て言う二次元の世界にいるような現実にはありえない主人公だったなら、優等生で超美少女な綾が話しかけることに対して何も言わなかっただろう。
だが、残念なことに現実は至って非情。そんな都合のいい話は魈には値しない。平均以上でも以下でもない成績に、至って平凡な容姿、運動神経も超普通、それが魈さんである。そんな魈に、誰もが羨む敬う綾さんが接するのだ。それに、オタクという時代の風潮が合わさり悪意敵意に拍車をかけているのだ。どうして、あんな奴が光崎さんと! と。まぁ、同じ平凡な男子高校生からしてみれば我慢ならないのだろう。気持ちはわからなくもない。
さて、そんな綾さんに挨拶をされた魈さんが取る行動。それは……。
「お、おはよう、光崎さん……」
挨拶を返すしかない。その途端、クラスから溢れ出るは濃密な殺気。魈は内心、冷や汗を掻く。毎日毎日浴びている殺気だが、日に日に濃密になっている気がするのは気のせいだろうか。
一度だけ、綾の挨拶をスルーしたことがある。挨拶を返したら殺気を頂戴する。なら、無視すればいいじゃない! と無視したのだが、綾の落ち込む表情を見て殺気はさらに増大。返しても殺意を頂戴し、無視しても殺意を頂戴。一体、どうしたらいいというのだろうか。そもそも、どうして落ち込むんですか、綾さん!?
魈が挨拶を返してくれたことになのかどうかは知らぬ存ぜぬが、綾は嬉しそうに微笑んだ。それはもう、本当に、心の底から嬉しそうに。それに比例して、より濃密なものへとなる殺意。どうしてそんなに嬉しがるの!? と魈は心の中で叫んだ。
魈がどうするか、どうしたらこの場から逃げられるか脳をフル回転させていると、魈の元に三人の男女がやってきた。正確には、綾の元にだが。
「綾、また彼に挨拶か? まったく、本当に優しいな綾は」
少し、否、かなり気障な台詞を言っているのは七瀬優輝。綾と同じで成績優秀の超優等生、運動神経抜群、さらには超イケメンと魈にはない二次元主人公の三拍子が揃っている完璧超人。それだけでなく、なんと綾の幼馴染だったりもする。一体、何処のラブコメ主人公だ! と言いたくなるような男である。
正義感が人一倍強く、綾に注意されているというのに、毎日朝からだらだらしている魈をよく思っていない。因みに、注意されているように見えているだけで実際はただ綾が話しかけているだけである。まぁ、朝からだらだらしているのは事実なのだが。
誰にでも優しく接する優輝くんは女子生徒から告白の嵐だという。が、天然だからか何故かは知らないし知りたくもないが、告白とすら思っていなく彼女と呼べる存在はいないようだ。
男子生徒から敵意とか悪意とか向けられるのは優輝の方なのでは? と思うが、優輝はクラスの中心人物なのだ。さらに、みんなとは友達と呼べる関係らしい。まぁ、それなら悪意や敵意を向けれるわけがないし、そもそも男として負けていると自覚しているのだろう。もう少し頑張ってよ。
「優輝の言う通りだ。そんな奴には何を言っても無駄だろうぜ」
投げやりな感じで如何にも面倒だと言ってのけたのは新田賢吾。優輝の親友であり、成績は普通よりいい方。運動神経は優輝よりもいい。幼い頃から柔道を嗜んでいたらしく、黒帯を所有しているかなりの強者。その為か、巨躯な体をもちかなりの筋肉質。細かいことを気にしない、俗にいえば脳筋である。
優輝同様、だらだらしてやる気のない魈をよく思っていないらしい。まぁ、魈に関わらずやる気のない人間は嫌いなようだ。如何にも脳筋な賢吾らしい。嫌われる身としてはいい迷惑だが。
「ちょっと、二人とも……。ごめんなさい、如月君。おはよう」
優輝と賢吾のあまりの言いように、驚くことに魈に頭を下げ、綾を除けば唯一挨拶をしたのは椎菜美琴。長い髪を後ろで纏めている。まぁ、所謂ポニーテール。女の子にもかかわらず、凛とした容姿や姿勢からは可愛いよりも格好いいと思わせる。言うなれば、大和撫子といったところだろうか。
優輝の幼馴染で、綾の親友でもある。男女問わず人気らしく、男子生徒だけでなく女子生徒からも告白されるのだとか。THE・お姉さまである。
部活動は子供の頃からやっているらしい剣道部である。大和撫子というのも、間違いではないのかもしれない。
「いや、いいよ椎菜さん。俺には構わないでいいから……」
むしろ構わないでと含みながら呟く。いや、ほんと構わないでください。お願いですから。
「え、どうして? 私は如月君と話したいだけだよ?」
その瞬間、教室が静寂という名の極寒零度に包まれ、ざわめきに包まれる。どうしてオタクなんかと……! という声や、光崎さんは優しいなぁという声が聞こえてくる。うん、確かに優しいね。俺もそう思うよ。でも、俺まで罵倒する必要はないんじゃないかな? 不公平、ここに極まれり。
「うん、綾は優しいな」
何故か自慢気に頷く優輝。まったく以って謎である。
今度こそ逃げないと、と冷や汗ダラダラな魈さんに助け舟が出された。朝のHRを知らせるチャイムが教室に鳴り響いたのだ。魈を助けるために鳴ったわけではないとは思うが、助け船なことには変わりない。
「みなさ~ん、席に着いてくださ~い! 出欠確認をしますよ~!」
チャイムが鳴ったと同時にドアを開けて元気な声とともに入ってきたのは担任の先生である玉城紗耶香。可愛らしい容姿と大人にもかかわらずロリ体型なことから“さーちゃん先生”の愛称で親しまれている。先生も満更でもないらしく、その呼び方を咎めることはない。先生として如何なものかとは思うが、それが紗耶香先生の教育方針なら何も言えることはない。まぁ、敬称のあとに先生を付けるのはどうかと思うが、気にしたら負けというものだろう。
魈はナイスタイミングで入って来た紗耶香に心の中で感謝を述べた。まぁ、実際に感謝の念を抱くのは紗耶香ではなく、学校のスケジュールに沿って鳴らすタイミングを考えた何処かの誰かなのだが、この際それは気にしない方向で。
「あ、さーちゃん先生来ちゃった。それじゃあまたね、如月君」
「あ、うん。また……」
何故か名残惜しそうにしながらも、魈に手を振りながら自席へと向かう綾。それに続き、優輝達も自席へと向かう。無視しても殺意を頂戴するとわかりきっているので、魈は綾に手を振り返した。しかし、振り返しても濃密になっていく殺意。一体、どうすればいいというのか……。
その後、紗耶香が連絡事項を伝え、魈は綾に話しかけられるのを防ぐため、そして寝不足だったことも相まって夢の中へと旅立っていった。
そんなおやすみ中の魈さんを気にすることもなく授業は開始された。まぁ、ほぼ毎日寝ているので先生も起こすのが面倒になっているのかもしれない。
そして、寝息を立てる魈を優しい眼差しで見つめながら微笑む綾さん。それを見た男子達は舌打ち交じりに魈を睨みつけ、女子達は侮蔑の込められた眼差しを向ける。本当に不公平極まりない。魈が何をしたというのか。ただ寝ているだけじゃないか。睡眠は大切なのだ。
しかし、今も絶賛おやすみ中の魈さんはそんな視線に気付く事無く、すやすやと夢を謳歌するのだった。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょうか。ここから大幅な変更が垣間見えますね。
そして、ほぼパクリじゃねぇか! というツッコミも頂くのではと思います。ですが、これはあくまで参考にしたというのであってパクリではないです! あの作品が大好きなだけです! これからもそういう場面があると思いますがツッコミはなしで。
新・にどきみよりは早めに異世界転移する予定ですので。そして、鬱展開もないはずです。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。
※物語の流れを大幅変更するため2019/01/13に改稿致しました。




