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巨大な蝙蝠

 抜け道と思わしき洞窟を歩くことかれこれ数十分。魈は、先行きに不安を覚えていた。


「これ、ホントに外に繋がってんのか? 進んでる気がしねぇんだが、ループとかしてないよな?」


 洞窟内を照らす明かりなど当然ないので、何処を歩いているのか、本当に進んでいるのか不安に思えてくるのだ。


 数十分歩き続けているのに、一向に出口に近付いているようには思えない。真っ暗なので、元の場所に戻っていても気付けない。ゲームとかでよくある気付いたら元の場所に戻ってましたなんてことになっていないことを祈るばかりである。


 かといって、進むことを恐れて戻るなんてあり得ない。野垂れ死ぬくらいなら、最後まで諦めず死んだ方がよっぽどマシである。死ぬ気なんて毛頭ないが。


「まぁ、いざとなれば戻ってあの孔這い上がるか。登ってけばいつかあの城に辿り着くだろうし……っ!?」


 魈は直感に従い、すぐさま背中の剣へと手を伸ばし、振り向きざまに横一線に薙ぎ払った。一週間も身体を動かしていなかったが故に、身体が悲鳴を上げているがそんなことは今どうでもいい。


 真一文字に振るわれた剣を伝って、魈は何かを斬った感覚が確かにあった。それも、肉を切る感触だ。休日、仕事で忙しい両親の代わりに妹と一緒に料理をするときがあるのだが、その時に包丁で肉を切り分けた時の感触と似ていたのだ。


 魈にはまったく見えていないが、後ろから襲い掛かろうとした何か――魔物は蝙蝠のような風貌をしていた。しかし、大きさは魈の知る蝙蝠と比べられない程の巨体だ。下手をすれば、十倍くらいの大きさかもしれない。それほど、魈を襲った蝙蝠は大きかった。まさしく魔物である。


 魈が振るった剣は、確かに巨大蝙蝠の腹を掠めていた。日本で知られている蝙蝠に流れる血の色は詳しくは知らないが、生物ならば赤色のはずである。だが、目の前にいる巨大蝙蝠の流す血の色は、緑色だった。


 飛び散った血液が近くの岩石に付着すると、ジュッと音が鳴り、ドロリと溶けた。どうやら毒を持っているらしい。


 ――キシャァァァ!


 巨大蝙蝠は呻き声を上げるのと同時に、超音波を発した。超音波を聞いた者は、誰あろう発狂させ、衰弱させる効果のある超音波を。


 そんな超音波を受けた魈はというと……。


「うっせぇな。どうにかなんねぇのか? その声は」


 全然効いてなかった。やせ我慢でもしているのか? と思ったが剣を構え始めたことからその可能性はないだろう。


――キシャ!?


 今まで、巨大蝙蝠の超音波を聞いて無事だった者は誰一人いない。ここの洞窟に来たのはつい数日前(、、、、、)なのでこの場所で出会ったのはまだ魈だけだが、他の洞窟では挑んで来た、または遭遇した冒険者は全て己の血肉へと変えて来た。


 だというのに、目の前にいる男は、魈は平然としているのだ。訳がわからない! と驚くのも無理はないだろう。なので、驚愕の声とともに超音波も更に放出。やけくそだと言わんばかりに超音波を発するが、やっぱり魈には効いていないようだった。


 因みに、どうして魈には巨大蝙蝠の超音波が意味を成さないのか。そんなの、魈が既に衰弱しきっているからである。衰弱している魈を、衰弱させても無意味だから効かなかったのだ。


 魈も巨大蝙蝠も、そんなことは露知らず。魈は剣の切っ先を巨大蝙蝠へと向け。


「……ったく。こちとら一週間まともに動けず食えずで死にそうなんだ。この世界に、経験値なんてもんがあるかどうかは知らねぇが……。俺の糧になってもらおうか」


 ニヤリと狂気に満ちた笑みを浮かべ、瞳を狼のように剣呑に細めながら魈は言った。


 魈から溢れ出る殺意に、巨大蝙蝠は自分が気付かぬ内に魈から距離を取っていた。本能が巨大蝙蝠にそうさせたのだろう。目の前にいるこの男は、敵対してはいけない相手なのだと。


 どうやら、優しさと思いやりを不必要とし、削ぎ落とした魈の放つ殺意は、巨大蝙蝠に畏怖の念を抱かせるには十分、否、十二分だったらしい。巨大な蝙蝠が、一回りも二回りも小さい魈に怯える姿は、それはそれでシュールな光景だった。


 しかし、流石というべきか。長年の経験がそうさせたのか巨大蝙蝠は超音波を発するのをやめ、代わりに緑色の息を吐き出した。先程の緑色の血液が毒を持っていたことから考えると、毒霧の類であろう。


 毒耐性もなければ、毒を治癒することが出来る薬草だったりポーションも持っていなければ、魔法も使えない魈は不利な状況にある。


 だというのに、魈は逃げようとはしない。不利な状況だからって、逃げているようじゃこの世界では生きていけないという考え故に。


「くそ、厄介だな。これじゃ近付けねぇ……。こういう敵とは距離を取って戦うのが定石だが、魔法使えねぇしな……。別の遠距離で戦う方法考えとかねぇと」


 下手をすれば死んでもおかしくないこの状況。だというのに、魈は意にも介していないようだった。一体、この自信、否、傲慢さはどこから出てくるのだろうか。


そして、昔の魈は何処に行ってしまったのか。まぁ、あの闇穴の底に置いてきたのだが。


「その前に、お前邪魔だわ」


 魈は冷え切った眼差しを巨大蝙蝠に向けると、毒霧を吸わないように、触れないようにコートに付いているフードを目深にかぶった。これだけで対策になるとは思えないが、何もしないよりはマシだろう。


 身体はやはり悲鳴を上げているが、まだ問題ないと自分に言い聞かせながら巨大蝙蝠へと駆けた。まさか真正面から立ち向かってくるとは思いもしなかったのか、巨大蝙蝠は回避行動が遅れてしまった。人一人が通るには十分、否、十二分とはいえ五メートルもの巨大だ。躱すにしても動ける範囲は限られてしまう。故に躱しきれない。


 魈は剣の切っ先を巨大蝙蝠の腹部目掛けて突き刺した。キシャァ! という呻き声が上がるが、関係ないと突き刺した剣を力一杯押し込む。それでも足りないのか、巨大蝙蝠はまだ息があるようだった。流石は魔物と言ったところであろうか。


「はぁ、はぁ……。これで死なねぇのかよ……」


 魈はその場に膝をついた。どうやら、身体が限界を迎えてしまったらしい。既に衰弱しきっていた身体を酷使したのだ。一週間、碌に何も食わず、水しか飲んでこなかった。その上、ふらつく身体に鞭を打って数十分間歩き続け、そして悲鳴を上げているというのに関係ないと自分を騙し剣を振るったのだ。限界を迎えていて当然である。


 しかし、限界を迎えていたのは巨大蝙蝠も同じなようで。


 ――キシャ、ァ……。


 最後に弱弱しい呻き声を上げながら、ズズンと音を立ててその場に倒れた。


「はぁ、はぁ……」


 魈は剣を杖のように扱いながらやっとの思いで立ち、巨大蝙蝠の様子を確認する。すると、巨大蝙蝠はピクリとも動かなかった。やはり、魔物とはいえど生物。腹を刺されれば致命傷にもなる。突き刺された場所にある臓器が心臓(、、)なら尚更である。


 魈は息のない巨大蝙蝠を見て、もう一度剣を突き刺した。


「……動かねぇな……」


 死んだふりでもしているのではないか? と思ったのだが、どうやら杞憂だったようだ。


「それもそうか……。これだけ、血が出てりゃ死ぬよな……」


 自分の手で殺した巨大蝙蝠の骸を見て、魈は考え込んでしまっていた。もしかしたら、自分がこんな風になっていたんじゃないか、と。


 しかし、魈は襲い掛かってくる畏怖を振り払うように首を振った。わかりきっていたことだろう? と自分に言い聞かせる。


 魈は絶対に生きると心に決めた。邪魔をするものは何であろうと殺して突き進むと決めた。しかし、その選択は困難な道を歩むことになるのだ。


 今はまだいいかもしれない。だが、この先何があるのかわからない。ここは異世界、日本で培った常識や定義がこの世界に通用するとは思えない。そんな最高難易度な世界を一人で生き残らなくてはいけないのだ。


 魈が生きているということをレイアスト王国が知れば、何が何だろうと殺しに来るだろう。きっと、勇者四人組と対立することになる。自分の十倍の力を有している優輝と、やっぱり自分よりもチートな綾、美琴、賢吾の四人と戦わなくてはいけなくなるだろう。


 死ぬことがわかりきっているのに、諦めずに立ち向かう。それが、魈の決めた選択なのだ。


 いつ死ぬかわからない。ずっと先かもしれないし、明日かもしれないし、今からもしれない。


 今だって、魈が既に衰弱しきっていたからよかったものの、万全の状態だったら死んでいたのは巨大蝙蝠ではなく自分だっただろう。成すすべなく、特殊な超音波によって動けなくなり、パクリと頭から喰われて腹の中に納まることになっていたかもしれない。


 そんな死と隣り合わせな世界を、一人で生きていかなくてはならない。そのことに、魈は今更ながら恐れを抱いた。高校生と言ってもまだ大人と子供の境目である。右も左もわからない異界の土地に一人きり。魈の抱いている不安は形容しがたいものであろう。


「それでも、俺は生きるって決めたんだ……!」


 だが、それがどうした、と言わんばかりに魈はニヤリと笑って見せた。


 勿論、魈とて人間、生物だ。死に対する恐怖はある。今も、微かだが手が震えている。


 それでも、魈は前を向かなくてはいけないのだ。自分の心に誓ったのだから。生きてやると、邪魔するものは殺してやると、心に誓ったのだ。


 そうして、魈は杖代わりにしていた剣を背中の鞘へと納めた。キン! と子気味良い音が洞窟内に響き渡る。


 暗闇に慣れてきたお陰か、少しずつ見えるようになってきた魈は巨大蝙蝠の方へ視線を向けた。すると……。


「うわぁ……」


 内臓をぶちまけている巨大蝙蝠を見てドン引きした。目の前の惨状の犯人は自分だというのに。


 バイオハ〇ードとかやっててグロテスクなものには少し抵抗があると思っていたが、やっぱりリアルと二次元は違うんだな、と魈は心の底からそう思うのだった。


ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。ショウが少し強くなりました。意味のない魔力だけですが……。

さて、次回は綾達勇者sideになるかと思います。そこで、ショウの魔力の秘密もわかるかと。あの、湧き水の秘密も。

さて、今日から四日間テストなんですよね……。昔の俺ならテストなんざ知らねぇ! の一蹴だったと思います。まぁ、今も同じようなものですが。

それで、今週の更新は難しいかと思います。出来るだけ努力はしますが、下手をすれば補習になって死ぬ可能性も……。

まぁ、頑張りますけどね。

さて、今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。


※2019/05/27に改稿しました。

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