夜警ら
三番コースは、県内有数の飲み屋街と国道を通る一番面倒なコース。
ゆっくり飲み屋街を通過し、飲酒運転の車を探す。交番から二人の警察官が走って出てくる。酒絡みの事案でも発生したのだろう。
「あの前のワンボックス。声かけるか…」
「分かりました」
一ノ瀬の指示でワンボックスを止めることにした。莉奈が赤色灯のスイッチを押し、マイクを手に取る。
「前のワンボックスの運転手さん。左に寄せて止まって下さい」
莉奈の声に周りを歩く人が振り向いた。周りの人が気付いているのに、ワンボックスは止まらない。
「パトカーの前のワンボックスの運転手さん。止まって下さい」
やっと気づいたのか、ハザードが点灯し、ワンボックスが左に寄って止まる。
「よし、行ってらっしゃい」
一ノ瀬がワンボックスの後方に覆面パトカーを止めた。
莉奈はシートベルトを外すと、ワンボックスの運転席へ歩いて向かう。
「運転手さん。窓開けてもらえますか?」
車内で何かを探していたのは、見た目三十代の男性。顔は少し赤いかも。
「何ですか?職質?」
「飲酒の取締りしてまして。運転手さん、飲んだりしてませんかね?」
莉奈の問いかけに首を振る男性。
「息吐いて貰えますか?」
微かに酒臭がする。
「運転手さん飲んでますよね?」
「飲んでないって」
「じゃあ、パトカーでお酒計らせて貰えますか?」
莉奈が覆面パトカーを指差した。一ノ瀬がパトカーから降り歩いて来る。
「運転手さんすぐに済みますので、ちょっとだけ協力して貰えますか?」
一ノ瀬の助け舟もあり、渋々ドライバーをパトカーに乗せることが出来た。
「まず、うがいして貰えますか?」
紙コップと水を渡す。ドアを開けて水を吐いたドライバー。
「この風船パンパンになるまで一気に膨らませて下さい」
莉奈の渡した風船が一気に膨らむ。このドライバーの肺活量はすごいみたい。
「この検知管使って計らせて貰います。未開封であることを確認して貰えますか?」
両手で丁寧に検知管を渡すと、ドライバーは興味津々に受け取った。
「はい。確認しましたよ」
ドライバーから両手で検知管を受け取り、両端を折る。
一ノ瀬は、ただ莉奈の様子を黙って見るのみ。
検知管をポンプに繋げ、風船を付ける。ポンプで風船の空気を吸い、しばらく待つ。
「飲酒検知初めてですか?」
「初めてです。検知も警察に止められたのも」
「じゃあ、ドキドキだぁ…」
一ノ瀬が適当な会話をして、時間を潰す。この会話も本当は、莉奈がしなくてはならないし、将来的に、白バイで一人で勤務すれば、一人で会話をもたせないといけない。
規定の時間が経ったため、莉奈は検知管の目盛りを見る。
「数値は基準値ギリギリ行ってないですね」
莉奈は数値を読み上げた。
「どうなりますか?」
「検挙の対象ではないので、厳重注意という形ですね。次回から気を付けて下さい」
一ノ瀬がドライバーに声をかける。
ギリギリ検挙出来なく、とても悔しい。
その後、ワンボックスを一ノ瀬が運転し駐車場に止め、家族の迎えを待つこととなった。一ノ瀬がワンボックスを運転していたため、莉奈は覆面パトカーを運転することとなった。
また、クリープ現象走りになり、一ノ瀬にけなされた。
家族にドライバーを無事引き渡し、厳重注意とし、警らを再開させる。
「惜しかったな。さっきの」
「ですね。あと少しでしたから」
基準値を超えなかったなら仕方ない。
「はい。一時不停止」
莉奈は、素早くサイレンを吹鳴させた。