勝負
トラックのドライバーの切符処理を終え、警らルートを走る。新人隊員には指導担当の先輩が一定の研修期間のみ一緒に行動し、常に二名体制を取る。後輩の運転や説得を見て適宜指導を行うこの研修。
次は、一ノ瀬の後を走り、一ノ瀬の取り締まりを見学する。違反者を見つけることに精一杯な莉奈とは違い、常にリラックスして乗務する一ノ瀬は、子供に手を振る余裕さえある。
『県警本部から各局。暴走車両目撃情報入電中。以上県警本部』
突然の無線に、さすがの一ノ瀬も真面目モードに突入したのが、後ろを走る莉奈にも分かった。
『県警本部から各局、暴走車両目撃情報。現在、同じ車両と思われる通報が相次いでおります。車両は黒のセダン。信号無視を繰り返し、事故を起こしながら依然暴走中とのこと。県道 長島新田線を南方向に走行中。滝ヶ丘地内を移動中の各局は、車両の早期発見と停車に努めよ。なお、詳細わかり次第続報する。交通事故、受傷事故に十分注意されたい。以上、県警本部』
一ノ瀬が左手で莉奈に合図を送る。 確かこの合図は、赤色灯付けろだったはず。莉奈は焦りからか、間違えてサイレンのスイッチを押してしまう。
いきなりのサイレンにさすがの一ノ瀬も驚き、勢い良く振り返った。
「すみません」
マイクで呼びかけると一ノ瀬は左手を挙げた。今日は指導担当が優しい一ノ瀬でよかったが、このミスを他の先輩の前でやれば、お説教は避けられない。
長島新田線は、今まさに二人が警ら中の道路。しかも、南方向へ走行中であるなら、対向車線を暴走車両が通るはず。
『交機 七○五及び七○八から県警本部』
『県警本部です。どうぞ』
『長島新田線上を北方に警ら中。現時刻をもって検索移行どうぞ』
『県警本部了解』
『以上、交機七○五、七○八』
一ノ瀬が莉奈の白バイの分も本部へ無線を入れてくれる。
変わった性格で無ければ、もっとモテるはずなのに。
その後も続々と検索に加わる車両の無線が鳴り、どんどん包囲網が敷かれて行く。また、続報としてバンパーが欠落し、右のライトが欠けているとの情報が入る。
大きな交差点で信号待ちをする二人。
「莉奈ちゃん。どっちが早く見つけられるか勝負しようよ」
その声に驚き隣車線を見ると、覆面パトカーの助手席から見覚えのある顔が微笑んでいた。確かこの人は機動捜査隊の安藤さん。
「負けませんよ」
莉奈が笑顔で返す。
「もし、俺達が勝ったら女の子紹介してね」
信号が青に変わり、その言葉を残し勢い良く走り出す覆面パトカー。
絶対に先に見つけてみせる。小さく呟いてから、白バイを走らせた。
ご意見、ご感想お待ちしてます。