帝国の大臣ハザック
神秘の森に火を放った帝国の騎士団を率いる大臣ハザックの話です。
「まだかぁッ!!!! まだ見つからんのかッ!!」
騎士団たちに、ギラギラと目を見開いてツバを飛ばしながら叫んでいるのは、自身の財力がこれ程だと言わんばかりのギラギラ宝石の付いた服を着ている肥えた男、ハザックだ。
騎士団は神秘の森の調査に来ていた。魔力を持つ木々の調査、そして精霊の住まうと言われる場所の調査だ。
だが、本当に精霊の住まう場所があるのかは分からない、それでもあると言われる場所の調査をこの声を荒らげる男によってすることになった。
この、神秘の森があるのはランザール大国。今はレイナス帝国との戦に破れかけようとしていた。もともと、精霊の信仰の強いランザール大国は平和を望み、争いを好まない。しかし、レイナス帝国が精霊の力を奪おうと、ランザール大国に侵入した。
突然のレイナス帝国からの攻撃、そしてその目的が自分たちの信仰する精霊と知り、ランザール大国は猛激怒。そして、始まった戦争だが、ランザール大国がレイナス帝国に追い詰められ、神秘の森が奪われてしまったのだった。
「精霊の住処をさっさと見つけ、伝説の実と精霊を手にするのだ!!!」
そう、ハザックの目的は伝説の実、トロイ。それは、どんな怪我や病気も直し、特別な力を得ることができるといわれる。その言い伝えは誰もが知るが、その実を見た事がある者はおらず、神話の中の実として語り継がれていた。しかし、その実の存在を裏付ける古代書がレイナス帝国の古代遺跡、その奥深くから発見されたのだ。
古代書によると、神秘の森の奥深くにある精霊の住処に生えた木にできているという。
そして、その場所はランザール大国に存在するという事も分かったのだった。
騎士団は知らない話だが、声を荒らげる肥えた男、ハザックは知っていた。その国家機密である情報をハザックは皇帝直々に機密任務として任せられていた。
『必ずや、伝説の実トロイを我に献上せよ。この事は口外してはならぬ。』
その背筋が凍るような、冷酷な声、瞳を思い出し、ハザックは震えた。
必ずや、伝説の実を献上しなくては…そうで無いと私は…私はッ!
残虐な自分の王を思い出すだけで震え上がる。何で機嫌を損ねるかわからない、表情の変わらない冷たく整った顔。少しでも機嫌を損ねるだけで首が飛ぶ。
これまでに、動きの遅い使用人、少し咳き込んだ同僚の大臣達の首が飛んだ。
次は…自分かもしれない、そう思うと何か何でも伝説の実を献上しなくてはならない……それに、王は精霊の力も所望していた。
伝説の実と精霊を献上すれば…。まだ手にしていない褒美を想像しゴクリと喉を鳴らす。
そして、まだ消し止められていない火を目にし…
「さっさと火を消し精霊の住処を探せッ!!」
と声を荒らげるのだった。
騎士団には騎士団長がいますが、この時は大臣のハザックが行かされました。皇帝は残虐な恐ろしい人ですが、自分勝ってでもあり、人を振り回します。勿論拒否権はありません。それで失敗すれば殺されるので周囲の人はたまったもんじゃないですね。