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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第8話「ドゥーゴ村」


「とうちゃーくっ」


 ドゥーゴ村。

 大木を加工して作った立札に『ようこそドゥーゴ村へ』と書かれている。ヒナタはその立札が見えるなり、歩を早め村の中へ入っていった。


「……ようこそって状況じゃねぇぞ」


 ヒカルはドゥーゴ村の周りを観察しながらドゥーゴ村に入った。彼の感想は立札の文句の割に人がいない、だった。彼は村の感想をぼそっと呟いた。

 ヒナタは派手な装飾の立札を指してドゥーゴ村の現状を教える。


「検査が行われる前までは、ここ、にぎわってたのよぉ」

「ほんとか」

「ほら、昨日話したわよねぇ。ソルトスの行き方」

「あれかー」


 昨夜木の枝で書いてくれた簡略的な地図。あの地図ではソルトスという町を目指すために通る場所だった。


「ソルトスって有名な場所なのか」


 ヒナタに聞こえないほどの小さな声で呟いた。これが彼女に聞かれればまた呆れられるというのが目に見えていたからだ。

 有名な場所であれば各地でソルトスへ行きたいと思う人が多いはず。森を抜けた後、ソルトスへ向かうまで休憩、食料などの補給はこのドゥーゴ村だけ。ソルトスを訪れる人が多ければこの村は相当にぎわっていただろう。


「検査があるからこの通りなのか……」

「レアタル洞窟があるっていう話はあまり知られてないからぁ。検査って人の動きを抑える目的で作られたものだしぃ」

「そうだったのか」

「えぇ。検査に通るのは本当に用事があると認められた時だけなの。はねつけられるのがほとんどぉ」

「厳しいな。あれ、ヒナタは長くて一日かかるんじゃないかって言ってたけど」

「私は、特別ぅ」


 検査が思ったよりも厳しいようだ。

 ヒナタから検査の話を聞いた。検査の目的は村や町の人の出入りを最低限に抑えること。それは数か月前から始まり、それ以降ヒナタやヒカルのような旅人はめっきり減り、ドゥーゴ村は村人しかいない寂しい村になったそうだ。


「おかげで観光業で生計を立てていた場所は廃れちゃうの。このまま検査が続けば破たんするんじゃないかしらぁ」

「それ、大問題じゃねぇかっ」

「事実いくつかの場所では店や宿は閉めたとか……。検査で故郷に帰れない旅人の餓死とか、捕まえられて労働力にさせられちゃうとかぁ」

「捕まえて労働力?」


 店もなくなり、泊まる場所もなければ、旅人は旅の途中で餓死してしまう。現にヒカルもヒナタに出会わなければこの森を抜けることなく餓死していたかもしれない。

 餓死するのは分かるのだが、そういう人間を捕まえて労働力にするというのはどういうことだろうか。


「いいことじゃねぇの?」


 移動の制限があり、自由に動けず食料も寝床もない旅人にとって働き場があるのはとてもいいことだと思う。ヒカルは思ったことをそのまま口にした。


「もしもあんた、肉体労働を休憩なしにぶっ続けで一日やった場合どうなるぅ?」

「死ぬだろ」

「捕まった人たちはぁ、似たような労働条件で働かされているのぉ。食事と仮眠の時間はある程度与えられているんでしょうけどぉ、それでも休んだ気にはならないでしょうねぇ」

「……」


 悪い。悪すぎる。

 行き場のない人たちに働く場所がありいいと思ったヒカルだったが、ヒナタの話を聞いて変わった。働く場所があるといっても、肉体労働を休みなしはつらい。それでは過労で死んでしまう。


「んでもってぇ、国が“緊急措置として”と付け加えてやってることだからぁ、余計たちが悪いのよねぇ」

「過酷な労働条件で働かされてるのが罪じゃねぇって!? おかしいぜっ」

「皆もそう思ってるわよぉ。だから旅に出ようとは思わずに質素に近場で暮らすわけぇ。でも、それって……」


 二人は村の中を歩きながら今いる国の情勢について話していた。彼女は彼にも理解できるように噛み砕いて話してくれた。ペラペラとお喋りだった彼女が言葉を止めた。


「飼い殺しよねぇ、猛獣が暴れないように檻に閉じ込めている感じぃ」

「そうだな。そんな状態だったら自分たちの生活で精いっぱいで反乱とか起こせねぇよな」

「まぁ、それが目的なんだろうけどぉ」

「目的……」

「みーんなが暴れださないようにぃ、法律でガッチガチに閉じ込める。それが真の目的よぉ」


 ヒナタは歩を止めた。ヒカルも倣って止まる。

 立ち止まったのは服屋と書かれた店だった。生活で必要になるものの一つである衣類の店は通常通り開いていた。

 ヒナタは店に入り店員の青年に向かってウィンクした。青年は彼女の姿を見るなり「いらっしゃいませ」と来店客に笑顔で挨拶をした。しかし、無理に笑顔を作っており歓迎していないのが見て取れる。

 さっきヒナタが言ってた旅人ことかな。

 だとすれば、村人でない来客が現れたら喜ぶし、利益につながるだろうから逆の反応を見せるはず。

 

(もしかしたら昨日話してくれたヒナタの名前を聞いたら腰を抜かすって話か)


 村の服屋の店員にも通用するのだからヒナタは皆に相当恐れられているのだろう。


「あの子の服を仕立ててあげてぇ」

「……わかりました」


 ヒナタはヒカルを指して、服屋の青年に指示をした。

 指示を聞き店員はヒカルのほうへ駆け寄った。巻尺を持ち、ヒカルの体の寸法を測る。着衣での状態の寸法を測ったのち、個室に案内され下着での寸法を測った。

「なぜ、あなたはあの人と一緒に行動しているのですか?」


 サイズを測り紙に数値を記していた最中、青年がヒカルに声をかけた。ヒカルは「それは……」と言葉を濁らせた。


「度胸ありますね、あの人と一緒に行動するなんて……」

「あるよなぁ」


 ヘラヘラしたヒナタの態度が豹変する姿を二度見たことがある。

 一度目は名を明かした時。

 二度目は魔物を倒す瞬間。

 豹変した直後は背筋が凍った。青年がヒカルに警告しているのはあの状態の彼女のことだろう。今はあれが魔物に向かっているが、それがもし自分に向けられたら――

 確実に殺される。

 立ち向かう度胸がない、武器を持っているだけで腰が抜けそうなヒカルなど簡単に倒されてしまうだろう。


「けどよぉ、今はヒナタに頼るしかねぇんだ」


 皆が恐れている相手と行動を共にするなど本当はしたくない。しかし、ヒナタはソルトスへ行くまで、旅の安全を約束してくれた。

 金も周りの土地勘もない今は、ヒナタの言葉を信じるしかないのだ。そうヒカルは自身に言い聞かせた。


ドゥーゴ村にとうちゃ~く!

村人の言葉で、ヒナタに疑念を持ってしまいました、それは正しいのか、それとも?

服屋に来て、ヒカルの寸法を測った理由は次話分かります。

次話お楽しみに!

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