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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第7話「疾風の一撃」


「おっきなさぁーい」


 ヒナタの声でヒカルは目覚めた。

 目を開ければ、太陽が昇ったばかりで起きる時間ではない気がする。「うぅ」とうなりながらヒナタの声は夢の中で聞こえたのだと思い込んだヒカルはまた瞳を閉じ二度寝を始めた。


「寝るなぁぁ」


 ヒナタはヒカルの体にかけられているフトの葉を全部剥ぎ、足で彼を踏みつけた。その痛みで彼は目を覚ました。彼女が足を離した後で肩をさすり痛みを和らげる。


「まだ朝じゃ……」

「朝よぉっ、太陽が昇ってるじゃない」

「……」


 太陽が昇り、夜よりは視界が開けているものの、一面霧で薄暗い。フトの葉から抜け出せば夜よりも肌寒く身震いがした。ヒナタの顔に向けて盛大なクシャミを向けたのち「朝じゃねぇ」と文句を言った。

 ヒナタはヒカルの態度に腹を立てた。


「いつまでも寝ぼけてんじゃないわよぉ。日が昇れば霧に包まれようと寒かろうと出発すんの」

「そんな時間なのか?」


 今度は大きな欠伸をしていった。


「いい加減、寝ぼけた頭シャキっとさせなさ~いっ」


 ヒナタは握った拳をヒカルに突き付けた。

 ヒカルはその拳にある女友達のことを思い出し、後ろへのけ反った。目を大きく見開き拳を最低限のダメージで受け止めるために身構えた。その素早い反応から、ヒナタはふぅと息を吐く。


「目が覚めたかしらぁ」

「その拳で目が覚めた」


 女友達の暴力は加減がなくそして的確な場所を狙ってきた。そのまま寝ぼけていたら、歯が抜ける程の右ストレートを頬にくらっていただろう。


「ほら、ドゥーゴ村まで半日で着きたいんでしょ。この調子だと日が暮れちゃってまた野宿になるわよぉ」

「それ、問題の一つに入る?」

「入るわよぉ」


 先に起きたヒナタは毛布をすでにバックの中にしまっており、出発の準備が整っていた。

 荷物もないヒカルの支度といえば、ただ起きて服の皺を伸ばすだけ。寝ぼけていても、時間のロスにはならなかった。

 ヒナタの先導でメデサの森を向けるために出発する。

 森を歩いているうちに日が完全に昇り、鳥のさえずりが朝を告げた。太陽の光によって霧が晴れてゆき、ヒカルの目も冴える。


「今日もいい天気ねぇ」


 ヒナタも背を伸ばし、朝を感じていた。


「……あらぁ?」


 突然ヒナタの足が止まった。

 何事かとヒナタの隣に立とうとしたヒカルだったが、彼女が広げた腕に拒まれてしまった。なぜだと説明を求めたが、彼女は首をクイッと動かし、その場所を見るように示唆した。

 二人の視線の先には、昨日と違った姿の獣がいた。


「殺れる?」


 いつもの口調も消え、最低限のことをヒカルに尋ねた。


「……」


 昨日は乗り切れたが、今日の獣は二人よりも背が高く体格がいい。熊のような姿をしているが、背の体毛が鋭く棘のように生えており、ヒカルが思っている動物ではないと分かった。相手の武器である爪も強力そうで木の棒では太刀打ちできそうにない。ヒカルは強がらずに首を横に振った。


「じゃ、下がって」


 足手まといだ。

 そうは言わなかったが、ヒナタの「下がって」という言葉にはそういう意味が含まれているように感じた。

 ヒカルは離れた場所で、ヒナタと獣との戦いを見守る。

 獣は敵意を表しているヒナタを標的にした。眼光を彼女に向け腕を力強く振り下ろした。

 獣が振り下ろした時にはヒナタの姿はなく、彼女はすでに獣の懐の中にいた。

 ヒールの音が一段と鋭く聞こえた。

 獣の懐に入ったヒナタの次の行動は反撃だった。腹部に装備されているナイフのホルダから一本抜き出し、それを獣の胸部に突き刺した。突き刺した個所から血液が流れていたが、獣の動きは止められない。反撃の痛みから、獣は心臓が縮むほどの咆哮をあげた。

 遠くにいたヒカルはそれにたじろき、早くなった鼓動を落ち着けるために胸を抑えた。

 その咆哮にはヒナタも驚いたようで耳を両手で覆い、目を丸くしていたが「まだ元気ねぇ」と命を奪われるかもしれない相手を目の前に余裕である。

 獣は余裕な態度のヒナタがいる場所めがけて再び爪を振り下ろす。今度は獣の爪が地面を抉り、当たったならばヒカルの頭部から胸部にかけて抉られていただろう。

 その場所には標的であるヒナタはいなかった。


「おっそーい」


 獣が狙った場所から約二歩下がった場所に彼女はいた。地面をえぐるほどの大きな音でかき消されてしまったが、二歩下がった足音が鳴ったのだろう。


(え、遅くねぇだろ)


 獣が思っていただろうことをヒカルが代弁する。

 咆哮をあげ、相手をひるませた後に攻撃する戦法は有効だ。それに振り下ろされた速さは一回目の攻撃よりもはるかに早かった。しかし、現実は咆哮の大きさに驚き、獣に攻撃されるまでの間、ヒカルは行動できなくてもヒナタは二歩動けた。


「すげぇ……」

「驚くのはまだ早いわよぉ」


 ヒカルの独り言を耳に入れてしまう地獄耳もすごかった。

 ヒナタはホルダからナイフを二本取り出し左右の手にそれぞれ一本ずつ握った。


「もう、楽にしてあげるわぁ」


 大型の獣と、高いヒールを履いたヒナタとの戦闘も終盤のようだ。平常なヒナタの顔つきが険しくなった。


「っ!?」


 勝負はヒカルが二回ほど呼吸をしている間に終わった。

 一度目、二歩ほど離れていた距離をヒナタは一歩で詰めた。獣は彼女の頭を噛み砕こうとしたが、空振りに終わる。

 二度目、噛み砕く攻撃をかわしたヒナタは獣の首元に一方のナイフを突き刺した。刃が毛皮を貫通していることを感触で確認した彼女はもう一方のナイフを同じ個所に突き刺した。

 獣と一人の女性はその体制のまま数秒固まった。

 数秒後、獣の巨体はあおむけに倒れた。下敷きにならぬよう、ヒナタは二本のナイフを抜き、離れた。ドンっと周りの木々、草花が揺れる程の轟音を立てて獣が倒れた。


「……死んだのか?」

「えぇ。このヒナタ様に立ち向かったばかりに、ねぇ」


 倒れた獣が動かないかと用心しながら少しずつヒカルはヒナタに近づいた。彼女はその間にナイフに付いた血を毛皮で拭き取り、バックの中から白い液体を少量、ナイフの刃に振りかけていた。まんべんなく伸ばしたところで違う場所の毛皮それをで拭いた。


「ヒカル、てつだ……」


 処理を終えた二本のナイフを元の場所に戻したところで、手伝いをしてもらうためにヒカルに声をかけた。そこで、ヒナタと目が合った。


「顔色悪いわよぉ」

「……」

「ねぇ」

「こういうの慣れてねぇんだ」


 ヒナタに心配され、ヒカルは今の心境を正直に答えた。顔色が悪く、胸がざわつき、吐き気がする。彼女はそれを聞くと、彼の背にポンポンと軽く触れた。


「ほんと平和な所で育ったのねぇ」

「……まあな」


 ヒカルの顔色が良くなったところで、二人は獣をうつ伏せからあおむけにさせる。獣は目を見開き、口を開いたまま硬直していた。まだ生きていて、今にでも襲い掛かってきそうな迫力だ。

 ヒナタは獣の胸に突き刺していたナイフを回収し、処理をしている。


「そのナイフ使うのか?」

「あったりまえでしょ。これに遭遇するたび新調してたら破産しちゃうものぉ」


 獣と一度戦うとナイフが三本消費されると考えれば、ヒナタの腹部に巻かれているベルトに収まっているナイフの数だと三回しか戦えない。

 刃が欠けるまでは使いまわすのよ、とヒカルに教えた。


「あんた、これのこと獣って呼んでたけどぉ」

「すっげえ凶暴だったよな」

「魔物よ」

「まもの?」

「そう、魔物。獣は私たちを攻撃したら殺されるって分かっているから滅多に姿を現さないのぉ。自然の中でしぜーんに生きているわ」

「……」


 だとすると、昨日木の棒で戦った犬型の獣は魔物というのか。


「これを獣だなんて……、呑気ねぇ」


 後始末を終えたヒナタは立ち上がり、先へ進んだ。死んだ魔物を見ていたヒカルは慌ててヒナタの後を追いかけた。


「あんた、武器持ってなかったっけ」


 持ってない。

 ヒカルはヒナタから長い棒状のものを受け取った。彼女の手から離れた瞬間ズシリと重みを感じた。彼女が片手で平然と持っていたので軽いと思い込んでいたせいでバランスを崩し、受け取ったものを地面に落としてしまった。


「これ、使わないからあげる」

「あげるって……、こいつ」

「サーベル。小まめに手入れしてないから、刃こぼれしてるかもぉ」


 落ちたのは鞘だった。その鞘から現れたのは細身の剣。片面には刃があった。


「これで戦えるでしょ」


 木の棒よりは断然。魔物の攻撃も受け止められる。


「……」

「まぁ、いいわ。戦えないなら私がやるからぁ」

「すまねぇ」

「でもぉ、もしもあんたのほうに敵が行って、私が助けられないときはぁ……

、自分で身を守りなさいねぇ」


 意図は伝わった。魔物との戦闘は引き受けるが万が一魔物がヒカルを狙い、攻撃したならば反撃すること。


「自分の身は自分で守れ……」

「そゆことぉ」


 身を守るためには木の棒ではなくしっかりとした金属製の武器がいる。ヒカルはヒナタからもらったサーベルを鞘に納め、手に持った。その状態でしばらく歩いていると「村に着いたらベルト買ってあげなきゃねぇ」などと彼が歩いている姿を見てヒナタが呟いた。


二日目、第二回目の戦闘です。

いかがでしたか?

戦闘シーンはあまり手直ししてません。

と、いうことは今も同じ手法なんだな。成長してないんだなと痛感してしまいます。

次回、お楽しみに!

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