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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第3話「第一森人発見」

 夜がやってくることを思うと、はぁーとため息をついてしまう。異常現象でずっと朝になってほしいなどと夢のような想像までしてしまった。

 夜がやってきて欲しくない大きな理由は三つある。


 太陽の光がないため、気温が下がり、周りが暗くなってしまうこと。

 動物が夜に活発に活動すること。

 夜のための食事を再び調達しなければならないこと。


 明日の朝を迎えるためにはこの三つを解消しなくてはならない。

 一つ目と二つ目は自然の摂理だ。自分もこの世界で生きている上でこの自然現象とは向き合わねばならないだろう。しかし、ヒカルが自然と受け入れていたのは、自分の身の安全を保証してくれる家があってのこと。ごくまれにテントを建て、外で夜を過ごすこともあったが、道具や食材を用意して獣もいない安全な場所で行っていた。

 ヒカルはテントなどの雨風を防ぐ道具も食料もない中、外で夜を過ごしたことがないのだ。


「あぁ、夜かぁ」


 今日の気候はとても暖かかった。日が落ちても白い息が見えるほど急激に寒くなることはないだろう。周りにある厚く大きな葉を何層にも重ねて床に敷き、体にかければ暖がとれそうだ。周りに敵がいるので熟睡とまではいけないが、横になり浅い睡眠を取るだけでも疲労は回復できる、と頭の中で一夜の過ごし方を想像していた。今日は民家も人も見つけられなさそうだから、それを実行に移すしかなさそうだ。


「……」


 空腹を覚えたヒカルは腹部を手で押さえる。


「寝る方法思い付いたけどよ……」


 暖をとれそうな大きな葉を見つけた時よりも視野を広げて食べ物を探す。

 ヒカルが休憩をとっている地帯は雑草が一切生えていない、地面がむき出しの場所だ。食べられそうなものは、腐った木の枝に生えているキノコぐらい。


「問題は食べもんと飲みもんだよな」


 キノコが生えている場所へ行き、それを一つ収穫してみた。

 市場で売られているものと似ている焦げ茶の傘と白い柄の色をした外見、柔らかく表面が胞子でカサカサした手触り。

 キノコには毒がある。腹を下すなどの軽度で済めばいいが、即死するものもある。迂闊に初心者が収穫していけないものだと承知していた。しかし、夕食を自力で探さなくてはいけない窮地に立たされたとき、食用の可能性があるキノコが目の前にあれば、一か八かだと口に入れたい気持ちがあった。

 キノコを握り締めたまま、捨てるか食べるかと悩んでいた時、近くでガサガサと茂みが大きく揺れる音が聞こえた。

 音が聞こえた途端、ヒカルはキノコを放り投げ、護身用として拾っていた木の棒を持ち、物音が聞こえた方へ体を向けた。


(くんなよ……)


 ヒカルはそれだけを願っていた。獣が現れれば命がけの戦いが始まってしまう。遭遇したなら戦わなくてはならない。戦いたくない彼は、自分を見つけぬよう強く念じた。その最中、一つの雑念が彼の脳裏に浮かんだ。


(あ、でも獣の肉を焼いて食ったら)


 獣を殺して、肉を削ぎ、たき火で調理をしたらどうだろう。キノコよりも安全で確実に腹を満たせるな。


「いやいやいや、できねぇだろっ」


 肉を食すところまでを想像し、よだれが垂れる寸前で我に返りすぐにその考えを捨てた。 先ほど、獣を殺した感覚を恐ろしい、二度とやりたくないと感じていたのに、殺して食べようと考えるなんて。よほど空腹なんだな。

 意識が物音から逸れていると気づいたヒカルは、雑念を振り払い、茂みの先にいるものへと集中した。

 物音はだんだん大きくなり、こちらへ近づいて来ているのが分かった。このままだと遭遇は免れない。ヒカルは先手を取れるよう踏み込む足に力を入れた。

 視界の中に物陰を捉えた。


「てやぁっ」


 ヒカルはその影に向かって、叫び声と共に木の棒を振り下ろした。


「あ…れ?」


 当たりの感触がなく空振りに終わった。


「キャ――! 危ないじゃないのぉっ」


 耳に音が聞こえた。とても望んでいた人の声だ。

 言葉を口にした人物は濃紺の瞳を見開いていた。瞳と同色の髪は肩にかかるほどの長さで、毛先は内側に曲がっている。体を誇張する黒の服を身に付けており、その体系は女性だった。

 彼女はヒカルの行動に驚いていた。


「人だぁぁ!!」

「なにこの人っ、ちょ、しがみつかないでよぉ」


 感激のあまり、ヒカルはその女性に抱きついた。

 女は避けられず、ヒカルに抱きつかれていた。敵の唐突な行動に混乱し、体が硬直してしまったのだ。


「離れて……、よぉっ」


 女は膝でヒカルの急所を蹴りあげた。 スルスルとヒカルの腕は女から離れ、「うぅ」と悶えながらその場に両膝をついた。


「頭、冷えたかしらぁ」

「だいぶ」

「男が急に抱きついて来れば、こうなるわよねぇ」

「なるな」

「そんでもってぇ、これは私からしたら、防衛であり非はあなたにあるのよぉ」

「昼頃からこの森に入って迷ってたんだ。そんなところにあんたが現れたから嬉しくなって抱きついちまった。わりぃ」

「ふーん」


 会ったばかりの女性に抱きつくなんて普段は絶対にしない。

 理由を話すと女は納得してくれたようで、きつかった表情もだんだんと和らいでいった。

 女は膨らんだ胸の下で腕を組み、ヒカルが立ち上がるのを待っていた。


「それにしてもぉ」


 女はヒカルの姿を見て嘆息した。


「その服装……、武器なし、遭難したときの食料もなし」


 女はヒカルが置かれていた状況を指を折り曲げながら数えている。


「あんたこの森になにしに来たのぉ?」


 最終的にその質問にたどり着いた。森に入るための準備を全くしていないことに呆れられていた。


「気がついたら森にいた」

「……なにそれぇ」

「あるだろ、フラッと森に入ってみたいとか思ったり」

「あるかしらぁ?」

「気分で入ったからさ、持ちもんとか用意してねぇし、そんですぐ帰れるなんて思ってたんだよな」

「言ってることが分からないんだけどぉ。まあ、要するにぃ」


 女はヒカルにこう言い放った。


「バカでしょ」


 その一言はヒカルの心にグサッと刺さった。

 直球な言葉であり、ヒカルの言い訳を一蹴する言葉だった。彼は肩を落とし、うなだれて「おう」と認めざるをえなかった。

3話目で遭遇します。

女の名前は次話で紹介します。

ヒカルの独白が3話で終わって著者もほっとしてます。

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