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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
19/48

第19話「ソルトスへ」

今回で同人誌第一巻分の話が終わります。

次話からは第2巻の内容になります。

「ソルトス編」と章区切り作ろうかなと思います。


 グオォォォ


 魔物の咆哮が洞窟中に響いた。ヒカルは魔物に突き刺した剣を引き抜こうとして、手間取っていた。

 ヒナタは魔物の異変に気づき、ヒカルに命令した。


「ヒカル、それ離してっ」

「えっ、でも」

「そんなのいくらでも買えるっ」


 ヒナタに引っ張られ、ヒカルはサーベルの柄から手を離した。彼女に合わせて、彼は全速力でその場から離れた。しかし、逃げている最中、後ろから地響きのような大きな音が聞こえた。この音はなんだろう。


「ヒカルの攻撃はよかったんだけどぉ、あいつ死ぬ前に私たちを道連れにしようとしてる」

「道連れって……」


 ヒカルは後ろを振り返った。

 魔物が追いかけて来ている。走らなければ、魔物に頃さえる。

 状況が分かったヒカルは正面を向き、無我夢中で走った。


「はしってぇぇぇ」

「うおぉぉぉ」


 ヒカルとヒナタは一心不乱に走った。だいぶ走ったが、振り向けば、まだ二人の後を追う魔物が見えた。

 魔物との追いかけっこをしていると、サントン鉱石ではない光が二人を照らした。


「外だっ」


 レアタル洞窟を出たのだ。二人は外へ出れたことを喜び、新鮮な空気をめい一杯肺に取り込んだ。しかし、出口にたどり着いても気は抜けなかった。


「せーので振り返るわよぉ……」


 ヒカルは無言で頷いた。後ろにいた魔物はどうなったのだろう。地響きのような音は聞こえないが、油断はできない。


「せーのっ」


 ヒナタの掛け声とともに振り返った。

 何もいない。

 一呼吸おいて二人は洞窟の中へ戻った。中もシンとしており、魔物がいる気配を感じ取れなかった。


「死んだ……、か?」

「あいつ、ちょこっと知性があるって言ったでしょ。死んだふりして私たちを襲うかもしれない。死骸があるまで安心しちゃだめぇ」

「地響きはしねぇのな」

「あれ、洞窟が崩れるんじゃないかってひやひやしたわぁ」

「俺も。そういや、荷物忘れてきた」

「あぁー、そうよぉ。そこまで戻らないとぉ」


 次第に魔物への緊張がほぐれていった。しかし、問題の魔物は見つからない。

 ヒカルは食料などが入った荷物袋を洞窟の中に忘れたことを思い出した。荷物袋を回収するため、二人は来た道を戻った。


「……ん?」


 荷袋を探している最中、ヒカルはある物を踏んだ。


「お」


 それはヒカルが魔物と戦う際に使っていたサーベルの柄だった。見つかったのは柄の部分だけで、刀身がない。その場をじっと見渡していると魔物の表皮がゴロゴロと転がっていた。

 ヒカルはサーベルの柄を拾った。ヒナタは周りに転がっている表皮の一部を拾った。


「ただの石ころ」


 手に取ってみたヒナタの感想はそれだった。


「あいつ死んだみてぇだな」

「そうね。それからこれ」

「サントン鉱石?」

「違う。あんたが突き刺したあいつの急所」


 表皮の内側で光っていたものか。見た目は岩壁に引っ付き、発光しているサントン鉱石と変わりなかった。ヒナタはサントン鉱石ではないと否定した。


「それ、ソルトスの道具屋で売ってみなさい。値打ちもんよぉ」

「そ、そうなのか!?」

「えぇ。これはあんたにあげるぅ」

「いいのか? 俺、ヒナタに借金してるし値打ち物だったら……」

「いいの。ヒカルが初めて狩った魔物だもの。めでたい品物横取りできないわよぉ」

「……めでたい?」

「そう」


 呆けているヒカルの頬をヒナタは人差し指で突いた。


「魔物初討伐……、おめでと」

「あぁ……」


 あぁそうか。

 初めて武器を使って、初めて魔物を倒したんだ。

 メデサの森でヒナタがやっていたことを自分もやったんだ。ヒカルは彼女に祝われて魔物を討伐したことを実感した。


「倒したんだな」


 二日前に木の棒で戦ったような、生き物を殺した恐怖は感じなかった。逆に魔物を倒したという達成感がヒカルの感情を満たしていた。これなら次の戦闘も――戦える。ヒカルはそう確信した。

 

 レアタル洞窟を出て四日経った。

 険しい山を登りに登り、二人はソルトスの門の前に着いた。

 門の前では頑丈な防具、強そうな武器を装備した戦士たちが不審者を見張っており、その戦士たちの中央にいる軽装の青年が通行人に声をかけていた。


「ソルトスに、着いた」


 門は町一帯を囲み、向こうの建物が見えないほど高い。

 道具を使わなければ上ることは不可能だろう。とはいえ、よじ登ろうとすれば上に待機している弓兵に攻撃されてしまうが。


「ここがソルトス……」


 ヒカルは周りの頑丈な守りに感嘆していた。これならば外の魔物、賊の侵入は完全に防げる。


(俺はこれで助かる……)


 ヒカルは、ソルトスへ入ろうとする列の中にヒナタと一緒に並んでいた。

 ヒナタは「ちょーっと、用事がぁ」などと言って列から外れているが、直に来るだろう。彼女を待っているうちに、ヒカルの順番がやってきた。


「ようこそソルトスへ―」


 長髪を後ろで一つ結びにしている青年がヒカルに声をかけた。

 青年はまるで遊び場の案内人のような口調でヒカル出迎えた。


「君の名前を教えてくれるかい」

「ヒカル・エヤマ」


 ヒカルは青年の質問に淡々と答えてゆく。

 青年は質問の答えを紙に書いていった。答えに問題ないようで、青年は「うんうん」と相槌を打ちながら質問を続ける。ヒカルが一番に懸念していた出生に関することは、曖昧な答えでごまかした。青年はたどたどしいヒカルの説明を聞き、こちらに顔を上げた。


「ふぅーん、それじゃ、一度役所に行って住民票を取ってこなきゃねー」

「それ、取るの簡単か?」

「簡単だよー。今のご時世、住民票の取り方は簡単になった」


 出生についてはどうとでもなるらしい。一番の問題が解決してヒカルは安堵した。

 青年の質問は一通り終わったらしく、彼は笑顔で「いいよ」とソルトスの町へ入る許可をもらった。

 青年は戦士の一人にヒカルを役所へ連れてゆくよう指示をしていた。


「役所まで案内するから、ちゃーんと手続してきてねー」

「分かった」


 ここまでは、順調だった。

 これで自分の身の安全は確保された。町へ入れることにヒカルは浮かれていた。しかし、青年とすれ違い、戦士と共にソルトスへ入る直前、ヒカルは青年に引き留められた。ヒカルの背についていた紙を取ってくれたのだ。


「ちょい、そこの少年止まって」


 二つ折りの紙を開いた瞬間青年の顔つきが変わった。笑みを浮かべているのは変わりなかったが、笑みの質が違う。

 ヒカルは青年に引き止められた瞬間、心臓が飛び出しそうになった。

 質問は難なく答えた。となれば彼の表情が変わったのは二つ折りの紙に書かれている内容だろう。

 青年が手を上げた。すると、戦士たちが一斉にヒカルへ武器を向けた。塀の上に待機していた弓兵もこちらに矢を構えていた。


「一体なんだってんだ!?」

「それはこっちのセリフだよー」


 青年が手を下せば、武器を構えている戦士たちは一斉に襲い掛かってくる。

 ヒカルは青年の様子を覗った。青年は笑みを絶やすことなく手を挙げたまま、何も言わない。

 ヒカルは言葉を選びながら、青年に自分の肩についていた紙を渡してくれ、と話した。青年は戦士たちを一旦止め、ヒカルに紙を渡した。

 ヒカルは受け取った二つ折りの紙を開いた。


「ヒナタからだ」


 ヒナタからの手紙だった。彼女の手書きの文字を読む。

 文章の内容が脳内に翻訳された瞬間。


「なんじゃこりゃぁぁぁ」


 ヒカルは絶叫した。

 手紙には名前、キスマークと共にこう書かれていた。


 ―― 囮にしちゃってご・め・ん・ねぇ ―― と。


「そうだなー。ここはあの人の意見を聞いてみよっかー」


 青年は手をパンパンと二回叩いた。

 するとその場にいた二人の戦士がヒカルの両腕を掴んでずるずるとソルトスの町の中へ引きずって行った。

 ヒカルが消えた後、青年は整列している人たちに向かってこう言い放った。


「怪しい行動を起こしたら、この場で瞬殺しちゃうからー」


 整列していた人たちは、青年の発言に冷や汗をかいた。


(ここどこだ?)


 戦士二人に引きずられ、密室に閉じ込められた。

 周りはテーブルと椅子二つと質素で殺風景な部屋だ。

 閉じ込められたヒカルは椅子に座って、腕を組み、誰かが部屋に入ってくるのを待った。

 時間があると浮かんでくるのは手紙の内容だった。その紙はまだ持っており、ヒカルは何度もその文章を眺めた。


「囮ってなんだよ……」


 囮というのは自分の目をごまかすために使う手段の一つ。

 ヒナタの名前が出た時のソルトスの人々の行動からして、ごまかしたかったのは彼らの目だ。

 ヒカルはヒナタの目的のために利用されたのだ。


「……やるせねぇ」


 だまされたものの、この道中ヒナタには沢山世話になり、命を助けられた。

 囮とされた怒りもあったが、こうでもしなければヒナタがソルトスへ入れなかったのなら仕方がない、と思っている自分がいてヒカルの心境は複雑だ。


「俺……、これからどうなる」


 ヒカルはテーブルに額をくっつけて項垂れていた。


 カツカツカツ。


 時折、ドアの向こうから足音が近づいてきては遠ざかる。隣の部屋のドアが開く音も聞いており、自分の番はまだかと考えていた。

 足音が聞こえる。

 また通り過ぎるのかとぼーっとした頭で考えていると、目の前の扉が開く音が聞こえた。ヒカルはすぐに顔をあげた。

 そこには一人の男がいた。


「貴様がエヤマ・ヒカルか」

「ひぃっ」


 ヒカルは悲鳴を上げた。

 男はヒカルをじっと睨み付けた。眉間に皺を寄せ、表情を崩さない顔は恐ろしい。彼から発せられた声も凄みがあり、会った途端何もしていないというのにヒカルは恐怖心を抱いた。


(俺、この人に殺されるんじゃねぇか)


 ソルトスに着いて早々、窮地に立たされている。

 この町はグラヴィスが言っているようにローテスハールである自分を助けてくれるのか、この場で生き延びることができるのか。


(大事なのは結果……だよな)


 生きるか、死ぬか。


 その結果は目の前にいる男との会話で決まる。


ヒカルは無事(?)ソルトスに着きました。

着いた途端、問題起こりまくりです。

次話からソルトス編が始まります。

新しいキャラ続々登場しますので、お楽しみに。

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