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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第18話「ヒカルの返答」


「怒ってる?」

「当たり前だろっ」


 ヒナタは感情をむき出しにしているヒカルの唇に人差し指を当てた。


「その感情、魔物にぶつけてみない?」


 彼女はヒカルの手を掴み、それをサーベルの柄へ導いた。柄はとても冷たく、ヒカルの手を冷やした。


「戦いはねぇ、怒りから始まるのぉ」

「……戦えってか?」

「ヒカルが変わるチャンスなんじゃないかって提案しただけぇ」

「変わる……」

「ヒカルの暮らしていた場所は武器を持たなくてもよかったんだろうけどぉ、ここでは戦えないは通用しないわぁ。町の外に出れば誰もが魔物と戦わなきゃいけないのぉ。勝てなければ……」


 ヒナタは血だまりに足を踏み入れ、白骨死体を指す。


「魔物に食べられる。ヒカルと私がいる場所はそんなところなのぉ」

「……」

「一度戦ってしまえば、後は技術と力だけ。戦いって単純なものよぉ」

「ヒナタにとってはそうだろうよ」


 二人は白骨死体に背を向け、再び歩く。死体の隣に置いてあったロケットペンダントはヒカルが拾って、サントン鉱石が入っているポケットに突っ込んだ。


「……しっ」


 またヒナタはその場にしゃがみ、ヒカルの歩を止めた。今度は物陰に身をひそめ様子をうかがっている。二人がその場にとどまった数秒後、物音が聞こえた。物音はだんだんと近づき、その正体が分かった。


 魔物だ。


 体は周りにある石のように無機質。体長はヒカルとヒナタの身長を足しても届かないほどに巨体だった。外見は人が鎧を装備したような風貌で力が強そうだ。


「……」


 低い声で魔物は呟いている。ヒカルはそのことに驚いた。声を出す直前にヒナタが彼の口をふさいだ。

 息を飲み込む音は魔物の耳に届いたようだ。

 魔物はこちらのほうに顔を向けた。しばらくしてその場に何もないことが分かると視線をそらし、通り過ぎていった。

 姿が見えなくなるとヒナタは投擲ナイフを抜いた。


「戦うわよ」


 ヒナタの顔つきが変わった。それはメデサの森で魔物と戦った時と同じ顔をしている。


「私のヒールの音はこの洞窟で反響するからぁ、いずれあいつにばれるわぁ」

「なぁ、その前にあいつ何かしゃべってなかったか?」

「いるのよ。魔物にも言葉をしゃべれる種族が」

「じゃあ、話し合いで――」

「解決しない。言葉をしゃべるってことは、私たちを安心させてだます知性があるのぉ。魔物と遭遇したらぁ、戦って殺す。これが基本」


 ヒナタはもう戦闘態勢に入っている。この話が終われば魔物へ襲い掛かり殺しに行くだろう。


「殺れる?」


 前と同じくヒカルは首を横に振った。

 前のヒナタはヒカルの反応を見た後にすぐに魔物と戦って勝った。しかし、今回はヒカルの反応を見てもすぐに魔物の後を追いかけようとはしない。彼女は彼に一言投げかけた。


「もし、あいつがあの女の人を殺して食べたとしてもぉ?」

「……!?」


 可能性はある。この洞窟を巣穴としているのだったら。

 ヒカルはぐっとサーベルの柄を掴んだ。理由もなく戦うのではなく、敵討ちだったら。

 ヒカルの心に怒りが込み上げてきた。


「殺る」

「武器を持って戦うの初めてよねぇ」

「おう。けど、剣は十年以上触れてるぜ。足手まといにはならねぇ」

「戦ったこともないのに、剣は触ってるって……。まぁいいわぁ」


 ヒナタはナイフをサントン鉱石に叩き付けた。カンッと金属と鉱石が触れた音が洞窟内に響き渡った。


「物音に気付いたあいつが戻ってくる。ヒカルは私のフォローをして」

「フォローって……」

「見てればわかるわぁ」


 作戦を立てずに、二人は魔物と対峙した。

 ヒナタに聞きたいことは山ほどあったが、敵が目の前に現れれば、ヒカルは鞘からサーベルの刀身を抜き、刃を敵に向けた。


「……」


 声がヒカルの耳に届いた。だが、魔物の言葉は何を言っているのか分からなかった。ヒナタは聞き取れたようで「こいつかもねぇ」と独り言を呟いていた。

 先手に出たのは魔物だった。

 魔物はヒナタとヒカルを捕まえようと手を伸ばしてきた。ヒナタはそれをヒョイと飛び越え魔物の腕に飛び乗った。ヒカルは魔物に捕まらぬよう後ろへ飛んだ。


(あれ?)


 ヒカルは後方へ飛び着地した直後、飛んだ距離が思っている以上に遠く感じた。運動神経はそこそこあるが、ここまで飛んだことはない。

 彼はヒナタに加勢しようと駆けた。走る速度はいつもより速い。


(体がいつもより軽い……)


 目の前にいるヒナタは魔物にナイフで一太刀食らわせ魔物の視界を奪っていた。しかし、表面は固く、彼女のナイフでは決定打が与えられていない。とはいえ、ナイフで鉱石のような固い表皮に傷をつけられるだけでも大したものだ。

 ヒカルは攻撃できる範囲まで戻ると、昔習った通りに全身を使って剣を振り下ろした。石を叩き斬ったような反動が手に帰ってくる。


「よくやったっ」


 ヒナタの褒め言葉が響いた。


「……へ?」


 攻撃した個所を見て、ヒカルは目を疑った。

 石を叩き斬ったら、剣は刃こぼれをし、岩のほうは傷一つもつかないというのがヒカルの見解だった。しかし、彼の目に映ったのは思っていたのとは逆で、岩は傷がついており、剣の刃はかけていない。

 傷の痛みで魔物が咆哮をあげ、ヒカルへ反撃する。腕を彼の頭上にあげ、叩き付けようとしたのだ。


「うわぁ」


 叩き付けられる直前、ヒナタがヒカルの腕を引っ張った。そのおかげで魔物の腕の下敷きになることなく生きている。


「はぁはぁ」

「思ったよりもできるじゃないぃ」

「できてたか?」

「上出来っ」


 ヒカルがヒナタに抱き着いた。彼女がこうまでして喜んでいるのだ。あの攻撃は効果的だったらしい。


「不思議だった。いつもの力だったのにあそこまでダメージを与えられるとか……、考えられねぇよ」

「考えられなくていーのっ、大事なのは結果だしぃ」


 会話は魔物の攻撃で断ち切られた。二人は魔物の攻撃を飛ぶことで避け、左右それぞれに分かれた。


(大事なのは結果か……)


 ヒナタの言う通りだ。この戦いでは生きるか死ぬかの二択しかない。たとえ力が強くて技術があっても死ねば終わり。難しいことをどうこう考えなくても剣をふるって魔物にダメージを与えればいい、単純なルールだ。

 難しいことを考えずに攻撃が来たら当たらないように避ける。敵が倒れるまで切りつける。


「はぁ」


 ヒナタと共に刃で何度も魔物を斬り付ける。二人とも呼吸が乱れて疲労が出てきた。


「手こずるわぁ」

「まだなのか……」


 一向に魔物が弱る気配がない。闇雲に斬りつけても相手には効果がないらしい。


「弱点……」


 魔物を倒すには弱点を突かなければいけないようだ。ヒカルは斬ってきた魔物の表皮をじっと観察した。


「あ」


 傷口の間からサントン鉱石のような光が見えた。

 あれが心臓部かもしれない。直感したヒカルは魔物の攻撃を避けながら突き刺す機会を狙った。魔物の懐へ着地した時がチャンス。ヒカルは刃を垂直にし、光に向けて剣を突き刺した。


久々の戦闘です。

勝敗はいかに……!

次話お楽しみにっ。

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