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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第17話「悪法の発端」


「つまり、殲滅しなきゃ狂暴になって手の付けられねぇ存在になるってことか?」

「そうよぉ」


 ヒナタはヒカルの首先にナイフの先端を向けた。


「こんな風にねぇ」

「ひ、ヒナタ」


 ナイフの切っ先がヒカルの肌に当たった。

 皮膚が切れナイフの切っ先を伝って血が流れている。このままそのナイフが刺さるのではないか。それに怯えたヒカルはヒナタの名前を呼んだ。


「やめろよ」

「やーねー、冗談よぉ。ヒカルを殺しても得な事なにもないものぉ」


 利得があれば殺すのか。ヒカルは表情を必死に殺し、目の前でヘラヘラ笑うヒナタを見つめた。


(ヒナタに俺がローテスハールだって知られたら……)


 ローテスハールには大金がかけられており、一人殺せばそれが貰える。先ほどは冗談だったが、いつかヒナタがナイフをヒカルの首元へ向ける時が来るかもしれない。

 レアタル洞窟を抜け、ソルトスへ着いたなら、すぐにヒナタと別れなくては。

 

(でも、その後は? 何するんだ俺)


 グラヴィスはソルトスへ行けば、ローテスハールの自分を守ってくれると言ってた。彼女はそう断言したが、守ってくれる保証はあるのだろうか。


(ほんとに守ってくれんのか?)


 ソルトスの人間だってティラアス国民だ。

 人を殺して罪にもならず、金を稼げるのならヒカルの命を狙うだろう。人は夢だけでは生きられない。生きるには金が必要なのだから。


(慎重にいかねぇと……、な)


 髪が伸び、地毛が見えてくるまでの間、真実を告げる相手を慎重に選ばなきゃいけない。その行動でヒカルの生死が決まってしまうから。


「あーあ、何もないってのも退屈ねぇ」


 ヒカルが今後のことを考えている間、ヒナタは淡々と洞窟を歩くことに退屈していた。ナイフで無意味に遠くにあるサントン鉱石を狙って投げてはナイフを回収するのを繰り返していた。

 「暇だなぁ」と口癖のように呟き、チラチラとヒカルを見ている。何か話そうと誘っているのだ。彼はヒナタの退屈を紛らわすため、彼女に話題を投げかけた。


「ヒナタはローテスハールのことどう思ってんだ?」

「この国で悪法がはびこっている諸悪の根源」

「は?」

「なーんだぁ、ヒカルの口から珍しく時世について聞けたのにぃ、それ以外知らないのぉ」

「昨日グラヴィスに新聞借りて読んだんだ。誰かさんに無知無知ってからかわれってからな」


 その誰かさんはヒカルと会話を続けながら、投擲ナイフを投げた。ナイフの軌跡は見えず、遠くでカッと鉱石に突き刺さった音が聞こえた。


「“次の王はローテスハールだ”」


 ヒナタはいつもより低い声で述べた。いつもの語尾を伸ばす口癖が抜けていた。


「事の発端はその一言よぉ。そのせいで、王の次に偉い宰相が次々に悪法を立てちゃってさぁ今のご時世になっちゃった」

「……もしかして、その宰相ってやつローテスハールなのか」

「そのとーりぃ」


 歩を進め、サントン鉱石に突き刺さったナイフを見つける。ヒナタはヒカルの問いに肯定しながら突き刺さっているナイフを引き抜いた。再びそのナイフを遠くへ投げた。数秒経ってから突き刺さる音が聞こえた。それを探すように二人は歩く。


「宰相は次の王様になれるっていう確信が得られて、自分通りの世の中に作り始めてんのぉ」


 宰相はヒカルと同じローテスハール。

 宰相はヒナタが言った一文を信じ、権力を自分のために振り回し始めたのか。しかし、彼はこの国の二番目の権力者。一番偉い王様は宰相が勝手に決めた法律を破ることができる唯一の存在。王様はなぜ彼を止めないのだろうか。


「昨日、『独裁政治したいのよぉ』なんて言ってなかったか?」

「言ったわねぇ」

「新聞にはそんなこと書いてなかったけどな。王様も宰相の政治に賛成してんのか? 俺が王様だったらすぐに宰相をクビにすっけど」

「新聞には書いてないけど国民ほとんどが知っているわよ。まぁ、私だったら……、処刑台に立たせて首をはねるかしら」


 さらっと恐ろしいことを平然と言った。


「王様はねぇ、病気なの」

「病気……」

「判断もつかない状態なんですってぇ。だから、今のトップは宰相になるわけよぉ」


 最後に「病気の件は新聞でも取り上げられてない情報よぉ」と付け足した。ヒナタのすべての話を集めてヒカルが必要な情報のみを抜き取り、整理する。結論はローテスハールが苦しむのは宰相のせい、で決まった。


「じゃあ、ローテスハール狩りってのはそいつを掲げて反乱がおこらねぇようにするためだな」

「あの文章あやふやでしょぉ。ローテスハールだったら誰にでも王様になれる。王様って席を横取りされたくないんじゃないかしらぁ」


 ローテスハールなら誰でも王様になれる。ヒカルは髪をつまみ、自分の地毛の重さを感じていた。この赤い髪は国を大きく動かす可能性を秘めている。もしかしたらヒナタと呑気に歩いている自分が王様になっているかもしれないのだ。


「ま、紺色髪の私と黒髪のヒカルには関係ない話だけどぉ」

「……」


 関係ある。十分に。


「あーあ、いつまで歩いたら抜けられるのかしらぁ」


 ヒナタの呑気な一言でローテスハールの話題は打ち切られた。

 レアタル洞窟を進んでゆく二人、片方が疲れたと感じれば休憩を取り、空腹を感じればヒカルが背負っている荷物の中からパンとジャムを出し食事摂り、喉が渇けば、水で喉を潤した。

 先へ進んでも、似たような光景が広がる。進んでいる感覚もなく、話題もない二人は無言で先を進んだ。


「止まって」


 久しぶりに聞いたヒナタの声にヒカルは歩を止めた。

 ヒナタはその場にしゃがみ込み何かを拾った。拾ったのは女物のロケットペンダントだ。それをヒカルに見せたのち、彼女の目の前にあったものを見せた。

 それを見た瞬間彼の表情は一気に青ざめる。

 ヒナタの足元に転がっていたのは白骨化した頭蓋骨だった。

 周りには血痕が飛び散り、ここが殺害された現場だというのが一目で分かる。


「そろそろ出口かしらぁ」


 ここに白骨死体があるということは、魔物が洞窟内をうろついている証拠だ。魔物がいる危険があると同時に、レアタル洞窟の出口が近いことを示唆していた。

 ヒナタは白骨死体に両手を合わせて頭を下げた。ヒカルもそれに倣う。


「あの村の人よねぇ」

「だな」


 この洞窟を知っているのはドゥーゴ村の村人たちしかいない。ヒナタは拾ったロケットペンダントを開けた。


「ねぇ、この写真に写ってる子供……」

「!?」


 中にあったのは一枚の写真だった。その写真で二人は白骨死体の人物が分かった。それには女性と男性、二人の子供が写っていた。子供には見覚えがあった。宿屋で出会った子供達だ。

 父親はローテスハール狩りで殺されたと聞いている。となると、白骨死体はソルトスへ向かった母親のほうだ。


「そう、あの子が宿を経営しているのは」

「くそっ」


 レアタル洞窟へ入ったきり帰ってこない。魔物に殺され、食べられたのなら帰って来れないではないか。ヒナタは手を唇に当て宿の謎がつながったといった顔をしていたが、真相をすべて知っているヒカルは声をあげて拳を思い切り壁に叩き付けた。


今回は洞窟を歩きながら、ティラアス国の情勢を付け足しました。

あらすじに書かれた一言をヒナタに解説してもらいました。

あなたの隣に王様候補……、いますよ?

では次話お楽しみに!

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