表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
13/48

第13話「赤い髪の男」

「ろーてす……、なんとか?」


 ヒカルは地毛が赤毛だということで驚かれるのには慣れていたが少年が叫んだ言葉には動揺した。彼が呟いた言葉を反芻する。


「赤い髪の男の人をそう呼ぶのー。グゥばあが教えてくれた―」

(ロー)(テス)(ハール)……」

「ローテスハールは王様になるのっ」

「王様に?」


 ヒカルは少年の発言に眉をしかめた。

 赤い髪と王様の関連性が分からなかったからだ。ヒカルの暮らしている場所で赤い髪の人が王様になるなど聞いたこともないし、そもそも王政など存在していない。


「でもね……」


 少年は話を続ける。


「ローテスハールは殺されちゃうんだよ」

「……っ」

「さいしょうって人のメイレイなんだって」


 少年の話を聞き、ヒカルは唾を飲んだ。

 赤い髪の男は殺される。

 ヒカルは自分の髪を一つかみ。もし、髪を黒く染めていなければメデサの森を彷徨っているところで誰かに殺されていたのか。

 例えば、ヒナタ。

 魔物の戦闘で垣間見えた殺気を自分に向けていたのだろうか。

 少年はうつむき、小さな声で呟いた。


「僕の父ちゃんも赤い髪だったんだ……」


 少年は当時の事を思い出したのか、目尻に涙を溜めていた。それも次第にポロポロと床に落ちついには泣き出した。この様子だと父親が宿屋にいないのは宰相の命令で殺されたから。


「なぁ、母ちゃんはどうしたんだ?」

「……ソルトスに行ったきり帰ってこない」

「レアタル洞窟を通って?」

「うん」


 村の秘密であるレアタル洞窟を通ってソルトスへ。ヒカルたちが考えている道順の通りだ。

 彼から情報を聞き出せば村の秘密である洞窟の場所を聞き出せるかもしれない。


「レアタル洞窟は――」

「ヒカルさん」

「っ!? グラヴィス……」


 情報を聞き出す前に、背後から現れたグラヴィスに拒まれた。彼女は少年が泣いているのを見て、ヒカルを睨みつけた。


「部屋に案内した時、三つの約束をしました。覚えていますか?」


 三つ目、詮索禁止。

 ヒカルが今やっていた行為はまさに三つ目の約束を破っていた。しかも、この家の事情を泣いている少年から聞き出してしまった。グラヴィスが怒っているのは表情で分かった。


「あぁ、破っちまったな」

「私たちの事情、ほとんど聞きましたよね」

「まあな」


 グラヴィスがこの宿を経営している理由。宿主である少年の父親が赤毛で、宰相の命令で殺され、母親はソルトスへ行くためにレアタル洞窟へ向かったから。

 二人の子供たちは幼く、商売が出来る状態ではない。経営できるのは目の前のグラヴィスしかいないのだ。


「ねー、ヒカル兄ちゃん殺されちゃうの?」

「殺される……、どうして」

「この人、ローテスハールだよ」

「っ!?」


 少年と少女がヒカルの秘密を明かす。グラヴィスはヒカルの頭髪を見て、崩した表情を平静に戻した。


「冗談言わないの。ヒカルさんの髪は……」

「子供たちの言う通りだぜ。この髪は染めてんだ」

「でも、染粉は市場に流通してない」

「……手に入れられたんだよ。裏市場でな」


 そう言いさえすれば、詮索は免れる。苦し紛れの言い訳でヒカルは説明しづらい染粉の件を逃げ切った。


「ローテスハールだということ、ヒナタさんには言ってない?」

「おう」


 グラヴィスは周りを見渡し、ヒカルに尋ねた。

 自分が赤毛だということはヒナタに話していない。彼女は自分を黒髪だと思っている。

 自分の地毛が、命に関わることだとは知らなかった。いつか、雑談で「俺、髪染めてんだ」と口を滑らせてしまうところだった。

 グラヴィスが近くにヒナタがいるか確認しているところから、ヒカルが髪を染めていることをヒナタに知られれば、殺されてしまうことを悟った。


「絶対に言わないで」


 グラヴィスは人差し指をヒカルの唇に押し当てた。彼は無言で首を縦に動かした。


「あなたたちもヒナタさんに秘密。お兄さんをあなたたちのお父さんのようにさせたくなかったら……、ね」

「うん」

「秘密にするー」


 グラヴィスの言うことに素直に従う。その後も彼女は子供達にヒカルの事をきつく言いつけた。髪の他に、客人に肩車をさせて廊下を走らせるな、と。


「湯の用意をしてきて」

「はーい」


 子供たちはグラヴィスの言いつけどおり、風呂場へ向かった。ヒカルとヒナタが入れるように用意してくれるのだろう。


「いいのか? 子供だけで火を扱うのあぶねぇんじゃ……」

「大丈夫」


 グラヴィスは少年が捨てて行ったヒカルの髪の毛を拾う。黒髪の束をじっと見つめ、束の中から染まっていない髪の毛を見つけた。


「ヒナタさんが戻ってくるまでに徹底的に掃除をしなくては」


 グラヴィスは掃除道具を持ってきて、髪の毛一本残さないように周辺を掃除した。ヒカルも彼女の掃除に付き合った。掃除を終え、道具を元に戻したところで彼女が再び口を開いた。


「ヒカルさんはヒナタさんとソルトスへ行くんでしたよね」

「おう。ヒナタは検査が面倒だからレアタル洞窟を通りたいって言ってたぜ」

「それを聞いて私、ヒナタさんがレアタル洞窟の道を探していると村長に話してきたのです。村長は『秘密を守り通せ』と言いました」

「簡単にはわかんねぇか」

「……時間稼ぎにしかならないだろうけど」


 村の秘密を暴こうとしている来客者がいると聞けばグラヴィスの行動は当たり前だ。彼女の最後の呟きからして、徹底された村の秘密でもヒナタにはそれを暴ける力があるみたいだが。

 しかし、なぜグラヴィスは今になってよそ者のヒカルに話してくれたのだろう。


「あなたがローテスハールだというなら話は別」

「べつ?」

「レアタル洞窟を通ってソルトスへ行った方がいい」

「なんで」

「髪の色がバレたとして、ヒナタさんのような人達から自分の身を守れる?」

「……」


 無理だ。複数人が束になって自分を殺しにかかるってくるなど悪夢だ。命令というのだから逃げ場はどこにもない。この髪だって数か月すれば髪が伸びて、地毛があらわになり、誤魔化(ごまか)しがきかない。


「ヒカルさんが生き残るには、ソルトスへ行くしかないの」


今回のお話、重要です。(テストには出ませんけど(笑))

ローテスハールの意味は「赤い髪の男」。

どっかの国の言葉をちょっとだけいじりました。

では、次回、レアタル洞窟の入り方をお教えします。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ