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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第12話「ローテスハール」

 子供たちは席に着くなり「いただきまーす」と両手を合わせ、元気のよい声で言った。フォークとスプーンを持ち、皿に盛られていた料理を口の中へ入れてゆく。


「いっただき……、まーす」


 ヒカルは無言でヒナタの席を見つめていたグラヴィスの顔色を覗いながら食事を始めた。主食、ライス、サラダの順番で三角食いをし、彼女の料理を味わった。一日ぶりにまともな料理を胃の中に入れた彼は満面の笑みで満腹な腹をさすった。

 料理が盛られていた皿が空になると、グラヴィスがそれらを集め、せっせと調理場へ片づけてゆく。料理と食器がなくなると「ごちそうさま」と食事が終わり、子供たちは食卓を離れ、駆け足で消えて行った。

 ヒカルは満腹の余韻に浸りたく、その場から動きたくなかった。座っていた彼に、グラヴィスは茶色の飲み物を出した。


「あんがと」


 ヒカルはその飲み物に口を付ける。

 口に入れた瞬間はミルクティーかと思ったのだが、鼻から抜ける香料の味に驚いた。飲み込んだ直後、体がポカポカする。味は悪くないのだが、何が入っているのだろう。ヒカルは、その飲み物の匂いを嗅ぎ、香料を当てようとしていた。


「“チャイダ”……、どう?」

「旨いぜ」

 

 グラヴィスはヒカルに味の感想を聞いた。彼は正直に答えた。

 ヒカルは時間をかけてグラヴィスが淹れてくれたチャイダを飲み干した。その間、彼女は席についており、じっと彼を見つめていた。


「な、なんだよ」


 チャイダを飲み干し、彼女の視線を避けられなくなったヒカルは何故見つめているんだという気持ちを込めてグラヴィスに声をかけた。


「ヒナタさんとあなたの関係を考えていたの」

「えっ」

「あの人がこの宿にあなたを連れてやってくるのは何か意図があるの?」

「意図って……」


 グラヴィスも服屋の青年のようにヒナタを怪しんでいる。

 青年はヒナタの存在をヒカルに警告していたが、グラヴィスはヒナタがドゥーゴ村にやってきたことに何か企みがあるのではないかと考えているようだ。

 ヒカルにとってヒナタは命の恩人であり、頼りになる女性。信頼している彼女が快く思われてないのは彼にとって心外だった。


「俺たち、ソルトスに行くんだ」

「な、なんですってっ」


 グラヴィスが驚嘆の声をあげた。無表情だった彼女がヒナタの目的を知るなり目を見開き素で驚いていた。


「そう、それならこの村へ来ます」

「おう。ソルトスから一番ちけぇ村だし」

「うん、そうよね。彼女がソルトスへ踏み込むのもそろそろ……」

「おい」

「だとすれば彼女はレアタル洞窟の道を……、早く伝えなきゃ」

「おいってば」


 ヒナタの目的を知った途端、彼女はとても慌てていた。目の前にいたヒカルの存在も忘れ、独り言を呟いている。独り言が完結すると彼を置いて食卓から姿を消した。ドアが乱暴に閉められヒカルだけが残された。


「なんだってんだよ」


 一人その場に残されてから、新聞の件を聞き忘れていたことを思い出した。

 やることが無くなってしまったヒカルは部屋に戻ることにした。ズボンのポケットから部屋の鍵を取り出し、輪の中に指を入れ、ブンブンと振り回しながら廊下を歩く。


「ヒカル兄ちゃん」


 その最中、子供たちと鉢合わせた。彼らは客のいない宿屋を遊び場にしているらしく、ヒカルの姿を見つけるなり彼の方へ全力で走ってきた。グラヴィスがこれを見たら叱られていたに違いない。彼らは食卓の時と同じようにヒカルの足にしがみついた。おかげで身動きが取れない。


「あそんで~」

「で~」

「……」


 身動きがとれないヒカルには子供二人と遊ぶという選択肢しかなかった。

 彼らは背が高いヒカルの上に登りたいようで、木登りのように手をめいっぱい伸ばし、彼の腹部に手をかけようとしている。二人の体重に負け、転んでしまうんじゃないかと危機感を覚えた彼は、子供たちを引きはがしその場にしゃがんだ。


「順番だかんな」


 まず少女がヒカルの肩に乗った。

 ヒカルはその場に立ち上がり、少女を持ち上げる。肩車をした彼女は高い景色にはしゃいでいた。彼女が動く度に彼はバランスを崩し倒れそうになる。その後、バランスを保つことに慣れてきた彼は廊下を駆けたりなどして少女を喜ばせた。


「もっともっと~」

「はぁはぁ……」


 息が切れるほどに宿屋の廊下を端から端へと往復したヒカル。少女がもっと走ってほしいと頼むが、彼はその場にしゃがみ彼女を降ろした。彼女の次に少年が待っていたからだ。

 少女の番が終わると「つぎつぎ~」と少年がヒカルの背に乗ろうとする。ヒカルは彼の前に手を出し、拒んだ。

 息が整った後、少年に肩車をし少女と同じ回数往復した。二度目ということで速度は遅くなっており、不満に思った少年が「はやく~」と頭を叩く髪を引っ張るなどして文句を言っている。彼を降ろした後、ヒカルはひざから崩れ落ちた。


「もう……、無理」

「ええ~」


 非難の声を浴びても立ち上がれない。少年少女に叩かれながらもヒカルはその場を耐えきった。叩いても遊んでくれない彼に子供たちは髪を引っ張る。彼らに加減などなく「痛い痛い」と頭を守りながら抗議した。

 突然、少年が髪を引っ張る手を止めた。その隙にヒカルは素早い動きで立ち上がり、二人から距離を置いた。

 何事かと思えば、少年の手にはヒカルから引きちぎった髪の毛があった。肉眼でも見えるほどの束であり、相当数抜かれたのは確かだ。無意識に頭髪に触れ、頭皮から髪がなくなっている部分がないか調べてしまうほどに。

 少年はそのヒカルの髪をまじまじと見つめ、その束の中から一本の髪を選んだ。


「かみ、あかいー」


 髪をヒカルの前に出す。彼は近づいて少年が差し出した髪の毛を見る。周りの髪の毛の色は黒だが、少年が選んだ髪の毛の色は赤い。髪の毛の持ち主であるヒカルは動揺することなく赤い理由を告げる。


「この髪染めてんだ。それは地毛」

「ヒカル兄ちゃん、赤毛なのー?」

「おう」


 少年はあんぐりと口を開けて驚いている。


「ローテスハールだっ」


あ、やった。やっとローテスハールが出せた!

12話にして、ようやくタイトルについてお話できそうです。

次回、大事なところに入りますのでお見逃しなく!!

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