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ローテスハール革命  作者: 絵山イオン
異世界への入り口
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第10話「ドゥーゴ村の宿屋」

本日の投稿が遅れてすみません。

昨日のイベントに疲れて眠っていました。

「さて、冗談はさておきぃ」


 ヒナタは両手を打ち、話題を変えた。


「最初の目的は果たしましたぁ」

「俺の服が終わったから、寝る場所か、用意するかだな」

「出発は明日を予定していまーす」


 宿屋に行くか、日用品店に寄るか。明日出発するのであれば、食料や水を今日中に調達しなきゃいけない。先に店に行き、必要な物を買い集めたほうがいいな。そう、ヒカルは頭の中で意見をまとめた。それをヒナタに話す前に、彼の頭に一つの疑問が浮かんだ。


「あれ、ここ宿やってんのか?」

「一件だけ。細々とねぇ」

「それ、どこ情報?」

「今は珍し旅人からぁ。じゃなければ、レアタル洞窟の情報を手に入れられないじゃない」

「なるほどな」


 遠征を規制されても、旅人ってまだいるんだ。人の出入りがめっきり減ったドゥーゴ村で、宿屋はまだやっているのか。ヒカルはそれをヒナタに確認した。彼女は、彼に答えた後、一件やっている宿があるが、客が来ない分、宿泊料は通常の十倍はする、とヒカルに伝えた。それはドゥーゴ村に限らず、どこの宿屋も同様の料金設定をしており、一泊するのにそれなりの覚悟が必要だとか。

 ヒナタの所持金は二万バリズムと言っていた。ヒカルの服代で少なくなっている分、宿泊代、食料・水代と足りるのだろうか。


「足りるかな……」

「足りなかったらぁ、あんたは野宿よね」


 当然の結末だ。ヒナタの所持金で宿泊代が賄えるよう、ヒカルは祈った。


「心配だったら、宿とっちゃおうかしらぁ」


 思いついたかのようにヒナタは言った。宿屋は服屋から近く、すぐに見つけられた。

 宿屋に近づいてみると、金属で出来た看板には所々錆があった。錆びた看板を始め、虫の巣があり、店の外を彩るはずの香草や花は(しお)れていた。ヒナタから「やっている」と聞いてなければ、店が閉まっているとしか思えなかった。

 この状態なら、客室は掃除されておらず埃だらけなんじゃないかとヒカルは落胆した。隣にいたヒナタも想像以上の光景だったようで「あらぁ……」と眉をしかめ機嫌を損ねていた。

 ヒナタは扉を開けた。重い扉を開けているような仕草だったが、後に続きそれに触れてみると軽かった。


(重いのは気持ちみてぇだな)


 扉の質量ではなく、この宿屋に泊まるのか、という気持ちが扉を重くしたのだろう。

 ギィィという音を立てて開かれた扉の先には客を迎える青の絨毯、受付の順番を待つためのふかふかのソファがいくつか置かれていた。


「外よりはまし……、かしらぁ」


 ヒナタが宿へ一歩踏み入れた。

 ヒールが絨毯に触れた瞬間、目に見える程の埃が舞い上がった。それを口に含むことはなかったが、ヒナタは何度も咳き込んだ。バッグの中から四角形の麻製の黄色い布を取り出し口元に当てた。「思ったよりもひっどいわねぇ」と部屋一面に響くほどの声の大きさで宿屋の主に聞こえるように言った。

 ヒカルは埃が舞わぬよう、つま先から静かに足を置く歩き方でヒナタの後をついて行った。

 ヒカルの前を歩いているヒナタは、後ろに構うことなくヒールを勢いよく絨毯へ叩き付けた。


「っ! お客さんだぁぁ」


 カウンターに、十歳ほどの少年がいた。彼はヒナタとヒカルを見るなり、感嘆の声をあげた。


「そうよぉ、お客さん。僕、お父さん呼んできてくれないかしらぁ」

「いないよ」

「お母さんはぁ?」

「いないよ」

「宿泊の手続きを出来る人を呼んできて」


 ヒナタがこう注文すると、少年は「グゥばぁーっ」と宿泊の話がまともに出来る人の名前を叫んだ。少年は”グゥばあ“を探すために姿を消した。

 残されたヒカルとヒナタは互いの顔を見合わせた。

 ヒナタは小首を傾げ、無言で「この宿、どう?」と語っているようだった。ヒカルは首を横に振り「だめじゃないか」と伝える。すると彼女は苦笑した。


「ホテルのロビーがこれだし、受付はちびっこ……。経営者であっただろう両親はいない。もう潰れたも同様よぉ」

「だな」


 ヒナタはは額に手を当て、肩を落とした。宿の評価はどん底であり覆せるものは何もない。


「他の場所に……、あ」

「他の宿は畳んでる。私たちが屋根の上で眠れる場所は……、ここしかないのよぉ」

「だったなぁ」


 ヒナタは目の前にある光景と置かれている状況に疲れたようで、ソファに腰かけようとしたが、座る直前で掃除されておらず、埃だらけということに気づいた。

 ヒナタは埃を手で払い落としたのち、口元に抑えていた布を敷いてから座った。


「あぁ~、もういやぁ」

「金払って掃除しようぜ。二人で力を合わせれば夜までに終わる」


 最悪の結果が待っている。ヒカルはその後の行動を決めることで気持ちを前向きに保とうとした。その気持ちをソファでがっくりと肩を落としているヒナタにも分けようと彼女を励ました。


「そうねぇ。一室ぐらいだったら終わるかもねぇ」

「え、同室……」

「でしょうよぉ。ツインの部屋を取るわ」

「……」

「なーに、急に顔赤くなってぇ。口元もニヤついてるしぃ」


 ヒナタにからかわれ、ヒカルは片頬を抑えた。普段よりも熱を持っているのを掌から感じた。口元の筋肉も若干緩んでいる。彼女の言う通り頬が赤くなり、口元がニヤついていたのだ。


「ち、ちげぇーし」


 正直に認めたくなかったヒカルは強がった。ヒナタに背を向け、両手を頭の後ろで組んだ。


「あんた変なこと考えたでしょー」

「考えてねぇよ」

「そーお?」


 ヒカルの背に柔らかい感触を感じた。それに触れた瞬間、自分の腕が両脇に下ろされていた。それと部屋の空間とは異なる甘い香りがした。

 この香りは何だ。

 香りの正体はヒナタだ。彼女はヒカルを背から抱きしめ、彼の腕を降ろさせたのだ。ヒカルの首に腕をからめ顎を肩に置いている。


「最高の夜にしてあ・げ・る」


 ヒナタはヒカルの耳元で囁いた。

 ヒナタが密着し、頬に息がかかるほど彼女の顔が近くにある。

 顔を横に向ければすぐそばにヒナタがいる。それを考えるだけで、体は硬直し、特に首は動かさないように力が入っていた。直立の姿勢を保っていたのだが、次第に膝から崩れ落ちていった。ヒカルは地面が足に付く前に踏ん張った。

 密着していたヒナタはヒカルが体を動かす直前に離れており、道連れは免れた。


「あら、照れ屋さんねぇ」

「へ、変なこと言ってんじゃねぇよ」


 ロビー内に響くほどの大声でヒカルは言った。前以上に顔を真っ赤にしヒナタに文句を言った。


「賑やかな人たち……」


 二人ではない声が話に割って入ってきた。

 その人物はフロントに立ち、小首を傾げて二人を見つめていた。


「あ、あなたがグゥばあ?」

「グラヴィスです。宿主がいない今、私がこの宿の経営者です」

「そう……」


 思ったよりも若い。ヒカルが最初に抱いた、グラヴィスに対しての印象だった。

 張りのある肌にはっきりとした顔のパーツが絶妙なバランスで置かれている。しかし、表情はなく性格はおとなしめ。華のあるヒナタとは違ったタイプの美女だ。


「あまりじろじろ見ないでください」


 ヒカルの視線を感じたグラヴィスは震える声で彼に言った。ヒカルは「すまねぇ」と謝りヒナタの後ろに下がる。


「大丈夫よぉ。この人、取って食うような度胸ないからぁ」

「おい、初対面の人になんて紹介してんだっ」

「……」


 今度はグラヴィスがヒカルを観察してした。

 美女にじーっと見つめられたヒカルは頬を赤く染め視線を逸らした。

 グラヴィスに対する照れもあるが、一番は不格好なファッションの自分をじろじろと見られている恥ずかしさだった。


「不格好な方、ですね」


 言われた。ヒカルは不格好な理由となるズボンの裾をつまんだ。


「私たち、ここに一泊したいのぉ」

「かしこまりました」

「……で、掃除してる部屋はあるのぉ」

「あります」


 宿泊の手続きと支払いを終えると、グラヴィスは部屋の鍵を持って二人を先導した。歩くごとに埃が舞い、階段を上る際には天井からも埃が落ちてきた。頭にかかった時には背筋が凍った。


明日は送れぬよう予約投稿いたします。

予約投稿、便利な機能だなと改めて思いました。

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