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南総里見八刀伝  作者: 八木大和
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千太郎と阿遷

この作品は学生時代に構想していたものを再度構想し直し、書き出したものですので、幼稚な内容な上、相応しくない表現があるかもしれませんがよろしくお願いします。

前触れなんてこれっぽっちも無かった。それは突然始まり、嵐の様に去っていった。

この村に残されたのは、大量の死体と家屋の残骸。そして僕の兄ちゃんと父ちゃんが残した一本の刀。

僕はその刀を手に、江戸を目指す。兄が残した言葉を頼りに。



「へーい、ラッシャーイ。江戸土産にいかがですか〜あの伝説の刀、雪風や時風、甚六もそろってるよ〜」

ここは江戸。商人やらお侍さまが店先を右から左に流れていく。刀を売る男には目もくれず。

「よ!やってるか?」

そういって顔を覗かせたのは残念ながら客ではない見慣れた顔だった。

「なんだお前かキノ。やってるもどうも、このザマよ。客なんて入りもしない。そもそも、店先に並んでる商品は全部レプリカだ。インチキ商売は性に合わないんだよ」

刀売り、もといインチキ商売で生計を立てる男、阿遷は顔の横で手をひらつかせる。

「まぁ、そう言うな。いい隠れ蓑になってるのは確かだろう?」

にこりと笑った薄い唇の隙間から綺麗に並んだ白い歯がのぞく。

「はぁ、いいよな天下の百内サマは。やってることは大体同じなのに俺とは全然扱いが違ぇんだもん。その上美形一家だなんてなぁ。天は二物を与えずなんて言葉ほど信用ならんものはないな」

若くして幕府御用達の殺し屋集団、百内一族の頂点に君臨する男。それが今目の前に立つ、百内鬼之助だ。

「美形だなんて嬉しいことを言ってくれるじゃないか。…なぁ、阿遷。また人斬りが出た。今度は官僚7人だ。さすがにこれは百内でも庇いきれない。もう無視はできなくなってきている。だから…その」

「悪いが、俺は百内に戻る気はない。もともと血筋至上主義のあそこは嫌いだったんだ。百内の中の俺なんて言ってしまえば、清水の中に混じった一滴の泥水。お前が許しても他が許さない。それに安心しろ。阿円のことは何とかする」

鬼之助の眉は一瞬ピクリと動いたあと、またいつものハの字に戻った。

「あのー、お話中にすいません。この刀ってレプリカですよね?」

商品台の下からひょっこりと少年が顔を出した。クタクタになった服はあちこちが破け、髪は何日も洗っていないのかくしゃくしゃの油まみれ。見た所12〜14歳くらいか。背中には立派な刀が1本。それだけが彼の誇りと言わんばかりに輝いている。が、その身から放たれる凄まじい異臭によりその輝きすらもくすんでしまっている。

「え?いや、そんなことはありませんよ?」

少年はおもむろに商品台の刀を手に取り鞘から引き抜いた。

「いや、これは間違いなく偽物だ。光の反射、刃紋の微妙な違い。血や油のあとも精工に再現してあるけど全然違う。素人ならふつうに騙されるだろうね」

「君、何者だい?」

鬼之助の右手が刀に伸びる。

「やめろ、キノ」

「しかしこんな精工に作れるなんて…となると、本物はその腰のものか?」

「おい、君名前は?」

少年は少し考えるようなそぶりを見せた後、

「僕は山田太郎。鍛冶屋の息子で、いまはお江戸で修行をさせて頂いています!先程は失礼致しました。今のは父の受け売りでございます!一度は言ってみたかったのです!それで…なんなんですけど、あなた様の腰につけているその刀を少し見させていただけないでしょうか?」

「馬鹿者!武士が刀を手放すなど言語道だ…」

「いいよ。はい」

阿遷は刀を少年に手渡した。

「おい!阿遷!」

「いいじゃん、いいじゃん。最近はこういうがっついて来る若者が少ないし?それに真面目そうだし盗んだりなんてしなさそ…あれ?」

刀を手に猛スピードで走り去る少年の姿が遠くに見えた。

「おい!こら!」

「ほら言わんこっちゃない!早く取り返すぞ!レプリカならまだしもアレはマズイ!」


ここまで逃げればもう大丈夫だろう。町外れの林までやってきた僕は盗んだ刀を見つめる。

やった…、これでまずは一つめ。兄さんの言う通りだ。さて、では中身を拝見させていただこう。この瞬間はいつも緊張する。

鞘から引き抜かれた刀身は雪のごとく白く、切なささえ感じさせる。

「これはなんだ。見たこともない刀だ」

「おい、ボウズ、いいもん持ってんな」

「え?」

次の瞬間側頭部に鈍い痛みが走った。


「あのガキ、思ったよりも逃げ足が速い…」

「阿遷、お前は運動不足すぎた。」

「つってもよぉ…」

「しっ、何か聞こえる」

複数の足音がこちらに近づいてくるのが分かる。

「なんだ。見えるか?」

「賊が3人と…ん?あのガキ捕まってやがる」

林の隙間からのぞくと、さっきの山田くんがまるで米俵のように賊の一人の脇に抱えられているのが見えた。賊はそのまま近くの小屋に入っていった。

「ってことは多分お前の刀も…」

「仕方ねぇよな…」

阿遷は鬼之助の前に手を出した。

「なんだこの手は」

「俺は今、何にも持たないただの人だ。賊3人相手に丸腰で挑めは無いだろう?」

鬼之助はしぶしぶ刀を阿遷に手渡した。

「無理はするな、加減をしろ。」

「決して飲まれず、飲み込むな」

「あと一つは」

「分かってるって。安心しろって」

阿遷は心配そうな鬼之助を無視して賊が、入っていった小屋に向かった。




「千太郎、見ておけよ。父さんの刀は凄いんだぞ」

優しい兄さんの声がする。力強く鉄を打ち付けるカンカン、という音が響いている。

楽しかったなぁ。兄さんと一緒に父さんの仕事を見るのは。…もう、会えないのかなぁ。兄さん。

「なーんだ、人の刀盗むくらいの肝あると思ってみたらただのブラコン野郎か」

聞いたことのある声がした。ぼやける視界がハッキリしてきて、その正体に気づいた。

一つくくりにした長い黒髪に、深い海の底よりも暗い色をした瞳。

「お前は…」

「刀は返して貰った。あと、賊も適当に片しておいた。」

「賊…?そうだ、僕は誰かに殴られて…」

3人の、巨大な男か小屋の隅で伸びていた。一人で全員やったのか?なんだこの男!?

「あ、その刀」

「んあ?あぁ、お前が盗んだ刀な。人のもん盗むなんてすんなよな」

あの刀は見たことが無い。でも、兄さんの言っていたことが本当ならその刀があればまた兄さんと…。

奪わなきゃ。たとえ、この男を殺してでも。

出来るのか?真っ向勝負じゃ勝て無いだろう。でも隙をつけば…。

「いいか、まだやり直せる歳だ。今からでも遅く無い。人生を見直して…っだ!?」

くそ、かわされた。

「賊の刀奪ったのか。そんなにこの刀が欲しいの?なんで?」

「にっ…兄さんを助けるためだ!」

「助ける?」

「ああ!僕の村は河合阿円率いる河合一派に潰された!僕は兄さんの言われて隠れていたから逃げれられたけど…兄さんはあいつらに連れて行かれた!」

呼吸がだんだん速くなる。汗が滲み出て目に入る。

「それと、刀どう関係がある?」

なんだ…河合一派の話になった途端こいつの目つきが…。

「兄さんは言っていた。江戸に行って伝説の刀を集めろって。そしたらまた会えるって!だから僕は!!」

刀をもう一度しっかり握り直し、僕は斬りかかる。

きっと、この刀は届か無い。あいつに届く前に僕は…。

目の前に赤い花が咲き乱れた。痛みはなかった。それどころか刀が何かを斬った感触さえあった。

「なんで…お前」

振り下ろした刀はあいつの背中を斬りつけていた。じわりと滲む赤い血と、咳き込むような鉄の匂いが鼻をついた。

「まだ生きていたらしいな。しぶとい」

あいつの白い刀が賊の喉に突き立てられていた。賊の喉からは噴水のように血が吹き出している。

死人のように白いあいつの肌が返り血で染まる。

「殺る気があるなら、本気で斬れ。お前の刀は死にに来る者のそれだった。相手を斬るというのに、その気が全く感じられ無い。そんな腑抜けなら、俺がここで殺してやる」

今まで刀なら何本も見てきた。刀はもはや友達の様な存在だった。なのに、なんでこいつの刀はこんなに恐ろしい。まるで魂を握られている様な…。

「その一、『無理はするな、加減をしろ』その二、『決して飲まれず、飲み込むな』その三、『無駄な血は流すべからず、流したならば己の血で償うべし』」

「あんたは…さっきの色男!」

「鬼之助か」

「阿遷。あの時、この三つが守れないなら死んでもらうと言ったはずだよな。」

「破ってはいない」

「ギリギリな。刀をおろせ。また百内の人間にリンチされたいのか?」

2人はしばらく睨みあったあと、あいつ…阿遷が刀をおろした。

「分かったよキノ」

「すまなかったな。怪我はないかい」

「えぇ。はい。僕は大丈夫ですけど…」

ドタン、という音とともに阿遷が崩れ落ちた。

「おい、お前どうしたんだよこれ!」

「ちょっとガキに引っ掻かれた」

色男の視線が向けられた。

「そのガキ、阿円と因縁持ちだ。それで刀を狙ったんだと」

「山田太郎君…じゃないんだろうね」

僕は俯いた。

「俺は百内鬼之助。幕府からちょいとお掃除のお仕事をもらって生きている。そして、この馬鹿は…」

鬼之助が阿遷に視線を送ると、阿遷が小さく頷いた。

「こいつは河合阿遷。表は定食屋の店前でインチキ商売をしているけど、本職は俺ら百内のお仕事のおこぼれを貰ってお掃除のお仕事をしている」

「おこぼれ言うな。お前らじゃ解決できないヤツをしてやってんだ」

「河合…って!あんたやっぱり!」

「待って待って、確かに無関係じゃないけど、阿遷は河合一派に協力とかしてないから安心して」

「信じられるか!それに無関係じゃないって…」

「分かったよ。お前の兄ちゃんは俺が見つけてやる。その間、お前は俺と一緒に働け。俺が河合一派と繋がっていると分かったらお前の手で俺を殺していいから。保証人はキノがなってくれる」

鬼之助は一つ大きなため息を吐いて、OKサインを出した。

「大丈夫。百内は幕府公認の暗殺機関だ。こいつがどこに逃げようと捕まえてその首、君の元に届けよう」

「…でもなんで一緒に働かなくちゃいけないのさ」

「片時も離れないってことは監視していることにもなるだろう?それと、これの治療費払えるのか?」

阿遷は自分の背中を指差した。

「…そ、それは…」

「なら決まりだ。君も闇雲に探すよりはいいと思わないかい?」

「そうだ…な」

「君の名前聞いていいよね」

鬼之助の白い歯が輝く。僕はまた少し俯いた。

「僕は…間宮千太郎」

「間宮…か」

阿遷は顎を撫で、少し考える様なそぶりをした後、何ごともなかったかのように握手を求めてきた。

「よろしく、千太郎」




作品タイトルは南総里見八刀伝となっていますが、正直いいタイトルが思いつかなかったのでもじっただけで、あまり関係ありません。刀は八つもでてきません。

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