9.保健室は、魔の巣窟
保健室、この学園では最も危ないとされる神聖かもしれない場所。
時に癒され、相談に乗ってくれる先生がいて、簡単な怪我の治療をしてくれる場所。
きっと、そんな場所を想像するでしょう。
普通の乙女ゲームの先生枠なら、ホストみたいな先生・色気のある先生・真面目な美形の先生、などなどを想像するのかもしれません。
ですが、この保健室は違います。別名、『魔の巣窟』と呼ばれるところです。
保険の養護教諭の姿は、女装し損ねた男性です。そう、女装しているはずなのに女装と呼べない別物の『ナニカ』になっているのです。
ゲームでは、この先生に『モザイク』がかかっていました。
18禁的な何かでもない、エロい場面でもないのに。
あえていうなら、オカマの先生。ニューハーフとは呼びたくないです。
お昼休みに教室で休憩していると、保健室に行ったはずのレイチェル様とクリス様とメリッサ様が血相を変えて教室に戻って来ました。
「「「リズ!」」」
「はい?」
「確か、リズってギルドでSSSランクでしたわよね?」
「そうですが」
「なら、話が早いわ。保健室に魔物がいるから、今すぐ退治してちょうだい!」
「ものすっごく、怖かった~」
言うや否や、私を引き摺って保健室まで連れて行きました。
私は恐る恐る保健室の扉を開けると、中にいた未知の物体を見た瞬間、すぐに扉を閉めました。
そして、その未知の物体を見た瞬間、私は思った。
『モザイク』は、偉大だと。
前世の世界であった『モザイク』は、人の手によって作られた偉大な奇跡だったのですね。
私は、この乙女ゲームの世界の『ヒロイン』。そのヒロインなら、ヒロイン補正力で、モザイクを作り出せないのでしょうか?
でも、残念!ここはヨーロッパ異世界風でも、人が魔法を使えない世界でした。
私では、実在の人物にかける『モザイク』を作り出せません。
私のヒロイン設定は、なんて使えないことなのでしょう...!
私は意を決して、再び保健室の扉を開ける前に靴を片方脱ぎ、その靴を手に持ち保健室の扉を開けると同時に、未知の物体に思い切り力を込めて靴を投げつけました。
そうするとあら不思議。未知の物体は、気絶して倒れました。
女装し損ねた未知の物体は攻略対象者の一人、アベーレ・カス・マルズ。
彼が、女装し損ねた女装と呼べないものをするようになったのは『初恋の女性』を父親に取られたことから始まります。
取られたというのは、かなり語弊があります。
アベーレ・カス・マルズが、初めて愛した『初恋の君』は彼のことに全く興味を持たないどころか、恋心すら抱いていませんでした。
アベーレ・カス・マルズの母親は、不倫して身分の低い男性を選び家族を捨てたのです。
そこで家族を心配した近くの男爵令嬢が、カス・マルズ伯爵家にたびたび様子を見に来ました。息子たちは眼中になく、完全に父親狙いでしたが。
気立てがよい男爵令嬢にほだされたルイ・カス・マルズは、ついに男爵令嬢に結婚を申し込んだのです。
アベーレ・カス・マルズは寝耳に水でしたが、下の弟たちはその男爵令嬢の思いに気づいていて、父親との恋を応援していました。
アベーレは、男爵令嬢と家族に裏切られたと思い込んで、家を捨て女装し損ねた女装をするようになったのです。
どっかの漫画や小説で見た話なのは、ご愛敬。でもそこから、変な方向に走って周りに被害を及ぼすのは乙女ゲームにあるまじき設定ですね。
ちなみに、アベーレ・カス・マルズはヒロインに癒され、攻略すると男に変身します。
それにしてもすごいですね、ゲームのヒロイン。モザイク必要な未知の物体を攻略するような剛鉄の心の持主で。
とりあえず、未知の物体は見たくないので保健室に置いてあったブルーシートを未知の物体の上に被せました。
未知の物体を再起不能にして少し経った頃、合法ロリが保健室に来ました。
「だから、小娘!『合法ロリ』言うな!先生と言え!」
「では、合法ロリ先生で」
「むぅ~。父娘揃って、同じことを言うとは。それより、保健室の魔物はどうした?」
「あの、ブルーシートの下です」
「妾はよりも先にあの憎き奴を殺ったのは、誰じゃ?」
「私です」
「やはり小娘、お前か」
「あの未知の物体は、何をしたんですか?」
「うむ、そうじゃな。国王からの使者を再起不能にした」
「あの姿は、トラウマものですからね」
「じゃから今から、制裁をしようと思ったところなのじゃ」
「ごめんなさい」
「いや、気にするな。制裁の下準備の手間が省けただけじゃ」
そう言うと、合法ロリ先生はどこかに未知の物体を引き摺って行きました。
どんな時も冷静でいなければいけない、国王様の使者を再起不能にするなんて未知の物体の威力は計り知れないですね。
それにしても、怪我をしてもいないのになぜレイチェル様たちは、保健室に行ったのかを教えてくれませんでした。肝試しみたいなものなのでしょうか?
これから、あの未知の物体は『未知の物体・モザイク必要』を略して、『未知の物体M』と呼ぼうと思います。
前世のあの映画のタイトルのパクリではありません!
未知の物体Mは、あの映画に出てくる未知の生物が可愛く思えるくらいの造形ですが...
ヒロイン補正「ヒロイン補正力は、モザイク作るためのものではないから!そんなことできないから!」