8. 『男の娘』化計画
クリス様が女の子の格好でいるのを全面肯定したら、なぜか懐かれました。
ですが、『男の娘』でいるにはまだ足りないものがあります。
そうです、『女の子的な仕草』です。
というわけで、学校の休日にクリス様とメリッサ様を寮に招待します。
寮にある応接室で、紅茶を飲みながらおしゃべりします。
給仕は、もちろん私です。
学園内の寮に移動する前に、メイド長とメイド長補佐から紅茶とコーヒーの美味しい入れ方を教えてもらいました。
本日の紅茶は、レイチェル様の好きな『アップル・ティー』です。
「ちょっと、レイチェル。あなたの専属侍女、ちゃんと躾なさいよ!クリスが、女装のままいたらどうするの?」
「女装ではありません。『男の娘』です」
「でも、リズはチェダー家の子ですわ」
「チェダー家って、あの『チェダー家』?」
「そうですわ」
「レイチェルって、すごいのね。チェダー家の専属執事や侍女は、自分が認めないと仕えてくれないのよ」
「例外はいますが」
「例外?あのチェダー家が、例外を許すの?」
「許す許さない以前に、その者はチェダー家の出来そこないですので、干渉されないんですよ」
「なるほどね。それって、誰のこと?」
「第四王子ロベルト・ゴルゴンゾーラマスカルポーネ様にお仕えしている、グッリェルモ・チェダーです」
「...ああ、うん、えーっと、そうだったわ。クリスの『男の子化計画』だったわね」
メリッサ様は、動揺を隠すように次の話題に移りました。
この反応は、第四王子の城内での評判を知っていますね。
とりえあず、私はメリッサ様の話題転換に乗っかりました。
「男の子ではなく、『男の娘』です。男の娘と書いて、『男の娘』です。そこら辺にあるたんなる女装ではありません!」
「そう...」
「いいですか。完璧な男の娘になるには、女の子の仕草をマスターしなければいかません。ここには、貴族女子の鑑レイチェル様とメリッサ様がいます。お二人が、女子として足りないものをクリス様にアドバイスすれば、完全なる男の娘になれます!」
「自分は、女の子の内にカウントしないんだ!?」
「私を入れてどうするんです?」
「なんか、もういいや...」
「それで、リズ。クリスに、貴族女子の仕草やマナーを教えてもよろしいんですの?」
「はい、レイチェル様。まさか、男の子を好きになったから、女の子になりたいって、クリス様が思っているなんて思ってないですよね?」
「「えっ!?」」
「ぼく、そんなこと思ってないよ!ちゃんと、女の子が好きだよ!」
レイチェル様、メリッサ様、そんなこと思っていたんですね。
クリス様が、ショックを受けていますよ。
近頃、貴族の女性や女の子の間で『BL小説』や『BL漫画』がなぜか流行っているのです。
ひょっとして、私と同じ前世持ちがこの乙女ゲームな世界に転生しているのでしょうか?
私という前科がある以上、ないとは言い切れませんね。
実は私、BL漫画を中古で数十冊購入してスヴァリウス様のお部屋に仕込んできました。なぜ、新品ではなくて中古かと思いますよね?お金をケチったわけではありません。中古であることに意味があるのです。
中古、それは使い古した後。中古の中でも、状態の良くないものを選りすぐったのです。重要なのは、『使い古した後』です。これを置けば誰でも、自分で購入して何度も読んでいると勘違いされますよね?
もし、スヴァリウス様が見つけられれば読んでトラウマと化し、お掃除に入るメイドさんたちが見つければ、BL漫画でスヴァリウス様を妄想しオカズにするかもしれません。どっちにしろ、私にとってはいいこと尽くめですね!
こんなことする私ですが、BL漫画やBL小説に抵抗があります。男性同士で、アレやコレを見るのに、拒否反応を起こすんですよ。
よく、『自分が嫌がることは、人にしてはいけません』なんて言う人がいるけれど、私は自分のためにします。
スヴァリウス様が、レイチェル様にした仕打ちを考えるとこんな生ぬるいことで許せるはずがありません。
今度、ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵家に帰る時には新たにBL小説をスヴァリウス様の部屋に仕込もうと思います。地味な嫌がらせですが、あの厚顔無恥なワガママ王子でも精神的なダメージが来ますよね?
運良く、BL世界に堕ちれば学園内でウワサを広めてあげます。ちょっとした、親切心ですよ?
この時、私は思ってもいませんでした。
学園全女子が膝をつき、ショックを受けるくらい女子力が高く完璧な淑女にクリス様がなるだなんて...