6.学園入学
「学校に行くの楽しみですわね、リズ」
「魑魅魍魎が跋扈する場所『マスケークリス学園』。敵地に踏み込まなければいけないのです。拒否権なしです。今までは、お屋敷という安全地帯にいましたが、それができません。気をつけて下さい」
「そんなに危ない場所ですの?」
「大丈夫です。レイチェル様に害をなすものがいれば、このリズがチェダー家の名にかけて叩き潰して見せます!」
私がそう言うと、父様が頭に拳骨を落としてきました。痛いです。もう少し、手加減というものを。
「レイチェル様に嘘を教えないでください」
「馬鹿ですか?年頃の女の子は、魑魅魍魎よりたちが悪いんです。色気づいた女の子同士のイジメは、陰険で陰湿なんですよ!もちろん、その対策はすでに立てているのですが」
「立てているのですか...」
「表立って、公爵家にたてつく馬鹿に心当たりがありますので」
学園に向かう馬車の用意ができるまで、そんな会話をしていました。
もちろん、旦那様と奥様はスヴァリウス様にかまっていてレイチェル様のお見送りはしません。
この頃になると、レイチェル様はそのことを気にしなくなりました。
レイチェル様がご両親に対して諦めるのはおかわいそうと思うと同時に、私なら前世でいうカップラーメンにお湯を入れる前に無関心に徹するなと思いました。
この国での家督継承は、長子制度です。本来なら、レイチェル様が家督を継ぐはずなのですが、スヴァリウス様可愛さに旦那様は家督をスヴァリウス様に譲ることを決めてしまっています。あのワガママ王子に家督を譲ろうとするなんて、没落願望があるとしか思えません。
マスケークリス学園は、全寮制です。
これから、学園内にある寮に向かいます。
レイチェル様に与えられた寮は、こじんまりした家の一戸建てという感じです。
こじんまりした家といっても、庶民の家よりも大きいです。
これは、レイチェル様にのお祖父様ジムディクト様に連絡せねばいけませんね。
与えられた寮は、個人ではなく家の格に対して広さが決まります。
スヴァリウス様が、学園に入学するとレイチェル様と同じ寮内に住むことになります。そうなったら、なんでも自分優先だと思い込んでいるワガママ王子が程んどの場所を占領し、レイチェル様が我慢を強いられることになります。
こういう時には、ワガママ王子を何においても優先するレイチェル様のご両親は当てにできません。ジムディクト様に対策を打ってもらいましょう。ジムディクト様はこの学園の校長と教頭にとても大きな恩を売ったことがあるそうなので、何か必要なことがあれば言ってこいと私に言っていたのです。
ゲーム内でのレイチェル様の寮のスペースは、スヴァリウス様よりもものすごく狭いです。ご実家にあるレイチェル様の部屋よりも狭いくらいです。酷すぎですね。弟だからといって、この横暴さは許されるものでしょうか?許されませんよね?
この時の私は、成り変わり転生ヒロインが現れれば、スヴァリウス様も一緒に陥れれるよねと妄想してしまいました。
荷ほどきと部屋の模様替えをし終えた翌日は、入学式です。
現実でもゲームでも長いと言われる校長先生の挨拶。
もし、挨拶がなければその間ちょっと困った人たちを潰す妄想でもしようと思います。
出てきた校長先生は、合法ロリです。
「皆の者、入学おめでとう!以上じゃ」
ええっ!?長いと思い込んでいたので、短すぎてビックリしてしまいました。
「それに、そこの娘!誰が、合法ロリじゃ。父娘揃って、人のこと『合法ロリ』と言いおって!」
というと同時に、マイクを私に投げつけてきました。
私は、マイクを叩き落として潰しました。
それにしても、あの合法ロリは心の声を聞こえるのでしょうか?口にしていなかったはずですが。
合法ロリは、予備のマイクを取り出して続けます。
「口に出さずとも、顔に出ておる」
なるほど。合法ロリだから、油断してましたね。
そこに、後頭部が禿げている教頭が出てきました。
「なにやっとんじゃー、合法ロリ!新入生に、マイクを投げつける奴がいるか!」
「仕方ないじゃろ、そこの禿げ。それに、あの娘はマイクに当たらなかったんだからよいじゃろ」
「そう言う問題ではありません!それに、私が禿げの呪いにかかったのは校長のせいでしょう」
「クッ」
合法ロリは、悔しそうに押し黙ってしまいました。
教頭は、合法ロリの首根っこと掴むと持ち上げて爽やかな笑顔で入学式場を出て行きました。
先生方は慣れているのか、何もなかったように入学式を続けていきました。
明日は、クラス発表とオリエンテーションです。
攻略対象の一人、ショタっ子がいるのでどういう子なのか観察せねばいけませんね。