1.はじまりは両親の離婚劇
いつものように、両親が喧嘩をしています。
ここは、ヴァルテッリーナ・カゼーラ公爵家のお屋敷。
父は執事で、母は男爵家の元令嬢。
ワガママに育った貴族のお嬢様が、屋敷の片隅の部屋で贅沢できないのは耐えられないのでしょうね。
と言っても、使用人たちの中では部屋が広いですし、親子三人で住むには十分な広さです。
私は5歳になったとこだといこともあり、現在はお嬢様レイチェル様の遊び相手です。
このいつもの両親の喧嘩からさらに発展した離婚劇を見た時に思い出しました。
ここは、乙女ゲーム『きみは僕のライトニング・スター』の世界だということに。
私は、この乙女ゲームのヒロインに転生したようです。
私の名は、リズ・チェダー。どうりで、聞き覚えのあるはずです。
この乙女ゲーム『きみは僕のライトニング・スター』。略して、『きみラタ』。
このゲームは、中世ヨーロッパ風の異世界が舞台。
ヒロインが貴族の通う学校に入学することから始まります。
そして出会う攻略対象者たち。実はこの攻略対象者全員、婚約者がいます。
ヒロインは天真爛漫で明るいという設定ですが、私からすれば礼儀知らずで人の婚約者を寝盗るビッチ系ヒロインにしか見えませんでした。
なぜこのゲームをプレイしていたかというと、乙女ゲーム好きの従姉妹たちに無理やり勧められたからですよ。
ちなみに、レイチェル様は悪役令嬢です。
幼いころに主人公と離れ離れになり、久しぶりに会えば忘れていてショックで嫌がらせをする令嬢です。婚約者を寝盗られるより、自分は覚えているのに主人公が覚えてないことにより、かわいさ余って憎さ百倍で嫌がらせをするという。
えっ?私が、天使のレイチェル様を悪役にする?そんなの絶対に嫌だ!
この『きみラタ』を思い出した時に、記憶量の多さに気絶しそうになりましたが、レイチェル様がそばにいたので必死に耐えました。
今後、どんなことがあっても「この時の私が一番頑張った」と言い張れます。
翌日、母様の両親が来ました。
母様が父様と離婚するので、迎えに来て欲しいと手紙を出したそうです。
ゲーム設定だと、父様と愛し合っていたので結婚を反対された母様は家を捨てたはずですが。
家を捨てても母様を迎えに来るってことは?
そうだ、思い出した。
数日前、母様が実家に帰っていたことを。
家を捨てたのに帰るってことは相当な理由があるはずだ。
確か、父様が言ってた。
母様の兄弟が、事故で全員死んだって。怖いな、乙女ゲーム。
それはともかく。
それで、もう少しあの記憶を記憶から引き出す。
母様を迎えに来る理由。それは、私です。
私を男爵家の駒として迎えに来たのでしょう。
母様は、すでに傷もので利用価値がない。私は、まだ利用価値がある。
それなら、迎えに来た理由も納得する。
この人たちは、私を駒にして利用する気だ。
父様と母様・母様の両親に旦那様が入って話し合いをしている。
私は大人しく話を聞いているだけ。
そして、私に父様と母様どちらについて行くのか旦那様が訊いてきた。
母様は、「もちろん、私と行くでしょ。今より、贅沢できるわよ」
母様、今まで私この状況に文句を言ったことがありませんが?
どうして、そう自信満々に言えるのですか?
母様と行くと私は、確実にビッチ系ヒロインになってしまいます。
好き好んで、誰がビッチになるか!
「父様といる。男爵家の駒として利用されるなんてお断り」
すかさず旦那様は、
「やはり、チェダー家の娘だな。自分の置かれた状況を理解して、それを理由に断るとは。この娘は、この家に自分の意思でしっかりと残ると言った。さて、帰られよ」
旦那様は、警備の者たちに言って母様とその両親たちを追い出しました。
私が、母様について行くと思っていた天使レイチェル様は、私に当分離れませんでした。寝るのも一緒です。