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買い物

 冒険者ギルドに戻ってみると、既に準備はできているらしく、ギルドの裏手に馬車が用意してあった。

 馬車といっても、率いるのは馬では無く、中にダンジョンのコアを埋め込んで作られた、馬の形をしたゴーレムだ。

 これも魔法具の一種で、ゴーレムは普通、召喚者の魔力が無くなると動きを止めて土塊に戻ってしまうが、ダンジョンコアを埋め込んでそれを動力源にすることで、 壊されない限り半永久的に動き続ける事ができるらしい。

 マリアに所有者の認証をすると言われて、ゴーレムに魔力を注ぎ込む。魔力を放出するのは初めての経験だったが、魔力を放出する感覚というのは慣れてないせいもあるのか、体の中からなにかが流れ出る感じがして、少し気持ち悪かった。

 ともあれ、これでゴーレムとの契約は完了して、ゴーレムはわたし以外の命令で動くことは無くなった。


 契約が終わるとマリアからお金とギルドカード、それから通信用の魔法具を渡される。

 マリアはこれから急な用事が入ったらしく、渡すものを渡すと、転移の魔法具を使って何処かへ行ってしまった。

 出発は明日なので、今日はこれから旅に必要な物を買い揃える為に、王都を巡ることになっている。先ずは奴隷の服を何とかするため、服屋に行こう。




「あの、本当に良いんですか?」


 戸惑った声をあげてるサラに、構わないと頷く。

 ここは王都でも一番大きな服屋で、世界各地にブランドを展開している有名店らしい。最初は汚い身なりをしたサラたちが店内に入るのを、あからさまに顔を歪めて嫌がっていた店員だが、念のためにとマリアからこっそり渡されていた紹介状を見せたら、態度が一変して媚を売るような気持ち悪い笑みを浮かべて、説明を始めだした。店員は他にも色々説明していたが正直どうでも良いので覚えてはいない。

 こんな場所に入った事は無いのか、自由に選んで良いといったのに、シャルロット以外の3人は見事に萎縮してしまって動こうとしない。

 嬉々として、高い服を選ぼうとしているシャルロットの神経の図太さをを少しは見習って欲しいものだ。


「人間、妾はこれに決めたぞ!」

「却下、戻してきて」

「何故だ!?」


 値段を見ろ、値段を。

 そんな高いものを買ったら、他のが買えなくなるでしょ。


「ぐぬぬ……」

「睨んでもダメ、戻す」

「チッ」


 ごねるので、戻してくるよう命令すると盛大に舌打ちしつつ、シャルロットは別の服を探しに行った。


「ほら、皆も選ぶ」


 未だに選ぼうとしない、他の三人にそう言うと三人は恐る恐る服を選び始めた。

 さて、わたしも自分の分を選ぶとしますか。




「服を買って戴いてありがとうございます」

「ありがとうございますマイカさん」

「ありがとうございます」

「貢ぎ物ご苦労だったな、人間」


 服屋を出るとセリカ、サラ、ミラの3人が頭を下げてお礼を言うので、最後の1人にでこピンをお見舞いしつつ、気にしないでといっておく。

 サラがご主人様ではなくマイカさんと言ったのは、奴隷だとばれないようにしているのに、そんな呼び方をしていたら、奴隷だとばれてしまう可能性があるため、さん付けに変えてもらった。

 わたしとしては、別に呼び捨てでも構わなかったのだが、こればかりは譲れないらしい。

 服に関しては、3人とも結局選べなかったので、わたしが適当に選んだ。わたしはオシャレとか興味の無い人間なので、ファッションセンス皆無の服装になってしまったが、さすがは美少女といったところで、何を着ても似合ってる。

 シャルロットだけは、自分で選んだ服装で、ヒラヒラやフリフリのついた黒いゴスロリっぽいドレスを身に纏っている。正直、かなり目立っていて周りの視線が鬱陶しいのだが、本人が嬉しそうなのでまあ、いいか。でも、かなり痛い出費だったのでとりあえず、一発だけでこピンをしておこう。




「いらっしゃいませ」


 服屋を出たところで、丁度お昼になったので、近くにあった店に入り、昼食をとることにした。

 この世界でマトモな料理を食べるのは初めてで、楽しみだったのだが、どうやらこの世界は食文化が殆ど発展していないらしく、メニューにあるのは、硬いパンと味の無いスープ、焼いただけの魚と肉、生の野菜と果物に水と酒。

 行商をやっていて、色々な場所に行ったことのあるミラとサラに聞いてみると、これが普通の食事なのだとか。

 せめて調味料は無いのかと聞いてみたが「調味料って何ですか?」と首をかしげられて軽く絶望した。日本の豊かな食文化に慣れてしまったわたしには、この世界の食事は耐えられない。

 慌てて魔法具を使い、調味料の有無をマリアに問い合わせると、塩や胡椒といった調味料は極稀に高ランクのダンジョンで見つかるらしい。

 ただ、数が非常に少ないので、調味料は見つけたら王族にまわされるので、その存在を知っている人は少ないとのこと。

 ふふふ、そうか調味料は高ランクのダンジョンにあるのか……


「ひっ」

「む、何だ人間、気色悪い笑みを浮かべおって」


 おっと、どうやら感情が昂って、笑みが漏れてしまったみたいだ。

 怯えているサラに謝り、シャルロットにでこピンをかます。


「ぬおぉぉ、デコが、妾のデコがぁ!?」

「皆、聞いて」


 騒ぐシャルロットを軽く無視し、王都から20キロほど離れた場所にある、ランク6のダンジョンに明日から潜ることを伝える。

 いきなりダンジョンに潜ると言われて、皆が不安そうな顔をするので、ダンジョンに潜るのはわたしだけで、4人は外で魔物を狩るか、大人しく待ってるようにと言うと、いまだに悶えているシャルロット以外は慌てて首を振って、わたしについていくと言ってくれた。

 無理矢理連れていくようで、ちょっと罪悪感があるが、これにはわたしの食生活がかかっているので、ダンジョンに潜らないという選択肢は無い。

 せめて、こんなわたしについてきてくれる皆は絶対に守ろうと心に誓った。



 昼食が終わり、昨日わたしが預けた刀を受け取るついでに、セリカとシャルロットの武器を買うのとサラとミラの武器をもっと良いものに変えるため、昨日訪れた武器屋に来た。


「おう、嬢ちゃん。武器直しおわってるぞ」

「ありがと」

「いやいや、久し振りにこんな良い武器を直させて貰って、こっちが礼を言いたいくらいだぜ」


 え?良い武器って、これ《IDO》の初期装備なんだけど。これで良い武器ってこの世界の武器はどんだけ悪いんだ?

 


 シャルロットは素手で良いらしく、セリカのハンマーだけ買い、店を出る。

 先程の店主の言葉が気になり、セリカの武器をアイテムボックスに入れ、システム画面から武器の性能を見てみる。


 ・ハンマー:rank1

 耐久40/40

 STR+1


 ……なにこれ。

 わたしの刀と比べてみると差は一目瞭然。


 ・刀:rank3

 耐久96/100

 STR+5


 ああ、これはダメだわ。

 これで普通より良いとか、本当どうなってるんだこの世界は。

 あまりの質の悪さに思わず額に手をついてしまう。


「あのう、どうなさいましたか。マイカさん」

「いや、何でもない」


 心配そうにわたしを見ていたセリカにハンマーを返す。その際に、あとで聞かれるのも面倒なので、ついでにアイテムボックスの事をわたしにしか使えない魔法だと説明しておく。

 しかし、武器でこれだと、この分では他の装備も期待できなさそうだ。


 想像通り、一通り高めの防具を揃えてみたが、どれもわたしの初心者セット以下のものしか存在しなかった。

 これは一刻も早くダンジョンに潜り、装備を揃えなくては……



 防具屋を出て、市場で食料を買い込み、最後に昨日テントを買った雑貨屋に立ち寄る。

 ここでは買うものが多いので、皆で手分けして集めることにする。


 ミラには調理器具を、サラには野外用の寝具を、セリカには武器や防具の手入れ用の道具を、そしてわたしとシャルロットで薬の類いを取りに行く。


「何故、妾だけ貴様のような人間と一緒なのだ……」


 シャルロットと一緒なのは、一人にしておくと何をするか分からないからだ。

 ぶつぶつ文句を言ってるシャルロットの手を引いて、薬が置いてある棚に寄る。

 売っているのはポーションだけ。こっそり一個とってアイテムボックスに入れてみてテキストを見てみたら……

 ・ポーションrank2

 擦り傷や切り傷の治りが若干早くなる


 これならミラの魔法で治した方が早いかもしれない。

 一応、念のために10本ほど買っていく。多分使うことは無いと思うけど。


 全ての買い物が終わる頃には、もう夕方になっていた。

 これから宿を探すのだが何処が良いだろうか。

 そう言えば、こっちに来てからお風呂に入ってなかったっけ。だったらお風呂のある宿屋に行こう。


「お風呂ですか?多分普通の宿屋には無いと思いますけど」

「妾は風呂のある場所以外は泊まる気は無いからな」


 なら、お金はあるんだし、折角だから一番高い宿屋に行くか。

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