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 わたしが目を覚ましたのはまだ日が昇りきってない時刻だった。

 システム画面の時刻を参考にすると今は午前5時、慣れないテントでの睡眠だったので、何時もより早起きしてしまったが、疲れは全く残っていない。

 やはり、この体のスペックは何処かおかしい。わたしをこの世界に召喚したやつはいったい何を考えて、こんな体にしたのやら。


 まだ寝ている二人の刺青に触れながらステータスと念じる。

 こうすることで自分の奴隷のステータスを脳内で把握することが出来るのだ。

 冒険者や一般人の場合はそれぞれの身分証にステータスが表示される。


 サラLv10 才能9


 スキル

 ・魔法《火》Lv4

 ・魔法《風》Lv2

 ・魔法《水》Lv1


 ミラLv7 才能9


 スキル

 ・魔法《光》Lv1

 ・料理Lv3


 何かレベルが凄い上がってる。

 サラはボア一匹、ミラは何も倒してない。

 なのに何故こんなに上がってるんだろうか。

 これが普通なのか?いや、流石にボア一匹でこれだけ上がるのは普通じゃないだろう。


 もしかして、わたしが倒した分の経験値も二人に入ってるのか?

 主人が倒した魔物の経験値は奴隷にも入るのが、この世界では普通なのかな。ううん、よくわからん。冒険者ギルドに行ったとき受付のお姉さんにそれとなく聞いてみるか。

 とりあえず、今は昨日狩ってきたウルフは全部渡してしまったので、朝飯を狩りに行かないと。


 テントを出て、察知スキルを発動させて獲物を探す。

 3キロ程先に4匹のボアが居る。ちょっと遠いが仕方ない行ってくるか。





 サラLv11 才能9


 スキル

 ・魔法《火》Lv4

 ・魔法《風》Lv2

 ・魔法《水》Lv1


 ミラLv8 才能9


 スキル

 ・魔法《光》Lv1

 ・料理Lv3


 朝食を食べ終わって、ミラとサラのステータスを再び確認すると、二人のレベルが上がっていた。

 どうやらわたしが倒した魔物の経験値は二人にも入るのは、確定みたいだ。これが普通のことなのか、わたしだけの事なのかはまだ分からないけど。


「どうかしましたか、ご主人様」

「私たちのステータスに何かおかしいところがありましたか?」

「いや、何でもない。テント畳んで」


 まあ、考えても他の人のレベルの上がり具合が分からないんだから、今は気にすることはないか。

 畳んだテントをアイテムボックスに閉まい、二人を連れて、ボアとウルフの素材を売りに冒険者ギルドへと向かうことにした。




 冒険者ギルドについて掲示板を見るとウルフの毛皮の納品の依頼があったので、剥がして持っていき、余った素材の値段と合わせて900Gを受け取った。


 そのまま次の依頼を受けるために掲示板を見る。

 ランク3からは10匹以上の討伐依頼もあるらしい。

 討伐依頼は依頼の報酬の他に、剥ぎ取った素材もそのまま売れるのでかなり人気の依頼だ。

 それに低ランクの討伐依頼はあまり危険も無いため、貼られた側から無くなっていく。

 因みに討伐依頼の達成の確認は、依頼を受けるとギルドカードにその依頼の魔物の名前と目標の個数が現れ、依頼を受けた本人、そのパーティーメンバー、本人もしくはパーティーメンバーの奴隷の内の誰かがその魔物を倒すと、ギルドカードに討伐した数が表示されるみたいだ。

 このギルドカード、無駄にハイテクである。ギルドカードだけこんなにハイテクなのは何故なのだろうか。


 今日は討伐依頼が貼られて無いので、

 ・ボアノニク5ツノウヒン:rank2

 ホウシュウ:250ギル

 ・ボアノキバ5ツノウヒン:rank2

 ホウシュウ:250ギル

 ・ウルフノニク5ツノウヒン:rank3

 ホウシュウ:500ギル

 この3つを受けることにする。

 ボアは昨日戦ってみて今のレベルなら、二人でも勝てるだろうと判断したので、今日は二人に任せてみる事にする。

 ウルフはちょっと危ないかもしれないけど、ピンチになったらわたしが威圧で動きを止めてしまえば大丈夫だろう。


「ねえ、ちょっと良いかしら」


 受付に依頼書を持っていったら受付のお姉さんに声をかけられた。

 何か用だろうか。


「実はあなたにお願いがあるの」


 ニコニコとした笑みを浮かべながらもその目は一切笑ってない。

 そして昨日の穏やかそうな受付のお姉さんと同一人物とは思えないプレッシャーを放ってくる。

 それにこの人の威圧感、誰かに……


「おじいさん……」


 ミラの呟きに奴隷商のおじいさんの顔が浮かび上がる。

 そうだ、この威圧感、あのおじいさんに似てたんだ。


「もしかしてその子たち父の所の奴隷?」

「祖父じゃなくて父?」

「あら、私そんなに若く見えるかしら。嬉しいわ。まあ、それは置いといて、お願い受けてくれるかしら?私は貴女が一番適任だと思うの」

「他の人に頼めばいい」

「今の冒険者たちじゃあ正直力不足なのよねえ。初めは異世界から召喚された勇者たちに頼もうと思って城に行ったんだけど、あの子たちまだ弱いのよね。育てば物凄く強くなりそうだけど、まだまだ時間がかかりそうだし、それに比べて……」


 お姉さんがわたしの内を見透かすように目を細めてながらわたしを見る。その目で何かを観察されてるような気がして、少し気分が悪い。

 

「あなた、とんでもなく強いわね。今まで色々な冒険者や魔物たちを見てきたけど、その中でもあなたの強さは桁が違う。多分あなたなら一人で魔王も倒せるんじゃないかしら」


 こいつ、何者だ。

 わたしの強さを見抜いたり、個人に依頼をしたり、少なくとも只の受付嬢ではない。


「そういえば、自己紹介がまだだったわね。世界ギルド連盟会長のマリア・ハーネストよ。これからも宜しくしてくれると嬉しいわ」


 ……何でそんな大物が冒険者ギルドの受付のなんてやってるんだ。




「さて、聞きたい事は何でも答えるわよ。貴女とは末長く付き合いたいと思ってるから」


 日が昇り、冒険者ギルドに人が増え始めてきたため、ギルドの会議室に場所を移した。

 出来れば帰りたかったが、こんな大物が相手だと、帰ったら何をされるか分からないので仕方なく話に付き合うことにする。


「マリアさんは……」

「呼び捨てで構わないわ」

「……マリアは、どうやって、わたしに気付いた。」

「私が貴女の異常な強さに気づいたのは、私が持っているスキルに表記されない特別な能力のおかげよ」

「スキルに表記されない能力?」

「そうよ、この世界にはね、極稀にスキルには属さない能力を持ってる人が居るの。何でそういう人が居るのかは分かってないけどね。私の能力は他人のステータスを視覚的に見る能力よ。もっとも、隠蔽されると見えないんだけどね。普通はこういう能力は隠すものだから、あまり他人に言いふらさないでね」


 ウインクをするな、気色悪い。


 そういえば、王様が言っていた勇者の持っている特別な能力もそれにあたるのか?

 それにしても、マリアが能力について話し始めてから二人が緊張しているのが手のひらから伝わってくる。

 もしかして二人とも何か能力を持ってるのか?

 気になるけど無理矢理聞いて嫌われるのも嫌だし、いつか二人から話してくれるのを待とう。


「次の質問。世界ギルド連盟ってなに」

「その名の通り、世界中に散らばってる幾つものギルドを纏めている何処の国にも属さない組織のこと。私はそのトップだからギルドの中では一番偉い存在ね」

「……何で冒険者ギルドの受付嬢を?」

「この国の王様が異世界から勇者を召喚すると、城に潜り込ませている私の駒から連絡があってね。それを確かめるついでに、何処かに強い人が居ないかと思って気紛れに受付嬢をやってたの」


 城に自分の駒が居るって事は、私が勇者召喚に巻き込まれて、この世界に来たことも知ってるのか。


「勿論、貴女の事情も知ってるわ。貴女には悪いけど、私は貴女が勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来てくれて良かったと思ってるわ。正規の勇者じゃ無いおかげであの無能王が貴女を手離してくれたんだもの」

「どういうこと?」

「あいつ、敵が多いから召喚した勇者を自分の駒にして、自身を守るために、自分の3人の娘を勇者たちと婚約させて、勇者たちを国の要職につかせたのよ。今頃、自分の娘を使って勇者を誘惑してるんじゃないかしら」


 うわ、最低のクズだなあの王様。あの時、断っておいて良かったよ。

 まあ、これで聞きたい事は聞いたしお願いくらい聞いてあげてもいいかな。

 あくまでも聞くだけであって、受けるかどうかは別だけど。


「それで、お願いって?」

「やっと、それを聞いてくれるのね。お願いというのは、父の所の奴隷を連れて、人類が今まで到達したことが無い場所を攻略してきてほしいの。龍の谷とか迷いの森、高ランクのダンジョンの最奥とか色々ね。あと出来れば、そこで取れる素材を片っ端から取ってきてちょうだい。勿論報酬は出すわ」


 龍の谷や迷いの森のような名前からして危なそうな所はまだ理解できるが、高ランクのダンジョンはダンジョンと同じかそれ以上のランクの冒険者に任せればいいんじゃないか?

 それと何故、奴隷を連れていくのかが理解できない。


「ダンジョンのランクっていうのは、ダンジョンをクリアできるランクじゃなくて、パーティーで潜って生きて帰れるかもしれないギリギリのランクの事なのよ。複数パーティーで潜ればクリアできるかもしれないけど、高ランクの冒険者は数がかなり少ないし、殆どがそれぞれの国に取り込まれちゃってるから、集める事が出来ないのよ」


 マリアはその事が腹立たしいようで、綺麗な顔を歪める。


「それと、奴隷を連れていって欲しいのは、貴女と契約した奴隷はレベルの上がりが早いし、同じ才能の一般人より遥かに強くなるから。その二人、昨日は子供に毛が生えたレベルの力しか無かったのに、今は初心者冒険者並のレベルになってるじゃないの。有能な人材は国に引き抜かれちゃうから、冒険者ギルドとしては人材不足が酷くて少しでも多く強い人材が欲しいのよ。だから貴女に育ててほしいの。父の所と指定したのは、そこには良い奴隷しかいないからよ」


 成る程、二人のレベルが上がる速度が早かったのは、わたしが原因だったか。

 わたしが原因だというのなら、その理由も何となく想像がつく。恐らくは成長促進のスキルのせいだ。

 成長促進のスキルがわたしと契約した奴隷にも効果を及ぼすのは意外だった。もとからそうなのか、それともこの世界にきて効果が変わったのかはこのスキルの効果を詳しく調べてなかったので良く分からないが、もしキルの効果がゲームの時の効果と変わっているなら、他のスキルも試しておいた方がいいかもしれない。


「報酬は」

「持ってきた素材の高価買い取り。ギルドランクを10に上げる。準備金に20万ギル。馬車1台。それと奴隷の刺青を写す為の魔法具をあげる。その刺青が無ければ奴隷だってばれないわよ」

「分かった。受ける」


 正直言って最初は受けるつもりはなかった。

 二人を連れてこのお願いを聞くのは危険すぎる。

 だが、わたしと契約した奴隷は普通より遥かに強くなると聞き、更に奴隷の刺青を見えなくできると聞いて、考えは変わった。

 危険な旅と言ってもわたしが居るし、二人が普通よりも遥かに強くなるなら、無理をしなければそれほど危険では無くなるかもしれない。

 そして何より、奴隷の刺青が見えなくなれば、奴隷差別が酷いこの世界でも、二人も普通に過ごすことができる。


「でも、奴隷はあと二人」

「ええ、分かったわ」


 流石にそれ以上増えると面倒を見きれない。

 あと二人増えるのも、人と付き合うのが苦手なわたしには厳しいかもしれないが、サラとミラにも友達は必要だと思うから我慢しよう。

 それと、もう1つ聞きたい事があった。


「一体、何のために、そんなお願いを?」

「世界平和よ」


 即答だった。

 ふざけてるのかと思ったが、真っ直ぐわたしを見るその目は至って真剣で、とてもふざけてるようには見えない。


「この世界は危険が多すぎるの、ダンジョンだったり危険な魔物が支配する地域だったりね。段々と魔物の数も増えてきている。とてもじゃ無いけどこの世界の人達には太刀打ちできない奴等も多くいる。それぞれの国が協力して動いてくれれば、まだ何とかなったかもしれない。でも国の王たちは自分のことしか考えて無くて、自分たちに危害が無ければ、他の国や世界の事なんて微塵も興味が無いの。本当は私たちが何とかしたいけど、悔しいけど私たちには力が無い。だからこのまま手遅れになる前に貴女にお願いしたの」


 マリアの言葉に思わず眉間にシワが寄ってしまう。

 正直、わたしにはマリアの考えは理解できない。

 どちらかといえば王様たちの方が共感できる。

 わたしは自分と自分のものさえ無事ならそれでいいという人間だ。

 他人を傷つけても何とも思わないくせに、自分のものが傷つけられるのは許せない、最低の人間。自分でもそういう自覚がある。

 そんな人間が世界平和のために行動するなんておかしいだろう。そういうのは正義感のあるやつがやれば良いんだ。


「あの、ご主人様、わたしたち皆が困ってるなら助けたいです。足手まといかもしれませんけど、私たちも強くなります!だから……」


 マリアの言葉を聞いて、今まで大人しくしていた、サラとミラが決意に満ちた、正義感に満ちた瞳で、わたしを見つめてくる。

 二人が言いたいことは何となく分かる。何故、そこまで他人を助けたがるのか分からないし、正直言って世界平和のためとか気が乗らないが、二人がそうしたいと望むなら、自分の気持ちを圧し殺してサポートするだけだ。


「まかせて」

「三人ともありがとうね。新しいギルドカードとお金と馬車を用意するのに時間がかかるから、先に父の所に行ってきてちょうだい。新しい奴隷の料金は私の方で払うから、貴女は連れていく奴隷を選ぶだけで良いわ。魔法具の方は父に用意しておくように頼んでおくから」


 マリアはホッとしたような笑みを浮かべて、これからの予定を語る。

 今日は忙しい1日になりそうだ。

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