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1日の終わり

 

 王都周辺の川でサラの体を洗ったあと、冒険者ギルドへと依頼の報告に向かうのだが問題が一つ。


「袋、買えない」

 

 手持ちのお金だけでは小さい袋なら買えるが、ボアの肉や牙を入れられるだけの大きさの袋を買うことができないのだ。

 牙と薬草だけ先に袋に入れてそれを提出、その依頼の報酬で袋を買ってボアの肉を提出、というのも考えたが、牙だけ持ってきて肉を持ってこないというのはおかしいので却下。

 薬草だけの報酬ではそれだけの大きさの袋は買えない。この世界、何故か意外と物価が高いのだ。

 アイテムボックスから直接出すのはどう考えても目立つから無理。

 さて、どうしようか。


「あの、ご主人様どうかなさいましたか?」


 悩んでいるとサラが声をかけてきた。


 そうだこの際だから、二人の意見を聞いておこう。

 二人に、アイテムボックスはわたしにしか使えない魔法なのであまり人に見せたくないこと、全ての素材を入れられるだけの袋が買えないことを伝える。


「そのアイテムボックスというのは何処からでも入れたものを取り出せる魔法ということでよろしいでしょうか」


 ミラの言葉に頷く。


「でしたら、適当な袋を買って、その袋から取り出してるように見せかけて、アイテムボックスから取り出すというのはどうでしょうか。これならその袋をアイテム袋だといえば誰も怪しまないと思います」

「それ、採用」


 ミラの頭を撫でたあと、早速露店で売っていた適当な袋を、残りの全てのお金で買い、冒険者ギルドへと向かうことにした。




 道中、トラブルも何もなく、無事に冒険者ギルドへと来たはいいが、ギルドの雰囲気が悪い。

 何故だか知らないが、皆して凄いピリピリしている。何があったんだ?


「なにかあった?」

 

 気になるので、受付のお姉さんに聞いてみる。


「ええ、実は王都の近くでランク5のパーティーが瀕死の状態で見つかってね、それで王都の周辺に強い魔物が徘徊してるんじゃ無いかと、皆ピリピリしているのよ」


 へえ、それだけ強い魔物なら一度戦ってみたいな。

 まあ、今はどうでもい良いか。


 依頼の報告を済ませ、余分に狩ったボアの素材も全て渡す。全部で550ギルになった。

 それとランクも2に上がった。ランク1から2に上がるのは試験はいらないみたいだ。

 ついでに、受付のお姉さんにこの辺の宿屋の相場を聞いてみたら、安いところで一人一泊100ギルはかかるらしい。

 最近は、何でも物価が高く初心者の冒険者が生活するのは大変なんだそうだ。


 受付のお姉さんにお礼を言って冒険者ギルドを出る、ここからは買い物タイムだ。先ずは武器屋に行こう。サラは攻撃手段があるから良いけど、ミラは攻撃手段が何もないからね、光魔法は補助や回復しか覚えないから。


「いらっしゃい」


 偶々近くにあった、こじんまりとした武器屋に入るとカウンターに髭面の小さなおっさんがいた。

 間違いなくドワーフだろう。

 武器屋にドワーフは定番だよね。


「武器、好きなの選んで、安いやつ」


 個人的には、サラは魔法の威力を高める杖、ミラは筋力が少ないから弓を使って欲しいけどここは二人に好きに選ばせよう。

 二人は最初は好きに選んで良いと言われて、戸惑っていたけどわたしが視線で急かすと各々好きな武器を選び始めた。

 そのあいだにわたしは自分の用事を済ませよう。


「店主、これ、直せる?」


 ボアを斬った際の衝撃でヒビが入ってしまった刀を店主に見せる。


「ほう、刀か。珍しいな、直せるぜ」

「お願い」


 刀を店主に預けたところで武器を選び終わった二人が来た。

 ミラは予想通り弓、サラは片手剣だった。

 理由を聞いてみたら、ミラを自分の手で守れるようになりたいから、だそうだ。


「全部で250ギルな。刀は明日の昼にでも取りに来てくれ」


 お金を渡し、商品を受け取り店を出る。これで残りは300、防具とかアイテムとか買いたかったがこれ以上お金を使うと宿に泊まれなくなってしまうのでそれは明日にしよう。





「奴隷はお断りだよ」


 宿を探しはじめて早くも2時間が経過していた。辺りは既に真っ暗になっており人通りも少なくなってきている。流石に今日はまだ何も食べてないので、お腹も空いてきた。

 この世界は想像以上に奴隷差別が酷いようで、どの宿も奴隷はお断りしている。

 奴隷を連れている人がどうやって宿に泊まっているのかというと、奴隷は街の外で野宿させて自分だけ宿に泊まるらしい。

 奴隷を買う人は、裕福な貴族や冒険者が多いようで、街の外で野宿している奴隷が魔物に襲われて死んでも、 最下層の奴隷はゴミ同然の値段で売っているため、新しく買い直せば良いと考えているようだ。


「ごめんなさい、ご主人様」

「私たちは野宿でも良いのでご主人様は宿に……」

「それは嫌」


 二人の提案をバッサリ切り捨てる。

 二人だけで野宿をさせたらあっという間に死んでしまう。夜は夜行性の危険な魔物が多いのだ。それに盗賊に襲われる危険性もある。

 だから二人だけに野宿をさせるわけにはいかない。

 出来ればベッドで休みたかったがこの際、仕方ない。


「わたしも野宿する」

「えっ」

「ご主人様!?」


 そうと決まれば話は早い。

 驚く二人を両脇に抱えてまだ空いている雑貨屋に直行、有り金を全部払って少し小さめのテントを買い、門へ向かう。


 巨大な門は既に閉まっていたが、門兵に外で野宿することを伝え、夜間に出入りする人専用の扉を開けてもらい、そこから王都の外に出る。


 それから王都の外壁沿いに歩いていき、サラの体を洗った川まで歩く。途中わたしたちと同じように野宿をしている人たちを結構見掛けた。

 全員というわけでは無いが恐らくは殆どが奴隷だろう。この街には結構な数の奴隷が居るみたいだ。

 わたしたちが野宿しようとしていた川の側にも何人かの人がいた。


「ここで野宿する」


 その場でテントを取り出して、行商をしていた頃に野宿の経験があるサラとミラにテントを組み立てて貰う。

 わたしも手伝いたかったが、テントを組み立てたことが無いわたしでは、足手まといにしかならなさそうなので、その間に晩御飯の獲物と焚き火用の枯れ木を取りに行く。


 森までは1キロほど離れているが、わたしの足なら1分ほどで着く。

 二人を長い時間、置いていくのは心配だったので、木を一本斬り倒し輪切りにし、それをアイテムボックスに放り込んで森を後にする。


 帰り際、森に行くときに察知スキルで見つけていたウルフの群れを狩る。

 今日の晩飯だ。


 わたしがテントの場所に帰還すると二人はまだテントを組み立ててる最中だった。


「お帰りなさい、ご主人様。随分と早かったですね」

「飛ばしたから」


 二人の邪魔をしないように少し離れて偽アイテム袋から輪切りにした木を取り出す。

 輪切りにしたとはいえ、それなりの大きさだったため、他の人たちは何事かとわたしに注目するが、二人はチラッとわたしを見ただけで作業に戻った。

 どうやら、今日1日でわたしのやることにはもう慣れてしまったらしい。


 取り出した木を適当な大きさに切り分けたら次はウルフの解体だ。

 8匹ほど狩ってきたが女3人の夕食だし2匹だけ解体する。

 残りは明日3人で解体すれば良いや。

 先ずは頭を刀で落とし、ミラから借りたナイフで綺麗に毛皮を剥いでいく。

 地球でのわたしは不器用だったが、この体になってからかなり器用になったので、これくらいなら楽勝だ。

 ウルフは肉と毛皮しか売れないので、残骸はアイテムボックスに入れといて後で何処かに捨ててこよう。ここで捨てたら死体の臭いにつられて他の魔物が来るかもしれないし。

 それにしても魔物というのは不思議だ。生きている筈なのに血が一切流れていない。それなのに他の器官はしっかりと活動してるし、肉も新鮮だ。そのうち魔物の生態系を解明してみるのも良いかもしれないな。

 剥ぎ取り終わると同時に、テントの準備が終わったのでサラに薪に火をつけてもらう。

 魔法って便利。わたしも覚えたい。


 ウルフの骨に肉を刺し、火で炙る。

 こんがり焼けた頃を見計らって、肉にかぶり付く。


「あまり、美味しくない」


 味付けも何もしていないんだから当然か。ウルフの素材を売ったお金で調味料でも買うか?

 いや、その前に服が先だ。

 わたしは《IDO》の初期装備があるから別に良いとして、二人はまだ奴隷の服だからせめてもう少し良い格好をさせたい。

 明日は朝一番で服を買いに行こう。


 と、そこでわたしたちの周りに川の側にいた奴隷たちが集まっているのに気がついた。

 全員が奴隷の服のままなので、恐らくは冒険者の奴隷なのだろう。貴族の奴隷ならもう少しましな格好になっている筈だ。

 それにしても一体何のようだろうか?

 もし二人に手を出すならこの場で殺さなくてはならない。


「あの、お肉分けてあげられませんか?」


 ミラとサラが悲しそうな表情を浮かべながら奴隷たちを見ている。

 自分と同じ奴隷の彼らに同情しているのだろうか。

 奴隷たちを良く見ると頬は痩せこけていて、見るからに不健康そうだ。それに周りにテントが無いことからこの人たちは地面に直接寝るのだということも分かる。


 わたしとしては、正直どうでも良いのだが、二人の望みはなるべく叶えてあげたいので、仕方なく残りのウルフを解体して、その肉と骨、それと薪を譲ることにする。火はサラがつけるみたいだ。


「これは、絶対、秘密」


 勿論他言しないように言うことも忘れない。

 他人の奴隷に勝手に手を出した事がばれたら後で面倒なことになるから。

 まあ、もしばれて文句を言われても威圧で追い返すけど、その時はその人の奴隷が八つ当たりされるかも知れないが、そこまでは知ったこっちゃ無い。


 肉を渡すとき、皆がわたしたちにお礼を言う。中にはわたしを拝む人もいた。

 この人達から感謝されようが何とも思わない。でも、ミラとサラが感謝されて嬉しそうにはにかんでるのを見るとわたしも嬉しくなってくる。


 肉を食べ終わったらテントに3人揃ってテントに入る。流石に狭い。でも暖かい。お金が貯まったらもう少し大きいテントを買おう。


貨幣の単位を金貨、銀貨からギルに変更。


1ギル=10円くらいです。


細かく分けると1ギル硬貨、10ギル硬貨、100ギル硬貨、1000ギル硬貨、10000ギル硬貨があります。


王さまから貰ったのが20万ギル位。

一部の奴隷を除き、この世界の奴隷は消耗品扱いなのでかなり安いです。


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