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閑話・私のご主人様

ミラ視点

「ここは俺たちに任せてお前たちは逃げろ!」

「お願い、私たち分まで貴女たちは生きて!」


 お姉ちゃんに手を引かれながら大勢の人たちに囲まれてるお血だらけの父さんとお母さんを見る。

 助けたかった。お父さんとお母さんと離れたくなかった。私達を襲った盗賊達が憎かった。

 でもそれ以上に力が無い、弱い私自身が憎かった。


 力が欲しい

 誰かを守れるだけの力が欲しい


 私も、私の手を引くお姉ちゃんのも強くそう思っていた。




「起きろ」


 牢屋の鉄格子を叩く音で浅い眠りから目を冷ます。

 森を出たところで奴隷商のおじいさんに捕まり、ここに入れられてからまともに眠れたことは無い。

 私には強く思った感情が声となって聴こえる。スキルでは無く、生まれつきの特殊な能力だ。

 怒った時や、悲しいとき、嬉しいときや、憎いとき。そういった強い感情が声となって私の耳に伝わる。

 ここは煩くて仕方がない。周りの奴隷たちの悲しみの声や世話係りの人たちの嘆きや喜びの声が頭のなかにひっきりなしに入ってきて頭がパンクしそうだ。

 今日の世話係の人は珍しく、私たちを捕まえたオーナーのおじいさんだ。

 この人は滅多に感情が聞こえないのだが、今日はおじいさんの心が喜びに満ち溢れている。

 このおじいさんの心の声が聞こえるときは決まって、奴隷が売れた時だけだ。


「お前たち姉妹の買い手が見つかった。ついてこい」


 やっぱり。

 正直いって怖くて仕方がない。

 奴隷には主人が選べない。

 もし悪い主人に買われてしまったら、性奴隷になったり死ぬまで働き続けることになるらしい。最悪の場合、肉壁として使われる事もあるとか。

 しかし、私には祈ることしかできない。せめて好い人に買われますように。



 私のその願いは通じたのかどうかいまいち良くわからない。

 お姉ちゃんに庇われながら私のご主人様だという人を見る。


 綺麗な銀髪をした人形みたいな小柄な女の人だった。腰には珍しい刀と呼ばれる武器を差している。

 冒険者の人なのかな?


 刺青は痛かったけど主従契約は問題無く終わって、今は冒険者ギルドに向かっている。ここまで会話は全く無い。


「ミラ、どう?」

「ダメ、分からない」


 小声で話しかけてきたお姉ちゃんに声が全く聞こえないことを伝える。

 多分この人は、あのおじいさんみたいに感情の触れ幅が小さい人なのだろう。

 今までこの能力に頼ってきたからこういう何を考えているのか分からない人が私は怖かった。



 冒険者ギルドへやって来た。多分依頼を受けるんだろう。私たちもついていくのかな?

 ここは人が多くて声も多く聞こえて、煩くて仕方ない。

 お姉ちゃんが私の耳を塞いでくれる。

 何回もそれじゃ意味が無いって言ってるけど、お姉ちゃんは人の多いところで私が辛そうにしてると、毎回こうやって耳を塞いでくる。

 お姉ちゃんは優しいんだけど、ちょっとお馬鹿さんだ。

 と、そのとき……


「--っつ!?」


 ひきつった悲鳴が喉の奥から出る。

 目の前のご主人様から凄いプレッシャーが漏れている。

 私の心に恐怖とたまに喜悦の混じった声が聞こえて来る。


 お姉ちゃんからも大きな恐怖の声が聴こえる。

 ビビりで怖がりなお姉ちゃんは顔を真っ青にして震えている。


 もちろん私もこのプレッシャーは怖い。

 でもそれよりもこれだけのプレッシャーを放っているのに、ご主人様の心の声が全く聞こえないことの方が怖かった。

 因みに受付のお姉さんはこのプレッシャーを悦んでいた。このお姉さんは変態さんなのかな。


 ご主人様がギルドの説明を聞いて、受ける依頼を探している。

 私もギルドの説明を聞いていたが良くわからなくて半分くらい聞いて無かった。あのお姉さんは説明が下手だと思う。


「あの」


 冒険者ギルドを出てお姉ちゃんがついにご主人様に声をかけた。

 声は震えているけど頑張れお姉ちゃん。


「依頼って私たちも一緒に行くんですか?」

「そうだけど」

「戦うんですよね」

「当然」

「妹は……」

「大丈夫、サポートする」


 そういってご主人様は口元を歪める。多分笑ってるんだと思うけど目が全く笑ってないから正直言って怖い。

 お姉ちゃんは涙目でブンブンと首を縦に振っている。

 最初はあれだけ睨んでたのにこの牙の抜けよう、お姉ちゃんはへたれだ。



 王都を出てまずは薬草取り、ご主人様があっという間に見つけて直ぐに終わってしまった。

 次はボアという猪に似た魔物を狩るらしい。

 私は狩りは初めてなので少し緊張する。


 どれくらい歩いたんだろうか。

 私が疲れてきたところで休憩にするとご主人様が言ってくれた。もしかして私に気を使ってくれたのかな?よくわからない。


 休憩中にご主人様が私たちの話を聞きたいと言ってきた。

 出来れば話したく無かったけどご主人様には逆らえない。ご主人様がどんな契約をしたかは分からないけど、もしご主人様が結んだ契約に違反すれば、奴隷の刺青から熱が身体中を駆け巡り熱に焼かれて死んでしまうらしい。怖い。


 お姉ちゃんの強い悲しみに当てられて私まで悲しくなってきた。

 お姉ちゃんが話終わるとご主人様が慰めてくれた。

 でもご主人様の心の声は相変わらず聞こえない。

 お姉ちゃんは少しはなついたみたいだけど私はまだご主人様が怖い。



 休憩が終わり、暫くご主人様について歩くとボアの群れを見つけた。

 予想以上の数の多さに緊張してくる。


「ここで待つ」


 ご主人様の声が聞こえると、気がつけばご主人様はボアの群れの前で刀を振り上げていた。

 そしてご主人様が刀を振り下ろすと地面が割れ、ボアが吹き飛んだ。

 ご主人様は刀を仕舞うと残ったボアの頭を掴みそのまま握りつぶしてしまった。


 ご主人様は強かった。

 商人として色々なところを巡ってるうちに色々な冒険者を見てきたがその誰よりもご主人様は強い。

 圧倒的な力を前にして恐怖で自然と体が震えてくる。

 それと同時にこの人についていきたい、そしてこの力の一端を少しでも手に入れたいと思う自分もいる。

 お姉ちゃんは純粋に怖くて震えているみたいだけど。


「これ、仕留める」


 ご主人様が最後の一匹のボアを投げてくる。

 私たちは咄嗟に動けなかった。


「仕留める」


 もう一度、ご主人様が言うとお姉ちゃんが動いた。

 私はボアを仕留めるだけの攻撃力が無いのでここはお姉ちゃんに譲ることにする。決して怖い訳では無い。


「フ、フレイム」


 ボアの下に魔方陣が表れそこから火柱が立ち上ぼりボアを焼く。

 流石お姉ちゃんの魔法だ。ボアくらいなら一撃で倒せる。

 お姉ちゃんは仕留められてホッとしてるみたい。


 そのあとはご主人様がお姉ちゃんに剥ぎ取りかたを教えて貰いながら3人で剥ぎ取りをした。

 相変わらずご主人様の心の声は聞こえてこなかったが何となくご主人様は楽しそうに見えた。

 ご主人様はもしかして良い人なのかもしれない。

 お姉ちゃんもさっきまで怖がってたのに、もう慣れてきたみたいだ。

 お姉ちゃん、ちょっとチョロ過ぎるよ。

 そういえば、解体したボアの素材が何もない空間に消えていったのはいったい何だったんだろう?

 ご主人様に聞いてみると魔法だと、教えてくれた。こんな魔法を使えるなんて、ご主人様は凄い人だ。


 帰り道、お姉ちゃんとご主人様と一緒に並んで帰る。私もご主人様に慣れてきたので、少しずつご主人様と話をするようになった。そしてこの頃になって、ようやくご主人様の喜びの声が、微かにだが聞こえてくるようになった。でも、途中一瞬だけその声が聞こえなくなったのは何故なのだろうか。


 その途中、4人の男の人たちに囲まれた。全員から喜びの声が聞こえて来る。この人たちはこの状況を楽しんでいる。

 でも不思議と恐怖は無い。多分ご主人様が強いからご主人様ならなんとかしてくれるって思いがあるから。

 お姉ちゃんは突然の事態に固まっている。


 ご主人様に気づかれないようにそっと服の裾を掴む。


 男の人がご主人様の肩を触ってきた。

 ご主人様は何故か動かない。

 その時、ちょっとだけご主人様の心の声が聞こえてきた。

 これは……心配?小さくて良く分からない。

 もっと良く聞こうと意識を集中した時だった。


 別の男の人の手がお姉ちゃんの肩に触れたとたん、その人の左肩から先が中を舞っていた。

 それと同時にご主人様から吐き気がするほどの強い心の声が聞こえて来る。

 これは……憎悪と怒りと……悲しみ?

 色々な感情が混じっていてよく分からない。

 でもご主人様が私たちを守ろうとしてくれていることは分かる。


 そのご主人様は刀を振り上げて倒れている男の人に止めを指そうとしてる。

 止めなきゃ行けない。

 もしご主人様がこの人たちを殺してしまったらご主人様が捕まってしまう。

 そうしたら私たち姉妹はまた奴隷商へと逆戻りになってしまう。

 それは、嫌だ。私は誰かを守れる位に、強くならないといけないんだ。


「ダメ……」


 殆ど聞こえないような囁き声だったけど、それでもご主人様は止まってくれた。

 ご主人様は大きく息を吐く。

 凄い、それだけで気持ち悪くなるくらい聞こえていた心の声が全く聞こえなくなった。

 

「ゴメン」


 私が感心してると何故かご主人様に謝られた。

 そして、驚くことに頭を下げられた。奴隷に頭を下げる人なんて聞いたことが無い。


「い、いいえ、謝らないでください。その、私たちの為に怒ってくれてありがとうございます」


 お姉ちゃんの言う通り、ご主人様が謝る必要は無い。


「ありがとうございます」


 私もお姉ちゃんと同じようにお礼を言って頭を下げる。

 ご主人様は決して良い人というわけでは無いのだろう。それでも私たちの事を大切に思ってくれている。

 決めた、私は何があってもこの人についていく。この人についていけば、あの時、望んだように力をつけることが出来る。そんな気がする。

 多分お姉ちゃんも同じ思いだと思う。

 それに--


「とりあえず、サラを洗ったら、帰ろう」

 

 --もっとこの人の事を知りたい。


 そう思いながら私はご主人様の手を握った。

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