初めての依頼
王都を出て周辺の草原までやって来た。
ここら一帯は低ランクの依頼を受ける冒険者達が良く狩りをしているので人が多い。
これでは中々ボアを狩るのが難しいので薬草だけさっさと採って更に2キロほど歩いていく。
流石にここら辺まで来ると、王都から離れているため人が少ない。
歩きっぱなしでも、わたしとサラは平気だが、ミラは体力的にきつかったのか肩で息をしているのでここで休憩をとることにする。
飯は無い、お金が無くって買えなかった。
「ねえ、何で奴隷になったの」
疲れても無いのにただ座っているのも退屈なので二人と会話をして見ることにした。これから一緒に行動するんだからコミュニケーションは大事だ。
自分から他人とコミュニケーションを取るのは久しぶりなので、少し緊張する。
「あの、話さなくちゃダメですか?」
「聞きたい」
サラの様子から話しにくい事なのだろう。
でも他に話題も思い付かないので、ちょっと強めにそう言うとサラは首を勢い良く振りながらポツリポツリと語りだした。
それにしても、サラは初めて見たときは睨み付けたりして、反抗的な態度だったのに、今はこんなに従順的だ。何かあったのだろうか。
妹のミラに関しては目を合わせようともしてくれない。謎だ。
「私たち一家は商売をしながら旅をしていたんです。その日も王都に商売をしに行きました。でもその途中の森で盗賊に襲われてしまいまして、父と母は私たちを逃がすために囮になって……」
で二人は逃げてきたけど捕まって奴隷商に売られて、両親は盗賊たちに殺されたと。
サラは結局、最後まで話せなかったが、察するにこんなところだろう。
こういった、ファンタジーな世界の物語としては特に驚くようなこともない、ありふれた良くあるような話だ。
流石にそんなことは二人には言えないので、ここは小説や漫画を参考にしたありきたりな言葉で慰めておく。自分の言葉で誰かを慰めたりなんてわたしにはできそうにも無い。
このコミュニケーションで少しはなついてくれると嬉しいんだけど。
最初は暇潰しに買った二人だけど少し一緒に行動しただけで愛着が沸くなんて、やっぱり双子揃って買ったのは失敗だったかな。
「そろそろ、行く」
短い時間だが、休憩も終わったし、察知スキルを全開にしてボアを探す。
東南500メートル先に1匹、でも近くに人間が3人いるからこれはその人たちの獲物なんだろう。
後は、西800メートル先に10頭程の群れを発見、近くに人影は無し、ちょっと数が多いけどわたしが居れば大丈夫でしょ。よし、これ狙うか。
「ついてきて」
二人を引き連れて歩くこと数分。目的の群れへとたどり着いた。
群れは草を食べるのに夢中で此方に気づいた様子は無い。
「あの、ちょっと数が多くないですか?」
草食系の魔物とはいえ体長1メートルもあるボア10匹が群れてると流石に子供には怖いか。
仕方ない、この体の性能も試したかったしちょうど言いか。
「ここで待つ」
怯えている二人にここで待ってるように言い、一人群れへと飛び込む。
速い--距離があっという間に縮む。
まずは一匹、手近にいたやつの首を切り落とす。
その際、予想外の事が起きた。
刀を振るった衝撃で地面が割れ、更に衝撃に巻き込まれ他に6匹絶命した。
想像以上の自分の力に思わず絶句する。
これは、ちょっと力を制御しないと不味いかも。
仕方なく、衝撃でひび割れてしまった刀をしまい、2匹の頭を素手で握り潰す。
素手で生き物を潰す感触は気持ち悪い。なるべくなら此れからはやりたくない。
早く力の制御ができるようにしよう。
「これ、仕留める」
残った一匹を二人の元へ放り投げる。
空中に放り出されたボアはそのまま頭から地面に激突し、脳震盪でも起こしたのか起き上がってもフラフラだ。
仕留めるには絶好のチャンスなのに二人は涙目で震えて動かない。
ミラはともかく、サラは魔物と戦ったことがあるはずなのに、何をやってるんだか。
「仕留める」
もう一度言うとようやくサラが動き出した。
掌をボアへ向け、集中するように目を閉じる。
「フ、フレイム」
すると、ボアの下に浮かんだ魔方陣から小さな火柱が立ち上ぼり、ボアの体を包んでいった。
「おお」
始めてみる魔法に思わず感嘆の声をあげる、生の魔法を初めてみるけど、やっぱりVRの世界とは違ってリアル感がありテンション上がるなあ。
これを見るとわたしも使ってみたいという気持ちになる。今さら後悔しても遅いが、こんなことになるなら魔法のスキル取っとけばよかった。
その後は、冒険者ギルドで無料配布していた魔物の買い取り査定が書かれた本を参考に、わたしは細かい制御の練習も兼ねてひび割れてしまった刀で、サラはもう一本の刀、ミラはギルドで貰ったナイフで三人揃って剥ぎ取りをする。
誰かと協力して作業をするなんて久しぶりだ、懐かしい。さっきのコミュニケーションとこの共同作業でだいぶ仲良くなれたかな。
剥ぎ取った素材は袋を買うのを忘れていたので、アイテムボックスへと本と一緒に突っ込む。
アイテムボックスが使えて良かった。
ミラとサラが驚いた目で見てきたので、これはわたしの魔法だと説明する。それで二人は納得してくれたようだ。
しかし、このアイテムボックスは絶対目立つから今度からは何か袋を持っていこう。
よく小説なんかで見る、空間拡張された袋が売ってればいいんだけどな。
帰り道、共同作業の成果かミラとサラが隣を歩いてくれるようになった。サラもミラもポツリポツリとだがわたしに話しかけてくれるようになった。
こうして一緒に歩いていると、まるで新しい《・・・》妹ができたような気分だ。
……あれ?可笑しいな、新しい《・・・》 ってまるでわたしに妹が居たみたいな……うん、いた。確かにわたしには妹が居たはずだ。でも、顔も声も名前も何も思い出せない。そういえば、ふとしたときに思い出す『あの子』って誰だっ--------------------こうして一緒に歩いていると、良く『あの子』とも一緒に歩いたなあと、懐かしい気持ちになる。
これから暫くは一緒に居るんだから二人とは仲良くなっておきたいと思う。
そういえばさっき一瞬、思考にノイズが走ったような気がしたんだけど気のせいだったかな?
まあ、それは置いといて、さっきから何故か後をつけられてる。
てっきり、わたしたちと同じく王都に帰る人なのかと思ったけどどうも違うみたいだ。前にも3人柄の悪そうなのが居る。もしかしなくても仲間だよねこれ。
「おう、嬢ちゃんたち。良かったら俺らとパーティー組まねぇか?」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、一番大柄な男が話しかけてくる。
「必要ない」
「まあまあ、そう言うなって」
断って男たちをよけて進もうとするが、回り込まれる。それどころかわたしの肩に手をまわしてくる。思わず腰の刀に手が延びそうになるが、ここで斬りかかったらこいつの血で二人が汚れてしまうため、ぐっと堪える。
「お、この二人も奴隷にしては可愛いじゃん」
後ろの男の手がわたしのサラの肩に触れ--男の左腕が宙を舞う。
肩から溢れでた血がサラに降り注ぐ。
こんなクズの血で汚してしまって少し申し訳なく思う。
男達が呆けている間に全力で男達に威圧を放つ。
男達は苦しそうに涙を流してのたうちまわる。多分肩を斬り飛ばした男はショックで死んだかもしれない。
だが、そんなの知ったことか。
何故かは分からないが、わたしは、わたしのものに勝手に傷つけようとする人間が世界で一番嫌いだ。
わたし自身に手を出すならまだ半殺し程度で済ますが、これは駄目だ。こいつらは悪意を持って、一方的にわたしのものに手を出そうとした。
それはわたしが許さない。
ここは日本ではないし、向こうのわたしとは違って、この世界のわたしには力がある。それにコイツらは冒険者だ。なら自分を抑える必要はない。
どうせ生きてても害しかもたらさないような連中だ。ここで殺す。
「ダメ……」
その声に振り上げた刀を止める。ミラが震えながらわたしの服をつかんでいた。
その怯えるような姿を見て、急速に怒りが覚めていく。
ここでコイツらを殺したらようやく仲良くなれてきたのにまた怖がられてしまう。
買った直後だったらなんとも思わなかったかもしれないが、少しでも愛着が沸いた今、それは嫌だ。
目を閉じて、大きく息を吐く……うん、落ち着いた。
「ゴメン」
怖がらせてしまった二人に頭を下げて謝る。
「い、いいえ、謝らないでください。その、私たちの為に怒ってくれてありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人揃って頭を下げられる。
ヤバい、この娘たちめっちゃいいこじゃん。
何か、今まで暇潰しだとか失礼なことばっかり考えててゴメンなさい。
この子たちは絶対に守ろう。ここまで愛着が沸いてしまうと、亡くした時は悲しいだろう。もうあんな思いをするのは二度とごめんだ……あれ?あんな思いって何があったんだっけ。まあ、いっか。
とりあえず、この子たち相手には普通に話せるように頑張ろう。
「とりあえず、サラを洗ったら、帰ろう」
二人としっかり手を繋ぐ。
久しぶりに握った人の手はわたしの想像以上に暖かかった。