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灼熱のダンジョン④

「はあっ」


 斬り飛ばしたレッドドラゴンの首が舞う。

 辺りは既に足の踏み場も無いほどの様々な魔物の死骸で埋め尽くされている。

 このダンジョンの攻略を始めて今日で三日目、現在わたしはダンジョンの六階層まで潜っていた。


「数多いなあ」


 そう呟きながらも動きは止めず、また数体の魔物の首が飛ぶ。

 昨日までにクリアした三階迄も確かに魔物の数は多かった。

 だがその分、洞窟内も広大で休める場所も存在した。

 しかし、四階からは洞窟内が極端に狭くなり、直ぐに次の階への階段は見つかるものの、魔物の数は逆に増えて、最早、魔物のいない部分を探す方が難しく、床から壁から天井まで多種多様の魔物で埋め尽くされている。

 なので、魔物を全滅させないと休むことが出来ない。

 魔物同士が同士討ちしてくれれば少しは、少しは楽になるんだけど。

 ダンジョン内の魔物は、外の魔物と違って、違う種族の魔物同士で争うなんてことはしない。

 恐らく、外の魔物とダンジョンの魔物はなにかが違うのだろう。その、何かまでは分からないが。


「まあ、考えても仕方ないか」


 襲ってきたフレイムバードを斬り落とす。

 これで、この階の魔物は全て討伐した。

 四階からは物理攻撃の効かない敵は出てこないし、一キロ程度の広い部屋が一部屋しか無いので攻略は楽だ。

 ただ、部屋のなかに魔物がこれでもかと言うほど詰められているので、全部倒すのはそれなりに疲れる。

 しかも、宝箱も採取ポイントも無いので、全然ダンジョンに潜ってる感じがしない。

 何時までこのダンジョンは続くのだろうか。せめて、もう少し敵が強ければこっちも楽しめるんだけど。


 もう、戻りたくなってくるが、まだ日は登っている時間なのでもう少し、潜ることにする。

 階段を降りると、その先にあるのはトロールのいたダンジョンの最下層にあった扉と同じタイプの扉。

 ようやくボスか、長かった。


 扉を開け、中に居た魔物を見て思わず眉を潜める。

 五メートルはあろうかという巨大な体躯。

 三つの首に一つの体。

 それは地球では地獄の番犬とも呼ばれていた、伝説の存在。


「ケルベロス」


 自然と口からその名前が溢れ出る。

 わたしがその名前を口に出した瞬間、三つの首が全てわたしに対して向けられる。

 その瞳を見た時、あのトロールよりも遥かに強いプレッシャーが体にのし掛かる。

 そのプレッシャーに思わず口角が上がる。


「ほう、吾の姿を見て膝を屈しないか」

「そのような敵は実に千年振り」

「これは楽しめそうだ」


 わたしの事を見て、それぞれの首から楽しそうな言葉が漏れ出す。


「魔物が喋った?」

「吾をそのような低脳な輩と一緒にするな」

「吾は邪神様が手ずからに創られたじゅうさんわの存在の内の一体」

「吾らの中で言葉を発することが出来ぬのはトロールの馬鹿だけよ」


 わたしの発した言葉に、三つの首がそれぞれ犬歯を剥き出しにして唸り出す。

 どうやら、こいつとかつて戦ったトロールは普通の魔物とは違うようだ。

 それにしても、邪神か……そいつが今、この世界で起きてる異常な事態の原因なのか?

 まあ、わたしには関係ない事だしどうでもいいか。

 今はただ、この戦いを楽しむだけだ。


 刀を抜き、構える。


「ほう」

「これはなかなか」

「楽しめそうだ」


 先手必勝、敵が動き出す前に地を駆け、一気に距離を詰める。


「鳴神」


 光速で放つ斬撃はケルベロスの胸部を切り裂く。

 切り裂いた箇所から血が飛び出る。

 ……いや、これは血では無い、魔物は血が出ない。

 ケルベロスと同じ特別な存在であるトロールでもそうだった。

 だとしたらこれは何だ?

 分からない。だけど何だか嫌な予感がする。

 その液体がわたしの体に触れる前に急いで宙を蹴り、バックステップでその場から離れる。


「灼熱の」

「閃光を」

「受けてみよ!」


 そこに放たれる熱閃、それを宙を蹴り上空へ跳ぶことでかわす。

 更にその場所に二つ目の熱閃が飛んでくる。

 それを、再び宙を蹴り横に移動してかわし、かわした所に飛んできた三つ目の熱閃を、更に上空に跳びかわす。

 そして、天井に足を着け、天井を蹴り頭からケルベロスの方に突撃する。


「鳴神」


 突撃した勢いそのままに、すれ違い様に右側の首を切り飛ばす。

 首の断面から、噴水のように液体が溢れ出す。

 それに触れないように、ケルベロスの体の側から離れる。

 液体が触れた地面がドロドロに溶けていく。

 あれは毒?いや、もしかしたら酸かもしれない。

 正体は分からないが、あの液体にはなるべく触れないほうが良さそうだ。


「ふむ、吾の首を撥ね飛ばすか」

「このような傷を受けたのは千年前の勇者以来よな」


 首が切り飛ばされたというのに、残った二つの首は何処か楽しそうに会話をしている。

 まるで、この程度の事は気にするまでもないといった余裕を感じる。

 その余裕の原因は直ぐに分かった。

 切り飛ばした首の断面の肉が盛り上がり、数秒と待たずにそこから新しい首が生えてくる。


「気を付けろ、あの刀、強力な呪いがかかっておる」

「ほう、治りが遅いと思ったが、それが原因か」

「吾に効く呪いか、それは注意せねばなるまい」

「もっとも、あの小娘のスピードでは攻撃をかわすのは難しいと思うがな」

「違いない。ならば吾らの取る手段は一つ」

「攻撃する暇を与えぬほどに攻め立てるだけよ」


 その言葉と共にケルベロスの全身を黒い炎が包み、その巨体からは想像もつかないほどのスピードで此方に突っ込んでくる。

 それを横に跳んでかわす。


「はっ」

「それで避けたつもりか?」

「こいつを受けてみよ!」


 ケルベロスの体から出ていた炎の一部が蛇のように伸びて此方に向かってる。

 それを上空に跳んでかわす。

 そこに再びケルベロスが突っ込んでくる。

 ただ、ケルベロスを包んでいる炎の量が先程とは違い、桁違いに多い。まるで壁のように広がっている。

 これでは、流石にかわすのは無理だ。

 ならば--

「烈風波」

 --その炎を突き破るだけだ。

 風を纏った刀を前方に突き出す。

 そこから放たれた竜巻が、炎の壁に穴を開ける。


「「「なんだと!?」」」


 宙を蹴り、空いた穴からケルベロスの背後に移動、後方でケルベロスが驚きの声を上げる。


「空刃」


 そのケルベロスに飛ぶ斬撃を放ち、真ん中の首を絶ちきる。


「フレイム」


 魔力を練り上げること無く放たれた、地面から立ち上る灼熱の閃光がケルベロスの胴体に風穴を空ける。

 魔法はスキルのレベルが上がると低級の魔法なら魔力を練り上げる為に集中する時間を破棄することができる。

 その分、威力が落ちるが、わたしにとってはそれは微々たるものだ。

 さて、首を落として胴体に風穴を開けたのだから、これで倒れてほしいのだが、どうやらそう甘くは無いようだ。


 胴に開けた風穴はあっという間に塞がれ、首の断面からは新しい首が生えてくる。

 僅か数秒で傷は全て塞がってしまった。


「ヒートブラスト」


 だが、わたしも黙ってそれを見ていた訳では無い。

 唱えたのは火の上級魔法。

 わたしの前方に巨大な三つの魔方陣が現れる。

 そこから放たれるのは巨大な火球。


「嘗めるなよ」

「小娘が」

「その魔法ごと貫いてくれるわ!」


 それぞれの口から熱閃が放たれ、わたしの放った魔法と激突する。

 威力は五分と五分、わたしとケルベロスの丁度中間辺りで拮抗している。

 だが、その拮抗は長くは続かないだろう。ケルベロスの熱閃の威力が落ちないのに対して、わたしの放った魔法は少しずつ小さくなってきている。

 このままいけば、押し返されるのは目に見えている。

 もっとも、そうさせるつもりは更々ないが。


「空刃」


 ケルベロスの横に移動して、飛ぶ斬撃を放ち、首の一つを落とす。

 できれば全ての首を一気に落としたいが、スキルで放った技は最低でもす数秒のインターバルを置かないと同じ技を再び使うことは出来ない。

 だが、一つ落とせれば充分だ。

 三つの火球の内、二つは押し返されてしまったが、対抗する熱閃が無くなった一つがケルベロスの体に当たり轟音と共にはぜる。

 その衝撃でケルベロスの半身が炭化する。

 残る首は一つのみ。

 再生が始まる前に首を落とすために、最後の首を目掛けて地を駆ける。


 だが、ケルベロスも只ではやられる気は無い。

 地に倒れ伏したまま首だけを持ち上げて、此方に向けて熱閃を放ってくる。

 避けるのは無理だ。もう再生が始まりだしている。

 交わして接近する時間は無い。

 ならば押しとおるだけだ。


「烈風波」


 風を纏った刀を突き出す。

 刀から放たれた、竜巻が熱閃を一瞬だが押し留める。

 一瞬、数秒に満たない程度だが時間は稼げた。

 その合間に、熱閃の下を地面すれすれまでに体を屈めて潜り抜ける。

 わたしを狙った熱閃はわたしに当たることなく後方へと抜けていった。


「馬鹿なっ!?」


 顔に驚愕の表情を浮かべるケルベロスの最後の首を、横凪ぎに切り払う。

 これで三つの首は全て、殺した。

 これで終わってくれればいいのだが……


「……」


 逆再生の用に体が元に戻っていくケルベロスを見て、思わず眉をしかめる

 こいつは一体どうやったら死ぬんだろうか。

 三つの首を落とせば死ぬと思っていただけに、これでも死なないケルベロスを見て、どうすれば死ぬのかを考える。


「これなら行けるか?」


 刀をアイテムボックスに仕舞い、魔力を練り上げる為に集中する。

 唱えるのは火の最上級魔法。

 魔法の説明を見る限りだと、範囲が広大かつ、わたしが使うと威力が凄まじいことになるので、できれば使いたくは無かった。

 屋内で使うと確実にわたしにも甚大なダメージがくる。

 まともに食らったら、間違いなく体が消し飛ぶだろう。

 だが、わたしの体でも消し飛ぶということは、ケルベロスの体も確実に消し飛ぶ筈だ。

 他に方法も思い付かないのでこれで倒すしか無い。

 倒せなかったら……まあその時は、生きるのが嫌になる待て斬り続けるだけだ。

 問題はケルベロスが動き出す前に、魔力を練り上げるのが間に合うかだが、流石に今回はケルベロスも再生に時間がかかっているのでなんとか間に合うはずだ。


「おのれ!」

「小娘が!」

「消し炭にしてくれるわ!」


 再生が完了したケルベロスが、怒りに表情を歪めながら全身を黒い炎で纏い突撃してくる。

 だが、もう遅い。


「これで終わり。エクスプロージョン」


 魔法を発動すると同時に、トロールの棍棒を取りだし、盾にするように構える。


「何っ!?」

「馬鹿なっ!?」

「その呪文はっ!?」


 直後、目も眩むような閃光と共に、空間がはぜる。


「つっっ」


 部屋を埋め尽くす爆炎がわたしにも襲いかかる。

 棍棒を盾にしてるとはいえ、それで全てが防げるわけではない。

 手が、足が、どんどんと炭化していっている。

 全身を襲う激痛を歯を食い芝って耐える。

 数分かあるいは数十分か。実際には数秒しか経ってないにもかかわらず、爆炎に身を焼かれている間は、時が止まったように感じられた。

 やがて爆炎が収まる頃には、わたしの体は殆どが炭と化していた。

 消滅しなかっただけましかな。体が消し飛んだら再生できるか分からないし。

 体を支えきれなくなり、その場に崩れ落ちる。その痛みに眉をしかめる。

 わたしが崩れ落ちるのと同時に、炭となったトロールの棍棒が、形を保てなくなり崩れる。

 ここまで駄目になってしまっては、恐らくもう直すことはできないだろう。この棍棒はけっこう便利だっただけにちょっと残念だ。


 ケルベロスがどうなったか、首を動かして確認したいが、体が動きそうにない。

 でも、部屋が光に包まれているからケルベロスは倒せたのだろう。


 ああ、楽しかった……


 激痛と激しいMPの消費により、意識が朦朧としてくる。

 通信符で連絡して、迎えに来てもらおうかと思ったが、まだ手が生えてないので通信符を取ることができない。

 結局、連絡を取ることができないまま、激闘を征した満足感に包まれて、わたしはその場で意識を失っていった。



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