サラス村①
遅れてすいません
サラス村に到着したわたしたちが見たのは、ボロボロになった家屋と荒れ果てた田畑だった。
所々に見える村人達は揃って覇気の無い顔をしている。
「村長を呼んでくるからちょっと待っててくれ」
そう言って二人の男は村の奥へと駆けていく。
「あの……」
男達が去るとセリカが申し訳なさそうに話しかけてきた。
セリカの話によると、男達に村を助けると言った際、危険だと言われて最初は断られたが、悠長にしてると村が大変なことになると思い、納得させる為に、わたしのギルドランクを話してしまったらしい。
「勝手にマイカさんの事を話してしまってすいませんでした。私の村も魔物に襲われて壊滅してしまったので、どうしても見捨てられなくて……。私は後で幾らでも罰を受けますので、どうかこの村を救うのを手伝ってください」
「別に構わない」
「え?」
頭を下げて耳をシュンと垂れ下げているセリカの頭をグリグリと撫で回す。
耳がモフモフしていて気持ちいい。
「セリカが助けたいと思ったならわたしの事くらい幾らでも使えばいい。セリカの為だったらわたしはなんだってやるから。だから気にする必要は無い」
「マイカさん……」
わたしの言葉にセリカは次第に涙目になっていく。
ちょっと待って、何で泣くの?わたし何か変なこと言った?
泣く子の対処の仕方とか、分からないよ。
「ありがとうございます……」
泣きじゃくるセリカを他の皆が宥めて、ようやく泣き止んだ頃、村長を呼びに行っていた男達が杖をついたお爺さんを引き連れて戻って来た。
「私はサラス村の村長をしております、フリードというものです。この度は最高ランクの冒険者様にこのような村の依頼を受けていただいて本当に何とお礼を言っていいか……」
「気にしてない、敵の情報は」
「ありがとうございます。この村を襲ってきたのはホーンラビットという、普段は少し離れた所にある森に住んでいる魔物です。どうやら森に別の魔物が住み着いてしまったみたいで、餌が取れなくなったホーンラビットの群れが森から出てきて田畑を襲うようになってしまったのです」
ふむ、面倒だがその森に住み着いた魔物も討伐しちゃった方がいいかな。その魔物が居る限り、ホーンラビットを討伐しても新たな魔物が森から出てきちゃうだろうし。
察知スキルを全開にしてホーンラビットの居場所を探る。
村から少し離れた場所に四十匹程の集団がある。
確かホーンラビットはランク3で討伐の依頼が出る魔物だから、既にレベルがランク3の範囲を越えてる皆なら、わたし抜きでも無傷で倒せるだろう。
「皆は東に居るホーンラビットの群れの討伐をして。わたしは森の魔物を倒してくる」
「分かりました」
「任せてください」
「私、精一杯頑張ります」
「ま、妾たちにかかれば殲滅など容易いことだろう」
「うん、よろしく」
森の魔物の討伐は頼まれた訳では無いが、これからの事を考えると、討伐しておいた方が良いので、一応討伐しておくことにした。
「ちょっと待て!」
出発しようとしていたとき、集まっていた村人の中から柄の悪そうな男が前に出てくる。
なんか、めんどくさい事になりそうな予感がする。
「悪いが俺はお前らを信用できねえ」
「おい、ハイル、お前……」
「うるせえ!!ジジイは黙ってろ!!」
その男は、止めようとした村長を突飛ばし、わたしの前に出る。
予想通りめんどくさい展開になってしまい、思わず眉間にシワが寄ってしまう。刀に手が伸びそうになったが、その手をミラにそっと捕まれたので、仕方なく、大人しく男の話を聞くことにした。
「だいたいよ、こんなちっこくて見るからに弱そうな女がランク10の冒険者とか絶対におかしいだろ。どうせ、ギルドカードを偽装した詐欺師なんだろ」
男の言葉に村人達からも不信の声が上がり始める。
まあ、確かにわたしの見た目でランク10の冒険者というのは信じられないだろう。
わたしでも、相手が年齢詐欺の種族でなかったら信じないと思うし。
仕方ない、このままここに居ても仕方ないし、面倒だがこいつも連れてくか。
「そこで「これ、連れてく」」
まだ何かを言いたそうだった、男を脇に抱え、全力で森へと駆ける。
男はわたしの駆けるスピードに耐えきれず、1分持たずに気絶してしまったがそんなの知ったこっちゃない。
足手まといが増えることになるが、コイツが死のうが関係ないし。
……いや、わたしの強さを知っている四人ならこいつが死んだらわたしがわざと殺した事を悟るだろうから、嫌われない為に死なせるつもりは無いけど。
なら、いっそのこと途中で捨てて、帰りに拾って……ってもう着いちゃったか。
「ふげっ!?」
男を地面へ落とし森の中へと入る。
察知スキルで森の中を調べると森の中央辺りにベヒモスが四体、他の魔物は居ないので、多分ベヒモスに食べられたのだろう。
それにしても、このベヒモスはいったいどこから来たんだ?
「おい、てめえ、何しやがる!」
後ろの男は無視、さっさと終わらせて帰ろう。
森にはキノコとか薬草とか色々生えてるが、早く戻りたいので、全部無視することにする。
男は待ってればいいのに、何故か一緒についてくる。
「邪魔、どっか行って」
「ふざけんなよ!無理矢理連れてきたんだからちゃんと守れよ!」
コイツ、さんざん人を偽者呼ばわりしておいて、わたしを頼ろうとするなよ。めんどくさいな、やっぱり殺すか?
「おい、聞いて「静かに」」
ベヒモスの居るところへ近づいてきたので、腹に軽く拳を叩き込み、黙らせる。
まあ、意味無いけど、一番近いベヒモスにはもう気付かれてるし。ただ、ウザかったから殴っただけだ。
ベヒモスが動き出す前に、刀を抜き、地を駆ける。
「ブオオオオッ!!」
ベヒモスの咆哮が森中に響き渡り、残りのベヒモスが一斉にわたしの方を向く。
だが、もう遅い。
「せいっ」
先ずは、咆哮を放ったベヒモスの首を落とす。
「空牙」
次に重なる位置にいた二体のベヒモスを飛ぶ斬撃で纏めて斬り伏せる。
最後に突進してきたベヒモスを片手で止め、首に刀を突き刺し討伐終了。
図体はレッドドラゴン並にでかかったけど、火を吐く分レッドドラゴンの方が強かったかな。
どっちも一撃で死ぬことには変わりないけど。
「信じらんねえ、ベヒモスつったら1体でもランク8の魔物だぞ。それを一人で四体も……」
ランク8か、何でこのランクの魔物がこんな人里の近くに群れで居るのだろうか。
これより強い魔物が現れて住みかを追い出されたとか?
……なんか、ありそうな展開だ。そしてそれを狩るのに、わたしが駆り出される未来が見えるような気がする。
まあ、それはそれで、強い敵と戦えるし楽しみなんだけど。むしろそうなる前に此方から出向いて、討伐するのも良いかもしれない。
「あの、ちょっといいっすか」
考え事をしていると、高圧的な態度からやけに腰の低くなった男が話しかけてきた。
さっきまでと、態度が違いすぎて正直気持ち悪い。
「何」
「さっきは生意気なこと言ってすいませんっした!」
男は見事な土下座を決めてくる。
この世界でも土下座ってあるんだ。何かファンタジーな世界なのに所々、日本の文化があるような気がするのは気のせいじゃないよね。
《IDO》が日本が開発したゲームだから、それの千年後の世界であると思われるこの世界に日本の文化があるのは当然なのかな。
「気にしてない」
というか、謝罪とか正直どうでもいい。コイツに興味も無いし。
それだけ言って、ベヒモスの死体をアイテムボックスに放り込む。
「帰る」
「へい、お供します!」
ベヒモスをの片付けが終わったらもうここには用は無い。
男の襟首を掴み、最高速度で森を抜ける。男はまたも気絶したが気にしない。
帰り道、察知スキルを使い、後どれくらいホーンラビットが残ってるのか確認すると、もう5匹程度しか残ってなかった。
時間が掛かりそうだったら手伝おうかと思ったが、この分ならすぐ終わるだろう。
先に村に帰るとしますか。
「……」
村人達が唖然とした表情で、目の前に積まれたベヒモスの死体を見ている。
わたしの側では呼び出されたマリアが頭を抱えている。
マリアを呼び出した理由は、村ではベヒモスの報酬は払えないのでマリアに買い取ってもらうためだ。
「ベヒモス、幾ら」
「ちょっと待って、何でベヒモスがこんなところに居るのよ」
「知らない」
わたしに聞かれても困る。
むしろ、わたしが聞きたいくらいだ。
「普通、高ランクの魔物はダンジョンか、人があまり入らないような辺境にしか居ないものなのよ。たまに単体でなら現れるときもあるけど、群れで現れるなんて、聞いたことないわよ」
「どうでもいい。ついでにこれも」
取り出すのはレッドドラゴンとフレイムフラワーという名の炎を吐く花。
「……ごめんなさい。フラワーフラワーの方は一度だけ見たことあるけど、そのドラゴンみたいなのは見たこと無いの」
「ランク10のダンジョンの敵」
「ボス?もしくは中ボス的な存在?」
「雑魚」
「最高ランクのダンジョンの魔物を雑魚と呼べるのは貴女だけよ」
マリアの顔が凄いことになってる。
まあ、見たこと無いのも仕方がない。あのダンジョンは人が入れるものじゃ無いからね。
「数はどれくらいあるの?」
「フレイムフラワーは四百六十八、レッドドラゴンは三百十二」
自分用に、少しは残しておこうかと思ったが、どうせ明日もダンジョンに潜るので、全部渡してしまおう。
「……ちょっと待ってて、ギルドの方で一度相談してくるから。一体ずつもって帰らせてもらうわ」
「了解」
マリアは何故か疲れたような顔をして、転移水晶を使い何処かへと去っていった。
その日は村長に頼まれて村で一泊することになった。
ホーンラビットの被害に悩まされていた村人たちは笑顔でわたしたちを歓迎してくれた。
夜に開かれた宴会では、あの柄の悪い男がわたしとベヒモスの戦いを大分脚色して熱く語り、大いに盛り上がった。
宴会の際、料理が味気なくあまりにも不味かったので、カレーをたべていたら、村人たちが興味深そうにしてたので、ミラとサラとセリカの三人がカレーを振る舞ってみたら、大好評だった。
その結果、わたしは何故か村人から勇者と呼ばれるようになった。
何度も、違うと言ってるのだが聞き入れてくれないので、取り合えずわたしのことは他言しないようにと、一応言っておいたが、村人の様子から見るに、あまり期待はできなさそうだ。
なんか、わたしの取る行動全てが面倒ごとに繋がってるような気がするんだけど気のせいかな。
そして夜も更けた頃にマリアが戻ってきた。
「待たせたわね。全部で金貨三万千九百八十枚で買い取るわよ。ただ、次に同じの持ってこられたらもう少し安くなると思うから」
ずいぶん多いな。ランク10のダンジョンの敵ならこれくらい当然なのかな?
この調子で魔物を狩っていってギルドの金庫は大丈夫なのだろうか。
「分かった」
ギルドカードを合わせて、貨幣の取り引きは終了。
アイテムボックスから其々の死体を取りだし、マリアが持ってきた容量制限無しの特注アイテム袋に、皆で協力して詰めていく。
それが終わるとマリアは直ぐに帰還する。ギルドのトップだけあって忙しいらしい。
「あの、マイカさん少しお願いしたいことが」
マリアが帰還したあと、セリカが話しかけてきた。
セリカの話を聞くと、あのダンジョンを攻略する間、この村を拠点として生活したいらしい。
なんでも、村の復興に協力したいんだとか。
特に断る理由も無いので了承しておく。
この村には皆に危害を加えそうな人はいないので問題は無いだろう。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに尻尾をパタパタ振るセリカを見てると、こっちも嬉しくなってくる。
よし、セリカにもっと喜んでもらえるように、明日ダンジョンから戻ってきたらわたしも何か協力しよう。




