牽制2
寝室の薄暗がりの中、表情まではわからないも心からは怒りが感じられる。
なんか最近心に怒られてばっかだなあ、俺。
「…んで」
声が震えてるのと小さいので聞こえない。
「ん?」
「なんで先に寝るんですか」
徐々に目が慣れるにつれ輪郭が見えてくる。俺の上に乗った心はいつもより小さい気がした。
そっと手を伸ばし心の指に触れるとあがりたてなのか温かく濡れていた。
「別に俺いなくても大丈夫かなー…なんて……」
語尾がどんどん萎むのは罪悪感と心の指先が冷たい寝室のせいでどんどん冷えていくから。
「大丈夫なわけ…ないだろ、お泊り決まってずっと期待してて…んで風呂、の時すごいドキドキしてたのに…あがったらタキさんいないんだもん…」
「…期待?」
こんな時鍛えておいてよかった。気になるフレーズに思わず体を起こすと重りになっている心が反り返る。後ろに倒れた心の顔の横に手をつきもう一度尋ねる。
「期待って…なに」
暗がりの中、心が顔を逸らすのが分かる。
「…すると思ったんだ」
「なにを?」
「え、タキさんホントに気付いてないの?」
「うん」
沈黙が生まれ、静寂を心の怒声が打ち破る。
「エッチだよ…タキさんの馬鹿!!」
「え、ええ?」
驚愕…というか、俺が鈍いのだろうか。
「エッチ?セックス?俺が心と?」
「他に誰いるんだよ…!てか、も…恥ずかしいから言うなぁ…」
心はきっと、電気を点けたら林檎みたいに真っ赤になっているんだろう。顔の前でクロスさせた腕がそれを示しているんだと思う。
一生懸命な様子がかわいく見えて、手を伸ばそうとしてふっと我に還る。この体勢って、心押し倒してるんだよなあ…。
この状態を理解した心からも不安げな様子が一気に伝わってくる。頭を撫でようとそっと手を伸ばした。
*
部屋に響くのは、低く唸る
…ドライヤーの風の音。
寝室にドライヤーのコンセントをを挿して柔らかな髪に指を差し込み空気を含ませる。
頭を撫でた時の心の髪は濡れていたから。
風邪ひいちゃいけないから。
「あの状況で髪乾かそう、なんて言うと思わなかった」
熱風を心のつむじから首元にかける。電気をつけて明るい室内では心のオーク色の髪が光に照らされている。
「なんて言うと思った?」
「…襲われると思った」
なんて、とんでもない事言う恋人に目を丸くして大体渇いた髪の質感を確かめドライヤーを止める。
「心が16になるまで手は出さないよ」
濡れ色の入った心の髪。かるく頭を撫でる。頭を撫でるのは凄く嫌なはずなのに俺にだけは許してくれる。恋人って感じだよなあ。
「なんで?」
振り向きざまの心からは風呂あがりのせいかいい匂いがふわっと香る。
あ…俺んちのシャンプーだから俺も同じなのか。
どうでもいい事と重要な決め事、同時に考える俺はやっぱ鈍いやつなんだろう。
「いや、なんとなく。15歳には手を出したら犯罪な気がして」
「…タキさん、よく分かんない」
「俺ん中で決めてんの」
そう言うと、心は、例に無く素直に告げる。
いつもは「馬鹿」とか小言とか言うのに。真っ直ぐ俺を見つめて。
「大事にしてくれてるって事?」
と聞き返すから。
なんかもうぐっときちゃって。普段が手は繋いだとしても先輩後輩の域のまんまだから知らないうちに抑えてたのかな。
……正面から抱きしめるのは初めてだ。
心の体は抱き心地がいい。細くてちょっと小さくて(ちょっと、と付けるのは心への配慮だ)ちゃんとここにいるんだなって思う。
胸の中で小さく心が呻く。
「タキさん…苦しい」
「あ、ごめん」
腕を少し緩めると心は小さく笑っていた。
「タキさん15まで手出さないんじゃないの」
「抱きしめるだけならいいんじゃないか」
怖いと言われる俺の目を心は好きだと言う。
心を見下ろすとへへ、とはにかんでいた。
泣くなよ、心。
「タキさんとターキーって似てるよね」
「似てません。タキしかかぶってないじゃん」
翌日はやっぱこんな調子。変わりない…はず。
「クリスマスはターキーですよね」
「いや、ケーキじゃないか」
「…僕の誕生日ですよ」
ぼそりと吐かれ、数秒後に真っ赤な心に意味を理解し。
つまりそういう事。
聖夜に、解禁なんだろ?
わかりにくいよ。