新年
「心、外見てー日の出」
「うう…むり、ねむ」
そんなことを受話器越しで話した朝。
俺は日の出を見るために一人無駄に張り切って早起きして、お子様体質なのに年が明けるからと無理して一年が終わってからも数時間粘っていたらしい彼に電話をかけてしつこく声をかけ続けていた。
「カーテン開けてみ?なあ」
「うるさ…もー、眠…」
「しーんー!!」
嫌がらせだ。にやにやしながら叫ぶと向こうからうるさい!と、あまり威力の無い眠そうな声が返ってきた。もうやだ、とかなんとかぶつぶつ聞こえてきて。ごそごそ布団を這い出る衣擦れの音がしたのでちょっと待つ。
俺はもう、スタンバイオッケー。
冷風が吹くので防寒具を羽織って(南極基地の人みたいだと言われたやつだ)ベランダに出ている。
時間帯が違うだけでどうして街ってこんなに姿を変えるんだろう?
荘厳とも感じてしまう、静かな空気。時折聞こえる車やビルから洩れる機械的な音だって、この特別な空気じゃ良いアクセントになるんだから。
高みからの眺望は、人を見下ろして見下して、優越感に浸るためのもんじゃない。
こうして、高いビルや、俺が今いる高層マンション全て。普段はうまく見えない地平線を照らして、この街を光が飲み込むのを確かめるため。ゆっくりと、陰影をつけて。
風が頬に冷たくて、ファーのついたフードをかぶった。
見たら、笑われるかも。
握った受話器の向こうではカーテンを開くレールのずれた音がする。
「タキさん!」
眠気、覚めたか?
「見た?」
「見た、初めてかも。すごいね」
見せたかったから。誰かにこの瞬間。
この部屋に来てから初めて教えた人だ。
「うん。俺んとこに今光、迫ってきた」
「光?」
不思議そうに聞き返す。
光に変わる瞬間が、俺の場所まで近付いて色を変えたんだ。
また、新しい年が始まるのだと知らせに。全ての人に、次々に教えに。
「心」
「はい?」
――君んとこは光、来た?




