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図書室ピアス  作者: 羽野トラ
リョコー
36/57

出張2

 今頃どこにいんのかなー。


 ぼーっとカウンターに餅みたいに伸びて、全うとは言えないけどそれなりに仕事して。

携帯をパコパコ綴じたり開いたりしてみる。電話、メールはできる…らしいけどしない。金がかかるってのもあるけどどこまで我慢できるのか自分を試してみる。

 それにタキさんにもメールはしませんって言った。まだ一日目だってのに僕から連絡取るのはしゃくに触る。

 つーか負けた気ぃするし。


 勝ち負けとか言ってる時点で子供なんだろうけど、態度に示したら示したであの人いちいちからかうんだもんな。


 月に数回は会わない日があるので、二年生がいない一週間の一日目はそうたいしたことがなかった。


 二日目、も全然…ではないけど、ほんのちょっと寂しいくらいで。

三日目の昼過ぎ、連絡をとらないと決めたけど数回あの人の電話帳を開いて指を迷わせていた。その時センセーに名前を呼ばれてやっと授業中だと気付いた(携帯没収された)。


 そんで四日目。

 没収された携帯を早朝慌てて職員室に取りに行った。着信がないか確認したいのに運悪く生徒指導の一番口うるさいギシ先に捕まって説教くらった。HRの始まるぎりぎりに教室に着き、懲りずに机の下で携帯を開くけど画面にあったのは友達からのメール3件とメルマガ1件。

 大袈裟に言えば、期待が失意に変わったってヤツ。

 苛々して、力を持て余し、叫びたくなったけど教室でそれは出来ないので机に頭突きしてたら皆に本気で心配された。


……ほっとけ。



「シーン、明日ヒマぁ?」


 飯の時間。

 いつものメンバーと席に着きパンをかじっていたら、そんなことを聞かれ。明日は土曜日、いつもだったらタキさんちに行ってる日だ。そのせいだろうな、最近付き合い悪い、なんて言われるようになってて。

いい機会だし、ていうか友達と遊ぶの久しぶりだし(友達いない人みたいだ)ちょっと興奮したら笑われた。


「ヒマヒマ!なに、どっか行く?」

「なーにがっついてんだよ、カラオケ行くっつてんだけど」

「行く行くオケりてー!」


 そんな風に騒いでいたら他のグループのメンバーも集まってきて、気付けばクラスの半数が明日のカラオケに参加することになっていた。




「次なに歌おー」

「あっテメ割り込み!」

「つーかこの前彼女んち行ったらぁー」

「持ち込み?別にいいべー」


 そうして土曜日。ひしめき合う男達がカラオケボックスにいた。結局当日になり来たのは16人。駅集合。

 この大人数が移動するとかなり人目を引く。ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てながらカラオケ店に着くと、二部屋に分ければいいのに無理して一部屋にまとめるから、店内でも大きな部屋を選んだとはいえかなり息苦しいものがある。そうして何故だか狭いからって理由で僕は膝の上に乗せられた。


「何歌う?」


 タッチペンで端末の履歴を見ていると背後から覗き込むのは発端の人、陽一。こいつの膝上にいるので顔が近いのはしかたない。


「じゃ運命のヒト」

「スピ?オレそれ知ってる、一緒にうたおーぜ」

「オッケー送信すんね」


 ピピ、と電子音。

 クーラーガンガンつけても16人なら調度いい。

 誰かがピザをオーダーしたらしい。扉を開けたカラオケ店員がこの有様に目を見開いていた(その店員にクラスメイトの一人が告白し始めた)。


「あいつら馬鹿だな」

「でもいーじゃん、僕久しぶりだし楽しいわ」


 馬鹿だ。ノリでの告白に勿論返事はごめんなさい。また一気に場が湧いて、みんな次々と失恋ソングを選ぶ。続々と割り込み入力で、失恋(?)した彼のため失恋メドレーが始まった。

 ほんの小さな出来事に~(って、古!!と内心つっこんだ)

 僕も一緒に軽く口ずさんでいるといきなり耳元にぬるいものが当たる。

なんだろう、と正体を確かめる前にそれは実体になる。


「ていうかオレは心と来たかったんだけどね」


 鼓膜まで低く通る音。意識してなかった陽一の存在が一瞬にして背中越しにものすごく明確になり。

 吐息は低くぼそぼそとした声に変わっていた。



……これって口説かれてた?

 まさか、違うよね。


 それでも。

 冷静さを保とうとしても、背筋に伝う不快な汗は心臓の猛りと直結しているらしく。


「外、出ない?」


思い出詰まったこの部屋を

僕も出て……


 なんて、歌っている側で。

頭ん中を糸屑が舞う、というわけのわからない妄想を膨らませ、タキさんを思い浮かべて僕らはテンションの上がったままのクラスメイトの脇を擦り抜けカラオケBOXを出た。

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