成長Ⅰ
「タキさん、脚掴んで」
「ハイハイ」
また“男らしくなりたい”シーズン到来ですか。
珍しく放課後、心に誘われ家にお邪魔していた。
心の家は三回目。彼が言うには『タキさんちと比べたらめちゃめちゃ部屋狭いからあげたくない』らしい。
一回目はご挨拶だけだったから部屋に入ったことはなかった。
だから部屋に入るのは二回目。ちょっとわくわくして部屋に入るとそれなりに整理されている。隅には飽きたんだろうな…ダンベルが埃をかぶって転がっていた。
俺の視線に気付いたのかはにかみながらブレザーの袖を引っ張り注意を別にしようとしていた。
「三日坊主だ」
ニヤニヤ笑うと、いいの。と開き直られた。
からかえば反応してくれるのに今日はそれがない。大人になったのかな、と首を捻ったけどそうじゃなかった。
「鍛えたいからタキさん手伝って」
ああ…。
はいはい。今日はそういうコトね。
なんとなくげんなりして俺は頷いた。
そして。
心は眉を寄せて3セット20回の終盤を迎えている。
「…う」
「ほらあと三回、頑張って」
「ん…」
曲げた脚の間に腕を差し込み浮かばないように体重をかける。これはこれで俺にも負荷がかかる。
体が軽いので、俺が重くしたら負荷に関節を悪くするんじゃないか心配だから。
小さく呻いて心が上体起こしのラスト一回をクリア。
ハアアー、と大きな息を漏らし後ろに倒れ込んだ。顔を赤らめて芋虫みたいに転がっている。
「一気にやるからだろ」
「だっ…て…」
「こういうのはコツコツやんなきゃ」
小言を言う俺はよく心に小姑みたいだと呆れられる。
だってしょうがないだろ。見てたらつい口出ししちゃうんだから。
「身長伸びた?」
ずい、と心の顔の横に手をついてそんなことを聞いた。まだ苦しそうにしている心は小さく首を縦に振り恨めしそうに俺を見上げる。
「よかったね」
恋人、後輩、家族みたいな、なんだかごちゃごちゃした気持ちは見守りたいって思いを強くする。
強くなるのも、大きくなるのもゆっくりでいいから。
あと5センチ身長が伸びたらお祝いかな、なんて考えていた。




