風邪
「ぶぇくしっ」
俺のコイビトがカゼらしい。ニケツ中に俺の背中に親父くさいくしゃみと冷たいものがかかってきた。鼻をすする音が聞こえてきたので、長く続く砂利道でチャリを一旦止めポケットに入れておいたティッシュを渡した。
「カゼ?」
「ぅ…あい、どもです」
ぶー、と音をたて、鼻かみティッシュをポッケに突っ込んだのを確認し、前方に目を戻すと心が背中に頭をくっつけてきた。
少し前傾姿勢になりぐっ、と脚に力を入れて漕ぎ出すと後ろで若干彼がぐらめくのがわかった。
「掴まりな」
落ちるじゃんな、こんな舗装されてないとこ。
「え…でも」
遠慮がちなのに疑問を持ち、ちょっと考えてすぐに納得。
「人いないよ?」
腰につかまるくらいどうって事なさそうなんだけど。
北風がヒュウヒュウ耳の奥を鳴らして体を擦り抜けてく。
「そじゃなくて…鼻」
「ハナ?」
木枯らしがうるさい。高い柵の隣の杉林がざわついてる。
「鼻かんだ手で掴めない、から」
がたがたと自転車を唸らせて、まだ道は続く。俺は少しだけにやけてしまった。
「鼻水でもなんでもどーぞ」
くっついたらあったかいと思うんだ。鼻カゼ以上にならないように風よけになってやってんだから。
「さっき唾もとんできたからね」
「一言余計…」
木枯らしと、鼻をすする音。




