ケンカのあと
こういうのを、世間ではバカップルって言うんだろうか。
「泣きやんだか?」
「元から泣いてない」
そう口にしながらもこくんと頷いて矛盾した行動をとる心。
部屋の中でソファに腰かけ軽く頭を撫でると恥ずかしそうに俯いた。
うん、そうだ。
俺が見たかったのはこんな顔。
素直じゃないけどこんなに素直。
すごく…なんて言うか、…イイ。ガキっぽいんだろうけどそう、好きなコにちょっかい出す小学生の気分。構ってほしくて。
「心」
それならそう、少し方向性を変えてみよう。心をあまり怒らせないやり方でさ。
ちょっと俺に顔を向けた瞬間、心に向かって突っ込んだ。それはもう勢いよく。
「なっ!何して…痛っ」
血とか怪我以外なら痛いの、聞いても大丈夫。
小さな声でゴメンと謝るが反省する気は更々無い。
ソファへ勢いで倒した心に覆いかぶさり見下ろす。不安げに、言葉なしに俺を見つめる心。
大丈夫、俺は君を傷つけたりしない。
自負してるんだよ、俺が一番大切にできるって。
「た、タキさん」
「へへへへ」
思わず妙な笑い声が漏れてしまった。
あ、今ちっちゃい声で『気持ち悪』って。
「や、ちょ…解禁は16って」
心が押しのけようと俺の胸を押す。どうしよう、ケンカの後じゃいつも以上に愛おしい。
たくさん抱きしめて、たくさん伝えてやりたい。
と、なんか変なこと言ってたぞ。
解禁ってなんだ。
「心」
名前を呼んで、ぐぐっと近付くと代わりにまた胸を押して抵抗。
その手首を掴み、心がびくりと肩を揺らしてる間に体を押し付けて頬を擦り寄せる。
あーなんかいい…
昔飼ってたソメ(ペルシャ猫)を思い出す。あいつもこうして俺が抱き着けば暴れたっけ。ヒゲがこそばゆくて、手に爪たてられたなあ。
ソメを思い出しながら頬を擦り続けていると心が呻き声をあげていた。
「も…なんなんですか、タキさん夕方だからヒゲ生えてきてますよ。痛い」
「悪い悪い」
口だけ。謝っても心のすべすべした肌にソメの面影を見いだし、顔を密着させる。
「心は生えないんだね、ヒゲ」
「な、僕だって生えます!…男だし」
じゃあなんでそんなに肌がつるつるしてんだってのはツッコまない。からかいすぎると悩むから、この子。
「そ。俺としては今のまんまがいいな」
そう言って額をくっつけて、抵抗を止めた恋人の手を握った。
いつもムードなんて無視しすぎてるから不安にさせてるんだろうか。
恋人らしいこと、俺からもすればいいんだろ?
「ケンカはやっぱやだね」
囁いて、耳たぶに、
俺のあけたピアスにちゅー。
ほら、ちゃんとカップルしてる…よな?




