主任がゆく(千文字お題小説)PART5
お借りしたお題は「宝くじ」「靴ずれ」「うどん」です。
松子は唐揚げ専門店の主任になり、大阪の新店舗開拓のため長期出張をしている三十路目前の女である。
新規開拓部の住之江博己とは出会ってから二週間経っても、只の同僚から進展はない。
自分から前に進もうと思った松子であったが、住之江の周囲には予想以上に「敵」が多かった。
まずは、親友の光子の飲み屋仲間である愛。
彼女は明らかに住之江に恋愛感情があるのがわかった。
そして、店舗の開店に向けての作業が進捗するに従って、東京から人事担当の女子が来た。
杉本美樹。松子とほぼ同世代。これ見よがしに大きく胸元の開いた白のブラウスを着て、深くスリットの入った黒のタイトスカートを履いている。
住之江はどうかわからないが、他の男達は美樹の胸元とスリットから覗く太腿を凝視していた。
「足立さん、一緒にお昼どうですか?」
数日後、美樹と二人きりになった時、そう言われた。
「いいですよ。どこにしますか?」
松子は笑顔で応じたが、美樹は真顔で、
「こちらに来て長い貴女にお任せします」
急に敵意を露にしてきたので、面食らった。
午後から内装の業者が来るのでゆっくり食事をしている時間がないため、松子は、耳障りな音楽を流している宝くじ売り場の隣にあるうどん屋に行く事にした。
「ここならすぐに食べられますから」
ムスッとした顔の美樹につい愛想笑いで言ってしまう自分に呆れてしまう。
(どうして私が気を遣わないといけないのよ? この人は同僚でしょ?)
揉め事が嫌いな松子は本能的に場を和まそうと動いてしまう。
「足立さんは住之江さんと付き合っているのですか?」
注文をすませて店員が厨房に消えると、小声で美樹が言った。
「え?」
松子はその唐突感溢れる質問に戸惑った。
「その反応は違うという事でいいのでしょうか?」
美樹は俯いた松子の顔を覗き込んで更に尋ねた。
「住之江さんとはそういう関係ではないです」
何も答えないのは癪に障ると思った松子は顔を上げて美樹を見た。
「彼はこちらの出身なんですけど、本社勤務も長くて庶務や経理の女子達に人気があったんですよ」
美樹は勝ち誇ったような顔になった。
(そんなにモテていた人だったんだ……)
松子は急に住之江が遠い存在になった気がした。
「貴女には一パーセントの可能性もありませんから、ご承知置きください」
美樹は鼻で笑って言った。
仕事を終えた松子はショックのあまりウイークリーマンションまで歩いて帰り、酷い靴ずれになった。
ドロドロしてきました。