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鬼奇譚  作者: 山羊ノ宮
8/15

酒宴

 大江と光達が別れて数日が経った。

 今だ光達は仇の鬼を求め、当て所ない旅を続けていた。

 一方大江達はと言うと、

「はははは、何甘酒一杯でへばってんだよ。アイ」

 先程目を回し、大の字に転がったアイを見て、大江は高らかに笑った。

「外は寒いですから、体が温まる物をと思ったのですが。アイ様にはもっと別の物を用意したほうが良かったですね」

 そう言って台所から女が現れた。

 女の頭には角がある。

「いやいや気にすることねぇよ。それにしても悪いな。寝る所を用意してくれるだけじゃなく、こんなにも馳走になっちまって」

 女はアイに布を一枚かけてやり、首を横に振った。

「いえ、山賊から助けていただいたお礼ですし。もちろんそれだけではないのですけれど・・・」

 と女は目を伏せた。

「本当は今日出稼ぎに行っている夫が帰ってくるはずだったのですが、それが急に帰れないと。久方ぶりに会う夫に腕を振るおうと思ったのですけれど」

「それは、何というか、すまねえな」

 と大江は盃を置いた。

「謝らないでくださいな。どうせ私一人では食べきれないのですから。こうやって喜んで誰かが食べてくれた方が作った方としても嬉しいです」

 女は大江の盃に酒を注ぐ。

「それにお酒は一人で飲むより、こうやって誰かと飲む方がおいしいでしょ?」

「お、おう。そうだな」

 女は艶やかな笑みを浮かべた。

 どうにもよからぬ考えが首をもたげるので、それを飲み込むように大江は酒をあおった。

 鬼とはいえ、こんな美人を一人置いて行くのは旦那もさぞかし心配だろうと、何とか大江は旦那の同情に心を移せた。

「つかぬ事を聞くが、旦那さんも鬼か?」

「ええ、そうですが。それが何か?」

 そうであるわなと、大江は言葉を咀嚼する。

 それが普通で、鬼と人となど。

「今、幸せか?旦那さんとこんな風に離れ離れで」

「大江様、それはもしや口説いておいでなのですか?」

 悪戯っぽく笑む女に大江は真剣な眼差しで答える。

「そんなんじゃねえぇ。ただ幸せなのかと聞いている」

 女は大江から視線を外し、表情を曇らせた。

 まるで様々な感情を編み込んでいるようだった。

「そうですねぇ・・・幸せだったのでしょうね」

 女は辛そうな顔を一瞬見せ、ついでぱあっと明るい笑顔を張り付けた。

「私の事などどうでもいいじゃありませんか。どうぞ今夜は楽しく飲みましょう」

 女は空になった盃になみなみと酒を注いだ。

「すまんな」

 そう言って、大江は盃をすっと空けた。

 虚空を見つめ、思い浮かぶは光の事。

 何処かでのたれ死んでやしないか。

 いらぬことに首を突っ込んではいないかと。

 心配事が大江の頭をよぎる。

(親兄弟でもないのに、何でこんなに心配しているんだか)

 と自嘲を漏らし、大江は酒を口に運ぶ。

(そうだよ。あちらには綱がいる。人は人同士仲良くやっているだろう。こちらも鬼同士仲良く・・・アイじゃ、なぁ)

 大江が見てやると、アイはいびきを立て、よだれまで垂らして寝ている。

(かといって人様の女に手を出すのはまずいし。まあ、気楽な一人旅って言うのも悪くはないか。アイには悪いが、寝ている隙に先に出ちまうか)

 大江はそう思い、酒を注いでくれている女を見た。

 見ると、女の手が震えている。

「どうした?具合でも悪いのか?」

 トントンと戸を叩く音がした。

 大江に嫌な予感が走る。

(旦那が帰ってきたのか?いらぬ勘繰りされなきゃいいけど。修羅場はごめんだぜ)

 女は戸を開けようと腰を上げようとするが、それよりも先に戸が開いた。

「お前は!?」

「なかなかに楽しそうな酒宴だ」

 現れたのは阿部。

 事を構えようと大江は立ち上がろうとするが、うまくいかない。

 酔いのせいかとも思ったが、違うようだ。

 手足がしびれる。

「何か酒に盛ったのか」

 低い語気で女を責めると、女は大江から視線を外した。

「すみません。夫が人質に取られて・・・」

 切り返して、視線は阿部を斬りつける。

 だが、あいにく殺気だけで人を殺める事は出来ない。

「何をそんな恨みがましい顔をしているのだ。これまで散々外道を歩んできたのだろう。これも因果応報と言うものだよ」

「てめぇは鬼を何だと思ってやがるんだ。鬼はてめぇみたいな卑怯な真似はしねぇ」

「卑怯とは心外だな。こういうのは知恵を使ったと言うのだよ。愚か者」

 阿部は這いずる大江を見下し、金環を大江の首に付けた。

「うおおおぉぉぉ!!」

 咆哮はまどろみの中に、意識は鬼の血の定めの中に。

「ひか・・・る・・・」

 途切れる視界の中、空を掴む大江の手は届かない。

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