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鬼奇譚  作者: 山羊ノ宮
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別れ

 闇は深く、月と星以外の光が無い故、ものの姿を捉えるのは容易ではない。

 それこそフクロウのような目でも持っていなければ。

 しかし、そのような目を用いないでも光達の場所は簡単に知れた。

「どういう事だ!綱!」

「だから、先程も言った通り僕は幼少の頃からあのような鬼の姿を見ていたから。僕にとってはあっちの方が鬼らしいんだ。別に僕にとっては普通の光景だ」

 近くにまだ阿部が潜んでいるかもしれないと、わざわざ火をおこさないでいるのに大江の大声で全くの無駄である。

「あれを見て、普通だって?お前、頭おかしいんじゃねぇのか?」

 神経質に叫びながら、大江は綱の襟元を掴みあげる。

 どうにも大江には阿部の使令の鬼の姿が刺激的すぎたようだ。

「止めないか、大江」

「何だ、光までこいつの味方をするのか?」

「そう言う事ではない。いい加減にしないか」

 体躯は明らかに大江の方が大きい、しかし、光の目には逆らわせない力強さがあった。

 舌打ち一つ、大江は綱の服から手を引き、光達に背を向けた。

「何処へ行く?」

「何処だっていいだろ」

「碓井殿には大江やアイとは離れないと言った」

「知るか、そんなもの。それはそっちの都合だろうが。俺は俺の好きなようにやる」

「私の親の仇討ちを助けてくれるのではなかったのか?」

「はん。今は綱がいるだろ。俺がいなくても別に大丈夫だろうよ。それとも何か?やっぱり俺がいないと駄目なのか?」

「無論光様は僕が守る」

 無様な意地の張り合いだと、光からはため息しか出てこない。

 大江にしてみれば光達との関係を綱に否定されたような気になった訳であるし、綱にしてみれば光にとって役に立つのかと、否定されている様な気になったのだろう。

「じゃあな、世話になった」

「大江」

 去りゆく背中に何と声をかければいいか分からなかった。

 ただ名を呼んだ。

「何だ?俺がいなくなったらさみしいとか言うんじゃないだろうな」

「さみしいと言えば、お前は残ってくれるのか?」

「止めておけ。光の柄じゃねぇよ。元より俺達は鬼と人間。住む世界が違った。それだけだ」

 光にも大江の気持ちが少しは分かる。

 おそらく隔たりを感じたのだろう。

 そして、大江にとって鬼であるという変え難い事実が、光達の足かせになると感じたのであろう。

「アイ。すまないが、大江を頼む」

 小さくなっていく背中に出来る事は限られていた。

 アイは用件を頼まれて、綱を見るが、綱はそっぽを向いたままである。

 綱としては先程まで言い争っていた相手を頼むとは言い難い。

 もちろん大江の事を心配しないでもないのだ。

 トカゲのしっぽ切りをしたみたいでいい気分も出ないのも事実。

 アイはそんな綱の心情を察知し、頷いた。

「光も綱様の事頼むべ。オラがいないうちに悪い虫がつかないようにちゃんと見ていて欲しいべ」

「頼まれた」

「それに光が綱様に手を出したりしても駄目だべ。そん時は光といえどもただじゃすまないべ。もちろん一時の気の迷いってのもなしだベ」

「大丈夫だ。アイ。天地神明に誓ってそれは、ない!」

 断言する光に綱はそんなぁと情けない声を出す。

「綱も年頃、美人を見かけて声をかけるなとは酷かもしれぬが、私の保身のためだ。我慢しろ」

 そういうことではと、綱は口の中で呟く。

「じゃあ、行くべ」

「ああ、気をつけてな。出来たら大江を・・・」

 連れ戻してと言いかけて、はたしてそれが大江にとって幸かと言い惑った。

「どうするだべか?」

「・・・一発殴っといてくれ」

「分かったべ」

 そして、アイは大江を追い、その姿を消した。

 道連れが二人減っただけである。

 なのに、この空漠感くうばくかんは何であろう。

「私は親の仇の四本の角を持つ鬼を討つ」

 光は自分の目的を口にして、ギュッと安綱を握り締めた。

 あの日の悲しくも晴れやかな夕日がひどく懐かしかった。

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