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鬼奇譚  作者: 山羊ノ宮
2/15

橋の上の再会

「さすがに都となると人も多いな」

 朱塗りの欄干に背を預け、大江は感嘆の声を上げる。

 大江と光は都に来ていた。

 もちろん四本の鬼のを求めてのこと。

 同じ鬼である大江であったが、四本の鬼の話は聞いたことはないというので、鬼のうわさを頼りに一つ一つ当たっていくしかなかった。

  橋の上の往来は激しく、活気に満ちていた。

「どうしたよ、光?」

 大江は落ち着きない光に一声かける。

「そんなにきょろきょろしてたら田舎者丸出しだぜ。まあ、珍しいのは分からんでもないがな」

「違う!私はただ知り合いがいないかと・・・」

「はん?知り合い?確かお前天涯孤独の身じゃなかったのかよ」

「それはそうなのだが・・・」

 と光が言い淀んでいると、何処からか光の名を呼ぶ声が聞こえた。

「やっぱりあいつだ。あいつは幼い頃から私を見つけるのがうまくて、何処にいても見つけてくるんだ」

 人目を気にせず、光の名を叫びながら駆けてくるのは美少年。

 その身なりもしっかりとしていて、その場にそぐわない高貴な者であると分かる。

「光様!・・・はあ、はあ、はあ・・・探しましたよ!今まで一体何処にいたんですか?都じゅう探したのに見つからなくて。僕がどれだけ心配したと思っているんですか!」

「す、すまん」

 光は小柄な身を大江の大きな体躯に隠しながら、美少年に謝る。

「さあ、一緒に来てください!」

 こそこそと隠れようとする光の手を無理やりに掴もうとする美少年。

 すかさず大江が割って入る。

「おい、坊ちゃん。光が嫌がってんじゃないか。止めなよ」

「なんだお前は?邪魔をするな。それに光様を気安く呼び捨てるとは。一体何者だ?」

「夫だ」

 ぼそりと言う光の言葉に男二人は動揺する、

「ばっか、何言ってんだ。光!」

「おっ・・・と」

 大江が見ると、美少年は涙をぽろぽろ流し、呆然自失であった。

 乾いた笑いが漏れている。

「いや、なんだ。これは光のちょっとした冗談だ。ああ、光は冗談が下手でな。いつも笑えない冗談を言うんだ。気にするな。うん」

「冗談ではない。正真正銘大江は私の夫だ」

「おい!光!」

 激昂する大江の襟元を引きよせ、光はこそこそと耳打ちをする。

「すまん。だが、これしか奴から逃れる術がないんだ。協力してくれ」

「協力って・・・いいのか?こいつものすごく動転してるぞ」

「構わん」

「なら、いいが。ちゃんと後で説明しろよな」

「無論だ」

 内緒話を終え、大江は一つ咳払いをする。

 そして、美少年の肩を叩いた。

「すまん。光は俺の嫁だ」

 するとみるみると美少年の顔が歪む。

 仕舞いに声を上げ、泣きだし、その場から去っていった。

 その光景を見送り光は一息つく。

「ふう、行ったか」

「行ったかじゃねぇ」

 ゴチンと光の頭が叩かれ、光は撃沈する。

「痛いじゃないか!」

「当たり前だ。痛くしたんだからな。ったく、男泣かすたぁ、とんだ悪女だな、お前は」

「仕方ないだろ。あのまま連れて行かれる訳にはいかなかったんだ」

 頭をさすりながら、目線を落とす光。

 その目には涙が。

 もちろんに痛みによる涙ではある。

「で、訳を聞かせてもらおうか?」

「訳・・・か?」

「説明すると言っただろうが」

「そうだったな。うーむ。何から話してよいものやら」

 思案している光。

 沈黙を待ち切れずに大江が逆に質問をする。

「あの坊ちゃんは一体何者なんだ?光の事をよく知っていたみたいだが」

つなか?綱は私の家に仕えていた家の者で、幼い頃からの知り合いだ。私が親を亡くした後、後見を申し出てくれたが、断った」

「何で?いいとこの坊ちゃんだろうが。それにお前もそうだったんだろ?」

「皆まで言わせるな。もちろん親の仇を討つためだ」

 大江は大きくため息をつく。

「光。今からでも遅くねぇ。坊ちゃんところに行きな」

「なっ?!」

「お前の仇の四本の角を持つ鬼だったか?そいつは俺が見つけたら倒しといてやるよ。だから、お前が戦う必要はねぇ」

「馬鹿言うな!そんなことできる訳ない!」

「わがまま言うなよ。光。お前もこの間鬼と戦った時思っただろ。自分じゃ太刀打ちできないって」

「・・・お前だって肩腕じゃ」

「それなら光の安綱を貸してくれ。それで肩腕の代わりになるだろ」

 光は腰に携えた鬼切の刀、安綱を見てやる。

「・・・お前もあの方と同じような事を言うのだな」

「あの方?」

「私の命を助けてくれた宮仕えの陰陽師だ。あの夜、偶然にも我が家の近くを通りがかったそうだ。そして、鬼気を感じ我が家に踏み込んでくれたのだ。もしあの方が来なかったら私の命はなかった。あの方は言った。私の親の仇は自分が討つと。けれど、待てど暮らせどそんな一報は来ない。もうそんな約束忘れているのかもしれないな。いや、もしかしたらその場限りの慰めの言葉だったのかもしれない」

「光・・・」

「だからな、大江。私は旅に出たんだ。人を頼るのはもうやめたんだ。私の力が例え及ばないとしてもそれでも何もしないよりはましだと思ったんだ」

 大江は光の言葉を噛みしめ、「分かった」と言った。

「そうか」と光も笑み、答える。

「とりあえずは夜を待つか?」

「そうだな。この橋に出ると言う女鬼とやらを待とう」



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